内部告発で無資格調剤が発覚 犯人探しで隠蔽体質も露呈
薬剤服用歴(薬歴)未記載事件が発覚した調剤薬局の不祥事にとどめを刺す事件といえる。大手調剤薬局「ファーマライズホールディングス」で明らかになった無資格調剤だ。かねてから大手調剤薬局では忙しくなると、薬剤師資格を持たない事務員にピッキング(計量調剤)をやらせているといううわさが絶えなかったが、内部告発で無資格調剤が事実だったことが判明した。
同社の悪質さは、内部告発を受けて行われた保健所の立ち入り調査に対しても、業界紙の問い合わせにも「無資格調剤はない」と説明し続けたことだ。
朝日新聞が一面で伝えたことで、やっと「無資格調剤が1店舗で行われたことが社内の再調査で分かった」と認めた。ファーマライズは東証一部に上場した直後で、大手紙の報道で信用失墜、株価下落を招く懸念がなければ、保健所も業界紙もだまし通すつもりだったのではないか。大野利美知社長は大手調剤チェーンで構成する日本保険薬局協会の常務理事であるにもかかわらず、だ。
社内調査よりも告発者探しを優先
同社の悪質さは飛び抜けている。厚生労働省関係者によれば、内部告発を受けたのは厚労省と保健所、全国紙2社に複数の業界紙だという。告発を受けた保健所がさっそく内部調査に入ったが、会社幹部や店長、あるいは薬剤師が認めなければ、確認が取れない。保健所は無資格調剤があったかなかったかは指摘せず、ユニフォームで薬剤師と事務員を区別できるようにすること、誤解を与えないように対応することを求めただけで終わった。覆面調査でもない限り無資格調剤をしているかどうかは分からない。それをいいことに同社は口を拭ってしまうつもりだったようだ。
この立ち入り調査を機に、業界紙が内部告発を紹介。麻薬と小児用以外の医薬品の錠剤、散剤の計量調剤(ピッキング)、軟こうの練り合わせなどを事務員にやらせていたと伝えた。これに対し、同社は「事務員に薬剤師法違反に当たるような調剤をやらせることはない」と回答。それどころか、内部告発した犯人探しを始めたという。告発の内容が事実かどうか社内調査するより、内部告発者を黙らせれば、事件をウヤムヤにできると考えていたことは容易に想像できる。
しかし、内部告発から3カ月後の5月になって朝日新聞が報じたことで、ついに「1店舗で起こったことがあった」と認めざるを得なくなった。もっとも、内部告発を報道しなかった他の全国紙よりはマシだが、朝日新聞は無資格調剤を認めさせるため、ファーマライズに告発の肉声テープを聞かせたとも肉声のテープを文章化したものを見せたともいわれている。日ごろ、内部告発者の権利を守れ、保護すべきだ、という主張と懸け離れていると不満を漏らすライバル紙の声もある。
こうしてファーマライズの無資格調剤事件は明るみに出た。この事件に妙に納得しているのがライバル店やジェネリック医薬品メーカーだ。
「大野社長は薬剤師ではない。高卒で医薬品関係の会社にいた人らしいが、1987年に東京・湯島に調剤薬局を開いたのが事業の始まりで、常務を務める夫人と二人三脚で働いていた。が、次々に調剤薬局を買収し、瞬く間に200店舗を超える大手調剤チェーンに成長。どこにそんな資金があるのかと思っていたが、なるほど、給料の安い事務員に調剤させてもうけていたとは……」(ライバル薬局)
「1店舗・繁忙期だけ」の疑念
だが、大野社長は無資格調剤など大した問題ではないと考えているらしい。事件に対しても同社のホームページに「本日の一部報道に係わるお詫びとお知らせ」を掲載。「1店舗で処方箋の受け付けが集中した繁忙時に薬剤師の管理下で一部の混合作業を補助した事例があった」と認めただけで口をつぐんでいる。大野社長が常務理事を務める保険薬局協会の記者会見でコメントを求められても「アー、ウー」に終始したと伝えられている。
ある証券アナリストが言う。「大野社長は上場直後に雑談で『散剤の練り合わせや一包化は薬剤師がやっていたが、今は機械でやれるようになった。薬剤師以外の人がやると違反で、機械がやると適法というのはおかしい』と語ったことがある。今から考えると、事務員が機械の代わりに調合したにすぎない、大した問題ではないという考えなのだろう。1店舗だけでなく、多くの店舗で事務職員がピッキングしていた、いや、させていた疑いがある」。
