
医療費の患者負担に上限を設けている高額療養費制度について、政府は限度額を一律に引き上げる当初案を修正し、治療が長期に亘る患者の自己負担は据え置く方針に転じた。更に2月末には引き上げの一部、3月には全面凍結に追い込まれた。厚生労働省内からは「拙速過ぎた」(幹部)と反省の声が漏れている。
「長期に亘って療養を続けている人達の思いに最大限、寄り添う必要が有ると判断した」。2月14日、福岡資麿厚労相は「全国がん患者団体連合会」の天野慎介理事長等と会い、高額療養費の見直し案に関して長期の治療を受けている人の上限額は据え置く方針を伝えた。それでも天野理事長等は納得せず、見直しの凍結を求めた。
厚労省は昨年末の予算編成に合わせ、今年8月から段階的に中・高所得層対象の高額療養費の上限額を引き上げる案を示していた。近年は日本でもがんや認知症の高額な薬が相次いで承認され、保険医療財政が逼迫している。本人の分に加え高齢者の医療費も支える現役世代は保険料負担で一杯一杯。そこで浮上したのが法改正不要の高額療養費の限度額見直しだった。
現行制度では、医療費が幾ら掛かっても月額の自己負担の上限は8万円程度(平均的な所得層/年収約370万〜約770万円の場合)に抑えられている。長期の治療で12カ月以内に3回限度額に達すると、4回目からは限度額が下がる「多数回該当」も有り、4回目からは上限が4万4000円等に下がる。
当初の見直し案では例えば70歳未満で年収約650万〜約770万円の人は今年8月から10%増とした上で26年度にも上限を引き上げ、最終の27年8月には7割増の13万8600円とする方針だった。多数回該当の上限もアップさせる意向だった。︎と︎ころが患者団体等の強い反発に、多数回該当の上限は据え置きを迫られた。
又、2月28日の衆院予算委員会で石破茂首相は、通常の月額上限に関しても8月からの10%増に止める考えを示した。そして3月7日には26年度以降の第2、3段階の引き上げに関しても、「丁寧さを欠いたとの指摘を政府として重く受け止めなければならない」と述べ、先送りを表明した。
厚労省は当初案を示す前は「平均給与の伸び率を参考に10%増程度に」と説明していた。それが蓋を開けると7割増。これには省内にも「給与云々の説明は破綻している」との声が有った程だった。
高額療養費制度は「患者の命綱」とも言われて来た。厚労省保険局の歴代幹部も「患者の自己負担割合は3割ながら、実質的に2割以下に抑える良く出来た仕組みだ」と胸を張っていた。にも拘らず同省が限度額引き上げに走った背景には、石破政権が岸田政権から「保険料軽減」と「子ども・子育て支援の財源捻出」という課題を引き継いだ事が有る。只、時間が無い中、厚労省は「法改正不要」という点に甘え、丁寧に手順を踏むのを避けた。患者団体からの意向聴取や実態調査さえしなかった。
同省は当初案を示した際、患者負担が増えると受診控えも起きて総医療費の削減に繋がる「長瀬効果」を見込んでいた。2270億円程度と言うが、患者団体等の強い反発を招き、立憲民主党は衆院に見直しを凍結する法案を提出した。与党は参院選での争点化を恐れ、全て先送りした格好だ。
それでも政府・与党はこの先、来年度予算の成立と引き換えに日本維新の会と合意した「保険料の負担軽減」検討も迫られる。厚労省保険局OBは「高額療養費の見直し等によって重くて高額になる病気の患者負担を増やすのか、軽症の疾患や薬を保険外とし、医療費を広く薄く削るのか、その決断を下す時期に来ている」と語る。
LEAVE A REPLY