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大学マッチングシステムが将来を見据えた大学の改革を促す

大学マッチングシステムが将来を見据えた大学の改革を促す

システム開発に3000億円の投資」の報道は誤報

文部科学省は2024年度からの5年間を私立大学の集中改革期間と位置づけ、様々な事業を展開する。その1つに「大学マッチング」が在る。これは、少子化の影響で経営が維持出来なくなった大学同士が、連携や統合の相手を見つける為のシステムである。報道によると、文科省はその開発費として3000億円を投じるという。

 FNNの記事タイトルは「大学同士のマッチングシステム開発へ 半数近くが定員割れの私大対象 文科省が支援策に3000億円」となっており、あたかも大学マッチングシステムの開発費として文科省が3000億円を投じるかの様な印象を与える。あまりに巨額である事から〝これはおかしい〟と訝しむのが一般的であろう。

 しかし、3000億円という金額は毎年の私学助成金の総額とほぼ同じである。私学助成金とは、私立大学の運営に必要な経常費を支援する制度であり、従来から継続されて来たものである。したがって、3000億円は私学助成金を含めた支援総額であり、マッチングシステムの開発費そのものではない。FNNの記事は誤解を招く内容と言える。

 そもそも「大学マッチングシステム」は大学間のM&Aシステムを指すものではない。文科省の概算要求資料にも「大学マッチング」という表現は見当たらない。文科省は、日本私立学校振興・共済事業団の経営データを活用し、大学が経営状況を客観的に把握し的確な経営判断を行える様に支援するシステムを構築するとしている。現行の経営データシステムには、他大学との比較に基づいた問題点の把握や改善の為の判断機能が無い。この為、各大学が将来の財務状況を正確に見通せず、危機感が欠如している状況に在る。そこで、他大学と比較可能なシステムを構築し、地域や規模、学部系統が類似した大学の成功例を示し、改善点のリコメンド機能を備えたシステムを整備する事が狙いである。

 私学助成金の一般補助とは別に「特別補助」が計上されており、その中に「私立大学等改革総合支援」という事業が有る。この事業は、「Society 5.0」の実現に向けた人材育成や高度な研究体制の構築、地域社会への貢献、社会課題の解決を目指す大学を重点的に支援するものである。この中に「大学マッチングシステムの開発」も含まれていると考えられるが、あくまで「改革に全学的・組織的に取り組む大学への支援」の一環に過ぎない。

 尚、特別補助の予算総額は2023年度が235億円であったのに対し、24年度の概算要求では237億円と2億円増加している。この増加分が大学マッチングシステムの開発費用だとは断言出来ないが、それに近い用途の費用である事は察しが付く。そうであれば、2億円は巨額とは言えない。報道の見出しに惑わされず、本質を見極める必要が有る。 

他大学の経営状態と比較可能とするシステムが必要

  大学マッチングシステムの是非は如何に。22年の調査では、全国に私立大学は598校在り、その内の284校が定員割れに陥っているという。実に47・5%が定員割れである。当時の盛山正仁文科相は、「私学助成の配分で定員未充足の大学に対する減額・不交付措置を行い、これ迄も定員規模の適正化を促して来た」と説明している。

 定員の適正化とはつまり定員を減らす事であり、それは単純に当該大学への私学助成金の削減となる。定員割れに対して助成の減額を行っていても同大学で定員割れが繰り返される状況にある事から抜本的な解決には繋がっていない。であれば思い切って定員割れが複数回起きた学部や学科に係る助成を一律不交付にしてはどうか。私立大学側も大幅な赤字を計上して不採算学部や学科を維持する動機は無い筈だ。不要な税金の投入を避けられ、大学経営の健全化にも繋がる。

 大学マッチングシステムの役割を考えると不採算学部同士が合併し同時に定員の総数を削減する事で学部学科の完全消滅を避けられる。学部を廃止するには募集休止後に最終学年の卒業まで運営を行う事が通常である。よって学部の廃止や学校の廃校には多額の無駄な費用が発生する。在学生にとっても悲運な出来事となる。もし、大学マッチングシステムによって私学同士が財務や運営について相互に情報を収集出来る様になれば大学の再編は飛躍的に進む。急激な少子化によって市場規模の縮小が加速する中で大学が個別に淘汰されるか、個々の大学間の駆け引きや自助努力により再編される事を期待するか、何れも非効率でロスが大きい。大学マッチングシステムを利用する事が効率的な再編を促すモチベーションになる可能性を秘めており、大いに期待出来る。一方、存在意義が見出せない大学はマッチングアプリで再編相手が見つからず暗礁に乗り上げる。結果、早かれ遅かれ自然淘汰される事になる。

 05年の18歳人口は137万人、24年の18歳人口は106万人、この20年間でおおよそ20%減少している。22年迄に短期大学は283校が廃校しているが、4年制大学は293校増加している。その背景に有るのが大学進学率である。05年は44・2%であった大学進学率が22年には56・6%と増加している。不合格率(不合格者数/大学入学者数+不合格者数)は、1990年は44%であったが2022年は1・7%となっている。つまり、大学進学希望者は何処かにほぼ確実に合格出来る状態になっている。

大学無償化で大学経営を支援する事の妥当性は

大学進学率の増加が大学の淘汰を遅らせている事は紛れもない事実である。最近では大学全入論を唱える識者も多い。定員割れが目立つ様になればなる程大学全入論も声高になる傾向にある。40年の18歳人口は82万人、現状と同数の大学進学者を維持するには大学進学率を78・0%にまで伸ばさなければならない。その為に多くの政治家が高等教育の無償化を政策提言している。無償化したところで78・0%の大学進学率を達成する事は現実的であるとは考えにくい。大学は首都圏を始め大都市にのみ存在するのではない。ローカルに立地する大学も含めて全国平均78・0%の進学率を達成する必要が有る。現在でさえ、大学進学率が70%を超える都道府県は東京都と京都府のみである。よって、大学全入論で市場規模を維持出来るという主張は実現性に乏しいと言えよう。であるならば、大学マッチングシステムで経営データを可視化し大学、学部、学科の再編を促す事も有効であろうし、再編を後押しする為に定員割れの学部へ助成を更に減額する等の措置が必要とされるかも知れない。

 低所得者に対する大学等の高等教育資金の支援制度の創設に取り組む政治家が少なくない。高等教育無償化や補助金制度を創設する場合、支援するに足る学力と目的意識を備えている事が前提であるべきだ。根拠に乏しい進学に係る費用を助成する事は資金的にも本人の時間的にもロスが大きい。大学の経営を救済する助成を低所得者向けの教育費用の助成に言い換えているに過ぎない。返済義務の無い奨学金の拡充も同様である。大学進学と生涯賃金の相関関係は明らかである。必ずしも奨学金の全額を返還免除にする必要性に迫られているとは言い切れない。

一定のハードルを設定し成果に応じて返還率を変動する制度にしては如何だろうか。

 何れにせよ、大学全入論の様な単眼的な思考は問題の先送りに過ぎないのかも知れない。単なる数値目標の達成ではなく、大学教育が果たすべき役割を見直し、質の高い教育をいかに維持・発展させるかが問われている。

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