
変化の激しい韓国
10年ほど前、韓国の医療事情についての視察によく出ており、その当時に、韓国の医療制度に関する原稿を盛んに書いたことを覚えている。だが、韓国の状況はかなり変化が大きいので、ここで再度、近年の医療制度について振り返ってみたい。
まず医療レベルであるが、「Health Care Index by Country 2020」の調査によると、韓国の医療水準は世界93カ国中、1位の台湾に次いで2位。日本は3位となっている。この指標に関する調査は、世界中のユーザーからのデータを基に、医療の質やコスト、アクセス性などを評価しており、国別の医療指数を公開しているNumbeoという組織が行っている(文末のQRコード参照)。
内容としては、医療専門家の能力、医療機器の充実度、スタッフの対応、医師の質、そして医療費用など、医療インフラやサービス、リソース等を総合的に評価している。
データを提出するようになったここ10年では、日本はほぼ3〜4位を推移しているが、一貫して韓国や台湾のランクが高いことは注目に値するだろう。
韓国の状況
韓国の少子高齢化は深刻である。WHOの発表によると、2023年の平均寿命は日本が世界1位であり、全体の平均が84.3歳、男性81.5歳(スイスに次いで2位)、女性86.9歳となっている。健康寿命も日本が世界1位で、全体の平均が74.1歳、男性72.6歳、女性75.5歳である。
一方、韓国の状況を見てみると、同じWHOの24年のデータでは、平均寿命は日本が84.46歳、シンガポールが83.86歳、韓国が83.80歳となっている。健康寿命においてはシンガポールが73.65歳、日本73.40歳、韓国72.45歳と続き、堂々の3位なのである。
少子化の状況については、韓国統計庁によると、23年の「合計特殊出生率」は0.72である。合計特殊出生率とは、通常15〜49歳の女性が一生の間に出産する子どもの平均人数を指す。
なお、米CIAが発表しているデータによると、24年の合計特殊出生率が低い国・地域のワースト5は、香港1.24、ウクライナ1.22、シンガポール1.17、韓国1.12、台湾1.11 であった。これらの数字を踏まえると、韓国は「国」としては世界で最も出生率が低い状況にあるといえる。
韓国の医療制度
韓国の医療制度は、日本と同様に長年にわたる改革と進化を重ねてきた。制度の起源は、1977年7月に始まった職域医療保険制度で、当初は500人以上の職場が対象とされ、医療保険組合連合会が保険者として運営していた。
その後、公務員や教職員を対象とした医療保険、農漁村地域住民や自営業者を含む地域医療保険制度も導入され、89年には国民皆保険制度が実現した。
ここまでは日本と同様だが、韓国の医療保険制度は統一化が進み、2000年にできた「国民健康管理公団」という1つの保険者が、03年から全てを管理している。これにより、職域医療保険と地域医療保険間の財政格差が解消、運営効率の向上が図られた。
韓国の医療制度は、日本とアメリカの制度の特長を併せ持っているものと言えるが、未分化な医療施設機能や医療供給体の体系に課題が残る。医療の非営利性が強調されている一方で、民間主導型の成長も見られ、医療施設の機能分化は依然として十分とは言えない。
一方医療情報システムにおいては進化が早く、レセプトの電子化(EDI請求が97.5%)やPACSの点数化が進んでおり、国としてデータウェアハウス(DWH)の構築などの進展が見られる。また、00年には医薬分業が完全に実施されており、薬剤費の過剰支出や薬剤の誤用・乱用を防止することを目指している。
韓国の国民健康保険は、自己負担額が外来で30〜60%、入院で20%と病院間で差がある。いわゆる、日本にある「高額医療制度」のようなものがなく、また保険の適応範囲が狭く、MRIや精密検査、ダビンチでの手術など一部においては保険対象外で混合診療になる可能性もある。自己負担額が高いため、低所得者層にとっては医療費の負担が大きく、さらに高額療養費制度もないので、民間の医療保険に加入して自己負担分を補填する人も多い。
医療費について
韓国の国民医療費は40兆ウォン規模で、GDPの約10%を占めている。韓国社会は急速に高齢化が進行しており、総人口のおよそ20%が高齢者である。高齢化と少子化が同時に進行する中、医療制度には多くの課題が生じている。
08年には介護保険が導入され、地域社会における高齢者への包括的な支援が求められるようになった。しかし、制度の運用やその効果には依然として改善の余地がある。
医療費と財源を代表的な国と比較すると次の通りである(表1、2、3)。
韓国の医療費は、対GDP比率や1人当たりの医療費の面でOECD平均を下回っており、また、公的支出の割合が他の主要国と比較して低く、私的支出の割合が高いことが特徴的であることがわかるだろう。
医師数と病院数
最後に、OECDのデータを基に、韓国、アメリカ、ドイツ、フランス、日本の病床数と医師数を比較してみよう(表4、5)。こうしてみると、医療制度もそうだが、医師数や病院数もかなり日本型になっていることが見て取れよう。
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