確かに、薬剤は製薬会社により薬局で手間のかからないような剤形にされているし、調剤は機械化され、「薬剤師はハサミと料金計算用の電卓があればできる」などとうそぶく製薬会社の社員もいる。そもそも「薬剤師の管理下で行われる事務員のピッキングはグレーゾーン」という声もある。
しかし、薬剤師以外の人がピッキングするのは明らかな薬剤師法違反。内部告発者は「ピッキングをやらされるたびに不安があった」と語っているという。もし、サービスするつもりで医薬品の分量を多めに調剤していたら、もし、患者が服用後に体調不良を訴えたらどうするのか。同社が掲げる「安心してご利用していただくために」という理念に反する。
無資格調剤をしていたのはさいたま市浦和区の薬局だが、同社が言うように「1店舗だけで、それも超繁忙時」だけではない。内部告発によれば、「始終、ピッキングをやらされていたし、他の店舗でも日常的に行われていた」。さらに、内部告発が明らかになると、事実調査より犯人探しに走った。事件の火消しに躍起になったことで、同社の隠蔽体質がうかがえる。
同社は「医薬情報研究所」という組織を持っている。前身は97年に名古屋店に併設した「日本薬物動態研究所」で、2006年にファーマライズ医薬情報研究所と社名変更した組織だ。研究所の目的は「ジェネリック医薬品に対する取り組み」とうたっている。
「設立当時、政府はジェネリックの普及率30%を目標に掲げていたが、なかなか医師からも患者からも受け入れられなかった。日本薬剤師会が行ったアンケート調査によると、ジェネリックに対して多くの人が『効果に疑問がある』『使用感が合わなかった』『不安がある』と回答している。そこで、研究所で成分、特に増量剤を徹底的に調査し、安心して使用できるジェネリックを推奨したい」と大野社長も役員も語っていた。
当時、医療費抑制のために政府がジェネリックの普及に躍起となっていた時代で、同社は政府方針に合わせて「信頼できるジェネリック」を選定し推奨したいと設立目的を語っている。
品質問題に名を借りて嫌がらせ
ところが、この医療情報研究所に対するジェネリックメーカーの批判、反発は根強いのだ。
「成分を分析し、信頼できる医薬品を評価するという建前のジェネリックメーカーたたきですよ」というのは、あるジェネリックメーカーの幹部。「成分は先発品もジェネリックも同じだが、増量剤や製法に違いがある。増量剤に何を使うかは新薬メーカーもジェネリックメーカーも企業秘密。新薬メーカーが増量剤の成分を公表したら、ジェネリックと全く同じ製品になってしまう。しかし、研究所はジェネリックの増量剤を調べて一覧表の本を作り、『どこのメーカーは増量剤の成分を公表していない。隠している』と保険薬局協会の学術会などで発表している。品質問題に名を借りた嫌がらせだ」。
もっとも、調剤薬局はジェネリックも医薬品卸を通して仕入れるため、卸は批判されたメーカーの仕入れ価格を下げるわけではない。といって、メーカーからインセンティブを得るわけでもなさそうだ。それでも「お前のところは増量剤の成分を公表していない、などと言われるのは嫌なもの」(ジェネリックメーカー幹部)。目的は不明だが、医薬品の体内での動態調査を装って、同社で出すジェネリックだけが信頼できるジェネリックだと宣伝する道具に使っているのではないかという。
今日でこそ、ジェネリックという名前が定着したが、かつては新薬の特許が切れると、ゾロゾロと出てくるところから、ジェネリック医薬品のことを新薬メーカーは「ゾロ」とか「ゾロゾロ」と呼び軽蔑していたし、影の薄い存在だったからいじめやすかったのかもしれない。さらに、研究成果の名前でジェネリックを選別していたのは想像に難くない。
研究所の〝成果〟をうたい、同社の信頼性を印象づける一方、07年にジャスダックに上場して資金を得たことで薬局買収を加速させた。それまでの買収は地方の数店を経営する調剤薬局だったのを中小薬局に拡大。200店舗を超える調剤薬局チェーンに成長し、大手調剤薬局の仲間入りを果たした。
だが、今回の無資格調剤事件で、同社の患者無視で利益追及する仕組みの一端が露呈した。調剤室の中で行われていることは患者には分からないし、保健所をごまかすことも可能だ。もはや、同社は良心に欠けた「信頼できない薬局」というしかない。
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