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厚労省研究班にまさかの「研究不正」疑惑

厚労省研究班にまさかの「研究不正」疑惑

事者「だんまり」でも厚省や大学が調査開始  理化学研究所の小保方晴子ユニットリーダー(当時)らによる論文不正の記憶も新しい中、国費を投入して行われる国の研究班に一つの研究不正疑惑が持ち上がっている。しかも、注目を集める子宮頸がん予防ワクチン(HPVワクチン)をめぐる一連の副反応問題を受けて立ち上がった「国の政策に直接関わってくる研究」(厚生労働省担当記者)だというから穏やかではな い。この前代未聞の事態に、今のところ反ワクチン派や研究代表者から明確な反論はない。

 2013年4月から定期接種となった子宮頸がんワクチンは、全身のしびれや記憶障害などの「これまでワクチンの副反応としては知られていなかった症状が報告されたため」(同)、わずか2カ月後に積極的な接種呼び掛けが中止された。この新たな症状の申し出に対して、厚労省はこれまで、さまざまな手を打っている。

 まずは、症状を訴える患者の治療体制の構築。各都道府県に1カ所以上の拠点病院を指定し、多彩な症状に悩まされる患者の治療に当たった。また、近所のクリニックなどを受診する患者に備えて、日本医師会などは診療の手引きを作製。現場には、接種後のさまざまな身体的な症状と副反応との関係を懐疑的にみる医師も、「HPVワクチン関連神経免疫異常症候群(HANS)」という新たな疾患と捉えて治療すべきと主張する医師もいる。手引きの作製にはHANSを主張する医師も加わり、苦しむ患者を第一に治療に当たることが盛り込まれた。

 治療体制の充実を図るとともに、厚労省が乗り出したのが科学研究だ。痛みや脳神経の専門家をメンバーに、厚生労働科学研究費を出して二つの研究班を立ち上げた。

 一つ目は愛知医科大の牛田享宏教授らの研究班による「慢性の痛み診療の基盤となる情報の集約とより高度な診療の為の医療システム構築に関する研究」。長ったらしい名前だが、要はHPVワクチンに限らず、慢性疼痛の診療や治療システムの構築を図ろうというものだ。研究代表者の牛田氏は同大医学部学際的痛みセンターに所属し、「日本の痛み治療をリードする権威」(厚労省関係者)。HPVワクチン接種後に体の痛みを訴える患者が多くいたことから、慢性疼痛の大家である牛田氏に白羽の矢が立った。

 牛田氏は、そもそも痛みはストレスや成長に伴うホルモンバランスなどさまざまな要因によって起きること、痛いから行動を制限するのではなく、あえて活動することで精神的な痛みを軽減することが必要だと主張。厚労省担当記者によると「これまで治療した多くの患者が回復したことも示した」という。これに敏感に反応したのが被害者たちだ。「牛田氏はワクチンの副反応ではない精神的な問題だと主張している。そんな医師の元で治療は受けられない」(被害者の母親)と反発。被害者を支援する弁護団は「ワクチン接種後の症状として、痛みはごく一部。脱力や記憶障害などの症状の方が問題だ」と痛みの問題から目を逸らす主張を展開している。

証明できていないも同然の発表  一方、被害者から反発された牛田氏とは異なり絶大なる支持を受けているのが、もう一つの研究班「子宮頸がんワクチン接種後の神経障害に関する治療法の確立と情報提供についての研究」だ。研究代表は信州大の池田修一教授で、こちらはHPVワクチンに限っての研究をしている。池田氏の最近の主張は、ワクチンの成分が脳に影響を与え、高次機能障害や多彩な症状を生み出している可能性があるというものだ。

 厚労省担当記者が解説する。

 「被害者が国と製薬企業を相手取った訴訟では、池田氏ら被害者寄りの研究者の研究や主張が取り入れられている。ワクチンが健康被害に影響しているという主張はあくまで仮説にすぎないが、影響していないと証明するのは悪魔の証明。こうした科学的な主張対立が裁判でどう判断されるか注目だ」

 ただ、影響がないことを証明するのは難しくても、影響があると主張する研究に疑義を唱えることは可能だ。それを行ったのが、医師でジャーナリストの村中璃子氏だ。これまでもHPVワクチンの被害に疑義を唱えてきた村中氏が池田氏の研究班の研究不正を暴いたのは雑誌「Wedge」7月号。そこには驚くべき研究不正の実態が書かれていた。

 池田氏は3月、厚労省で行なわれた発表会で、実際のマウス画像を示しながら「子宮頸がんワクチンを打ったマウスの脳にだけ、異常な抗体が沈着した」との成果を公表した。インフルエンザワクチンなどでは異常が起きていないことが画像で示され、HPVワクチンだけが何らかの脳の異常を引き起こすと印象付ける発表だった。これは、HPVワクチンの成分により脳障害が起きたと信じる被害者に広く受け入れられ、副反応発生のメカニズム解明につながるとしてメディアでも大きく取り上げられた。

 ところが、村中氏が実際にマウス実験を行なった研究者を取材したところ、インフルエンザなど他のワクチンを打ったマウスでも同じ異常が現れた画像があったことや、HPVワクチンで異常が現れたという画像は1匹のマウスにだけ現れた異常であったことを明かしたという。さらに画像はワクチンを「打った」マウスではなく、ワクチンを打ったマウスから取り出した血液の成分を脳切片に「ふりかけた」マウスだったという。これではワクチンを打ったことで脳に異常が現れた、という証明は何もできていないことになる。

当事者が研究の正当性を証明すべき  もちろん厚労省で行なわれた発表会で研究デザインや研究の実態は示されておらず、村中氏が得た証言がどの程度真実であるかは不明だ。池田氏も「まだ研究途上である」と断りを入れており、研究成果は論文にまとめられてはいない。だが、国費を投入して行なわれる研究にこうした疑義が出てくること自体が異常だ。

 村中氏らの指摘に対して、動いたのは池田氏が所属する信州大だ。全国紙記者によると「学内に予備調査委員会を設置し、本格的な調査が必要かどうか調査を始めた。必要となれば、学外の第三者を入れた調査委員会が立ち上がる」という。厚労省も独自に調査を始め、「研究不正があったということであれば、研究の打ち切りもあると明言した」(同記者)。

 包囲網は狭まるが、今のところ研究当事者からこの問題についての発言はない。被害者団体や弁護団もワクチンがいかに危険かを証明するため池田氏らの主張や研究を支持する姿勢だ。STAP細胞で大きく揺らいだ日本の科学への信頼。当事者らが研究の正当性を証明することしか信頼回復の方法はないのだが。

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