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「働き方改革」PRは「社会保障費抑制」隠し

「働き方改革」PRは「社会保障費抑制」隠し
小泉進次郎議員らの自民小委が改革議論の主戦場に

「安倍(晋三)首相の厚労省に対する不信感は相当のものであると、あらためて認識させられた」──。自民党ベテラン議員があきれ顔でこう語った。

 8月上旬に行われた内閣改造の目玉の一つである「働き方改革担当相」に、安倍首相が最側近の加藤勝信・一億総活躍相を兼務させたことへの指摘だ。

 「安倍政権は働き方改革をどうしても成功させなければならないと考えているが、厚労官僚は信用ならないということだろう。気心が知れている加藤大臣ならば指示を出しやすいとの思いではないか」と推測する。

塩崎・加藤、実質「2人の厚労相」
 厚労行政に詳しい自民党議員OBも「実質的に、塩崎(恭久)、加藤という2人の厚労大臣がいるような状況は正常とはいえない。塩崎厚労大臣と加藤担当大臣との縄張り争いが起こりはしないか」との懸念を隠さない。

 「労働政策は本来、厚労省の所管業務だ。安倍政権が働き方改革に力を入れそうだということで意気込んでいた塩崎大臣のメンツは丸つぶれとなった。これまでも1億総活躍での介護離職ゼロや待機児童ゼロは、厚労省の担当局の局長が知らないところで政策が決められていたが、今度も同じだろう。2人の厚労大臣に仕えなければならない現在の厚労官僚たちは大変だ」と気の毒そうな表情で語った。

 すでに前哨戦は始まっているようだ。厚労省OBは「働き方改革は加藤大臣1人でできるわけではない。結局は、厚労省から内閣府の加藤大臣の下に集められる厚労官僚に頼ることとなる。だが、これは塩崎大臣にとっては面白くない。塩崎大臣は気難しい性格で知られるが、1億総活躍プランをまとめた際も、加藤大臣の下で働いていた厚労官僚をたびたび厚労省の大臣室に呼び付け、『自分の部下であることを忘れるな』とくぎを刺していた」と明かす。

 だが、安倍政権の内情をよく知る永田町関係者は、「それは一面的な見方をしているにすぎない」と否定的に話す。「安倍政権が加藤大臣を担当相に任命し、働き方改革をクローズアップするのはカモフラージュだ」というのである。

 まず指摘したのが「首相は、アベノミクスと相容れない消費税増税に乗り気でなく、社会保障と税の一体改革にも熱意が薄い」という点だ。「年金受給資格要件の10年への緩和で『税率10%時』となっていたスケジュールをあっさり崩してしまったことが何よりの証拠」と述べる。

 その上で「安倍首相は消費税増税の代替財源として、アベノミクスの果実を社会保障費に充てる考えを打ち出したが、それだけではうまくいかないことを一番よく知っているのも首相自身だ。官邸サイドは声高に語ろうとしないが、社会保障費の本格的な抑制に取り組むしかないと考えている。ターゲットは医療・介護だ。国民の懐が痛む医療費などの負担増が政治問題化しないよう、働き方改革を華々しくメディアに取り上げさせ、世論の関心がそちらに集まるよう仕向けようとしている」と解説した。

 自民党ベテラン秘書が続けて語った。「働き方改革については、国民に取り組みをアピールすべく有識者会議は派手に展開していくことになるだろう。これに対し、社会保障制度改革の方は塩崎大臣に着々と進めさせていくというシナリオを描いている」という。

 そして、「首相の塩崎大臣へのミッションは、厚労族議員へのけん制だ。そのために塩崎氏を厚労相に留任させたといってもよい。首相の狙いは加藤、塩崎両大臣に忠誠心を競わせるところにある。両大臣は首相のミッションをどれだけ実現させるかアピール合戦となる」と予測した。

 先の永田町関係者も「安倍官邸は塩崎大臣を厚労族のけん制役として使おうとの考えだろう」と読み解く。「安倍政権における社会保障改革は、厚労省ではなく官邸主導で決められている。安倍政権下で厚労族議員は存在感を発揮できていない。安倍首相は消費税増税延期や一体改革を無視する姿勢に対しても、表だって大きな反論にはなっていない」との指摘である。

 では、安倍官邸は具体的にどのような改革を進めていくつもりなのか。この永田町関係者は「厚労省の審議会では70歳以上の医療費窓口負担の引き上げや介護保険の福祉用具貸与費用の対象縮小の議論が始まっている。すでに、医師数の過剰見通しや全国の入院ベッドを1割以上削減できるとの推計を発表したが、官邸サイドの了解なしにこうした数字が表に出てくることはない。厚労族議員や日医(日本医師会)が反対しそうな政策に切り込んでいくことになる」と見立てる。

「世代間格差の是正」を掲げる小委
 こうした見立てに関して、安倍首相と近い自民党中堅議員は「安倍首相は、小泉進次郞(衆院議員)たち若手議員による『2020年以降の経済財政構想小委員会』を社会保障改革の議論の場として活用しようと考えているようだ」と明かす。

 「小泉氏たちの小委員会で改革方針の方向性を打ち出し、これを受けて塩崎厚労相が厚労省で政策として練り上げていくといった流れになるのではないだろうか。小委員会は参院選前こそ抑制的だったが、安倍首相のお墨付きを得て、いよいよ本格的に動き出した。背後には財務省の思惑もあるのかもしれない」と予想するのである。

 一方、名前の挙がった財務省の中堅幹部は「首相官邸の意向はよく知らない」と慎重な話しぶりながらも、「自民党の小委員会は注視している。かかりつけ医以外で受診した場合の医療費定額負担制度や、医師の偏在解消に向けた自由標榜および自由開業の制限、高齢者の窓口負担引き上げといった課題が議論されるとも聞いている。ここが主戦場になるなら、当然、われわれとしての改革のアイデアを仕込んでいくことになる」と踏み込んだ。

 安倍官邸主導で進みそうな医療制度改革だが、厚労族議員とも近い自民党関係者は「参院選前、厚労族議員は小委員会が暴走しないよう、お目付役を送り込んで議論の方向性をコントロールしようと画策してきたが、こうした動きを安倍官邸は冷ややかに見ていたのだろう。むしろ首相サイドと裏で手を結んでいたのは小泉氏たちの方だったかもしれない」と疑念の目を向ける。

 どうやら、形勢は厚労族議員にとって圧倒的に不利なようだが、高齢者の負担増を中心とした改革案には高齢者の反発が予想される。「世代間格差の是正」を旗印とする小泉氏たちの小委員会が、どこまで若者の声を束ねられるかも不透明である。

 今後の世論の動向次第で、安倍官邸の描くシナリオが大きく書き換えられる場面も出てきそうだ。

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