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CFSコーポレーション

CFSコーポレーション
「夢とロマン」を追っていたドラッグストアが イオン流利益優先主義に変貌

 イオン傘下のドラッグストア「CFSコーポレーション」の調剤薬局「ハックドラッグ」で薬歴未記載が発覚し、ドラッグストア業界を驚かせた。大手ドラッグストア「ツルハ」傘下の「くすりの福太郎」に続く不祥事である。CFSは静岡、神奈川を中心に311店舗を展開する中堅ドラッグストアで、薬歴未記載だったのは108店の調剤薬局中の20店舗で7万8140件に上ると発表した。くすりの福太郎の薬歴未記載17万件より少ないが、CFSは最も尊敬されたドラッグストアだけに業界に与えたショックはより大きい。しかも、くすりの福太郎は親会社ともども謝罪したが、CFSはホームページに謝罪文を掲載しただけ。発覚から1カ月近くたった4月9日の決算発表の席で初めて謝罪したことにも批判が上がっている。ドラッグストア業界では「イオンの傘下に入る前のハックドラッグだったら、こんな不祥事は起こらなかっただろう」とささやいている。

イオンと対立して子会社化の憂き目 

CFSは中堅ドラッグストアにすぎないが、ドラッグストア業界では一目も二目も置かれる存在だった。創業者の石田健二氏は父親から横浜市の「イシダ薬局」を継いだ薬剤師だが、アメリカをたびたび視察し、医薬品、食品、化粧品、日用品を扱うドラッグストアが急成長しているのを参考に、1976年、日本最初のドラッグストアを横浜に開店した。しかも、薬局の将来を模索する経営者仲間と勉強会をつくり、ドラッグストア時代の到来を教えるばかりか、経営指導も行い、ドラッグストア業界から「先覚者」「ドラッグストアの神様」と尊敬されていた人物だ。

 石田氏は「夢とロマン」を追い求め、アメリカでドラッグストアが薬と食品を中心にするコンビネーションストアに変貌する時代になると、静岡県でスーパーとドラッグストアを経営する「キミサワ」と合併。次いで、アメリカではドラッグストアがコンビネーションストアから「ウォルグリーン」に代表される、調剤を中心にしたドラッグストアが急拡大する時代に変わる中、日本でも院外処方箋に切り替わる時代に合わせてイオングループから離脱、調剤薬局大手の「アインファーマシーズ」との統合に走った。しかし、統合に反対する大株主のイオンと対立。プロキシーファイト(委任状争奪戦)を演じた末、破れて退任。2008年、CFSはイオンが50%強の株式を保有する子会社に組み入れられた。

 CFSは、やはりイオンの子会社になった大手ドラッグストア「ウエルシアホールディングス」と、今年9月に経営統合する。統合後には売上高は単純計算で5142億円に達し、業界最大手のマツモトキヨシを抜いてトップに立つ。

 ウエルシアHDの母体は埼玉県のドラッグストア「グリーンクロス・コア」で、合併を重ねて大手の仲間入りを果たした。CFSと同様、イオンのグループ「イオン・ウエルシア・ストアーズ(現ハピコム)」に加わっていたが、創業者の鈴木孝之氏がイオンには30%の株式しか持たせず、子会社になることを阻止してきた。だが、昨年3月に鈴木氏が亡くなると、第三者割当増資をさせてイオンが過半数の株を取得、子会社化した。イオンは総仕上げにCFSとウエルシアHDを合併させることで、業界トップのドラッグストアを傘下にできる。しかも、CFSはイオンの子会社になる前にアインファーマシーズとの統合を試みたように調剤薬局に進出している。一方、ウエルシアHDは傘下のウエルシア薬局が調剤にポイントを付与するサービスを真っ先に始めたように調剤への進出に熱心だ。イオンはこの2社の合併で調剤に強いドラッグストアを確保したことになる。

効率主義が薬歴未記載事件の引き金

 CFSが薬歴未記載という調剤薬局として最低の不祥事を起こした背景には、イオンの子会社化があると指摘する声は多い。売上10兆円を目指すイオンは表面的には模範的な企業であることをうたいながら、その陰では目標達成のために売り上げ拡大競争、利益至上主義に陥っているからだ。それもドラッグストアの経営に熟知しないままCFSに利益を追い求めるからだというのだ。

