真野俊樹(多摩大学大学院教授)
医療者の給与 フィリピン人の一般的な給与が月額2〜3万円であるのに対し、公立病院の医師の給与は約30万円、看護師の給与は3〜4万円である。看護師は男性も多く、高給を目指して外国で看護師を目指す傾向がある。
2013年の調査によれば、フィリピンの看護師資格者は約51万人。潜在看護師は約24万4000人で、働いている看護師は、国内に約16万6000人、海外に約9万7000人いる。
質がいいということで知られているフィリピンの看護師は、英語で仕事ができる中東を目指す。中東ではアラブ首長国連邦(月給30万円以上)とサウジアラビア(同10万円)がフィリピン人看護師を取り合っている状態だ。
日本がフィリピンとの経済連携協定(FTA)により、フィリピン人の看護師・介護福祉士候補を受け入れていることから、日本で働いてもいいという看護師も少なくない。
病院のみならず、在宅医療で勤務する看護師もいて、緩和ケア、人工呼吸器の付いた患者、がん、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者などを担当している。在宅医療は家庭医学専攻の医師が担当し、通常、看護師と共に訪問するが、看護師のみで訪問するケースもある。
医師は毎年1200人ほど誕生し、腎臓内科に人気があるという。
PGH(Philippine General Hospital) 名前の通りフィリピンを代表する病院である。15病棟で病床数は1500床。国民の9割以上がカトリック教徒だけに、入り口にはカトリックに関する絵が並んでいる。
驚いたのは、医師に給与がない点である。アルバイトをしたり、プライベート(民間保険あるいは自費)の患者を診たりして、生計を立てているという。研修医や後期研修医(フェロー)も給与はない。
病室は有料のクーラー付きの1〜2人部屋と、戦争中の病室をほうふつとさせるような無料の大部屋(写真①)がある。
MRI(磁気共鳴画像装置)は3台、CT(コンピュータ断層撮影装置)も4台あるが、全てが稼働しているわけではないようだ。
アジアの途上国では医師の処方箋がない場合でも町中の薬局で処方しているのが一般的だが、PGHの院内には「処方箋がない場合、薬剤を処方するな」と書かれていた。PGHは庶民が行く病院だが、富裕層が行く病院は別世界である。
セントルークスメディカルセンター セントルークスメディカルセンター(写真②)は、富裕層が多く住むケソン市と、マカティ市の隣の商業地区「ボニファシオ・グローバルシティ」の2カ所にある非営利病院である。フィリピンには2015年のJCI(国際病院評価機構)全認証病院が6カ所あるが、両方のセントルークスメディカルセンターともJCIの認証を取得している。
大元は1903年に創立されたプロテスタント系の病院で、米国の多くの病院、例えば米ニューヨークのスローンケタリング記念がんセンターなどと提携をしている。インスティチュート(例えばがん)、センター(例えば老年医療)、ユニット(例えば女性の心臓)というように階層的に専門的医療を提供している。
グローバルシティの病院は2010年に建てられた14階建ての628床の病院である。さらに、「Temos (Trust effective medicine optimized services)」という渡航医学や、医療ツーリズム用の認証も受けていた。ヨーロッパや中東が中心の制度のようで、日本やアジアにはなじみがないが、タイのバンコク病院も認証を受けているようである。
通訳体制も充実しており、日本人の患者も多い。値段は非常に高価で、例えば全身のPET/CTは6万8000ペソ(17万6000円)で、比較されていたシンガポールや香港より1割〜2割安いくらいである。
なお、ここには日本医療のアウトバウンド(海外展開)として国際先進消化器内視鏡センターが2015年に設立された。
NKTI(National Kidney and Transplant Institute) ケソン市内に1981年に造られた腎臓(泌尿器やメンズヘルスを含む)に特化した病院である(写真③)。病床数は300床で、政府の腎臓病の政策策定も担当している基幹病院だ。血液透析ベッド数は50床で、1日4回転で行っている。
透析の保険での償還費用は病院とクリニックで異なるが、おおむね病院では1回3800〜4000ペソ(約1万円)、クリニックでは1800〜3000ペソ(約7000円)という。
ただ、この病院は透析に入らないようにするための予防にも大きな力を割いている。
最先端医療としては、1988年にアジア最初の腎臓と膵臓の同時移植、1990年にアジア最初の肝臓と腎臓の同時移植、1990年にフィリピン最初の骨髄移植を行っている。質の管理についてはISO9001を2003年にフィリピンの政府系病院としては初めて取得している。
まとめ このように、典型的な発展途上国であるフィリピンでは、医療の格差が激しい。これは社会保険に回す予算が足りないための問題といっていいであろう。
参考文献 http://www.nkti.gov.ph/ http://www.pgh.gov.ph/en/ http://www.stluke.com.ph/
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