 CFSは昨年、17年2月期までの中期三カ年経営計画を策定したが、その中身は「新店による成長ではなく、既存店を活性化させることで、利益体質店舗への転換に取り組む」と宣言。具体的には、売上高や利益面で貢献度が高い店舗には増床となる改装、食品売り場の導入・強化し、採算の見込めない店舗は閉鎖またはリロケーションを行うことで経営効率の改善を進める、というものだった。この2月期がその1年目に当たり、34店舗の活性化を図ったというが、それは裏を返せばノルマを課したといえる。この効率主義が薬歴未記載事件の引き金になったようだ。

 CFSの宮下雄二社長は15年2月期の決算発表で「調剤薬局部門の売上は108店舗で対前年9.5%増の184億7900万円になった」と発表。ドラッグストア全体の売上が2.6%増の1205億円だから調剤部門が売り上げ増の原動力だった。効率経営に徹し、薬歴記載を放ったらかして売上にしていたことになる。

 ある幹部が薬歴未記載の原因を語る。「多くの調剤薬局は患者から聞き取った服薬履歴のメモを閉店後、2時間くらいかけてパソコンに入力する。ところが、午後6時以降に入力をすると残業手当が必要になる。給与の高い薬剤師が残業すると、残業代がかなりの額に上る。会社のトップは人件費が増えることを嫌い、『残業せずに帰れ、入力は明日、暇なときにやれ』と言う。明日になると、日中は忙しく、パソコンに入力する暇がなく、また薬歴のメモだけが積み重なる。その結果、メモだけが山積みになっていたというのが真相です」。

 ドラッグストアは薬剤師が集まらないため、初任給を600万円くらいにしているところも少なくない。門前薬局の約1.5倍の給与だ。高額給与の薬剤師が頻繁に残業されてはたまらない、というのは分からないでもないが、効率経営を図り売り上げ、利益増を第一にし、薬歴をきちんとパソコンに入力しないのは調剤報酬をかすめ取っているというに等しい。

 厚生労働省の唐澤剛保険局長が参議院の厚生労働委員会で「不正請求が確認された場合、調剤報酬(41点ないしは34点)の返還も含めて厳正に対処したい」と答えたが、医療機関の診療報酬請求に不正があった場合、即、返金を求められるのと同様でなければならないはずだ。ともかく、CFSが薬歴未記載のまま放置し、薬剤服用歴管理指導料を処方箋1枚につき41点を受け取るという売り上げ拡大、利益優先路線に突っ走っているのはイオンの経営状態と無縁ではない。

経営陣に必要なコンプライアンス教育

あるイオンの関係者は「世間ではイオンとセブン&アイホールディングスを2大流通業者として比べるが利益ではイオンは引き離されている。それもセブン&アイがコンビニで稼いでいるのに比べ、イオンは稼ぎ頭と呼べるものがない」と言う。

 稼ぎ頭だったイオンモールも最近は苦戦中だ。客は集まるが、買物をしない人が多く、売上、利益を上げているモールは数カ所しかないという。

 「岡田元也社長は売上を増やすためにドラッグストアを子会社にすることを考え、その第一歩が反旗を翻したCFSだった。しかし、CFSは中堅ドラッグストアにすぎない。イオンを支える柱にするためにウエルシアを子会社化し、両者を合併させることに成功したが、化粧品や日用品の販売が多いドラッグストアでは消費の波がある。もっと売上が大きく安定していて、かつ、利益が多い調剤部門を伸ばして収益の柱にしようと計画。調剤薬局化を進めた」(ある関係者)

 CFSの宮下社長自身、ジャスコ(現イオン)の出身だ。イオンにもドラッグストアや調剤に明るい人はいない。イオントップの求めに応じて収益を追うことに邁進していた結果、調剤薬局の義務である服薬履歴管理指導より人件費を抑えることに熱中したという。薬歴の重要性など分からないのかもしれない。

 あるイオンの幹部が打ち明ける。「実はイオンの内部には平林秀博執行役員がグループ全体のドラッグ・ファーマシー事業最高経営責任者だった。ところが、彼はダイエーに対するTOB(株式公開買い付け)の際、インサイダー取引を行っていたことで、昨年、証券取引等監視委員会に摘発された。以来、イオンの内部にはドラッグストアのことが分かる人は1人もいない」。

 宮下社長は薬歴未記載事件への対応として、幹部や薬剤師への医療人としてのコンプライアンス教育の徹底、薬剤師の指導や薬歴転記時間のスケジュール化の徹底、転記するスペースを確保するための調剤室の改装、薬歴転記のスピードを上げるための最新のレセコンシステムの導入などを挙げた。だが、本当に必要なのは、イオン内部も含めたCFS経営陣に対する医療人としてのコンプライアンス(法令順守)教育なのではなかろうか。

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