SHUCHU PUBLISHING

病院経営者のための会員制情報紙/集中出版株式会社

未来の会

第49回「精神医療ダークサイド」最新事情 民間精神科病院を全廃すればバラ色?

第49回「精神医療ダークサイド」最新事情 民間精神科病院を全廃すればバラ色?
患者の声をもっと活かす工夫を

昨年秋、精神疾患の患者と家族向け月刊誌『こころの元気+』の編集者から「ブラック精神科病院はなぜなくならないのか?」をテーマに原稿を書いて欲しいと依頼され、引き受けた。今年1月号にその記事が掲載され、読者から好意的な声がいくつも寄せられた。特に、次の2つの指摘に共感したという声が目立ったので引用する。

「これまでも、ジャーナリストや弁護士らによって精神科病院の闇が数多く暴かれてきました。それでもブラック病院がなくならないのは、法律改正や制度改革ばかりに力が注がれ、精神疾患の真の理解や、患者たちの本当の姿を伝える発信が著しく不足しているからです」

「だから多くの人たちは今も『精神障害者は何をするか分からない』『あんな連中の面倒をみている病院スタッフの方が気の毒だ』『ストレスを溜めて手を出したくなる気持ちは分かる』などと本気で思っているのです。患者たちがもっと声を上げ、存在感を示し、無知から生まれる世間の偏見を変えていく必要があります」

精神医療の闇は数え切れないほど暴かれてきた。だが、ブラック病院は今もあちこちに存在する。患者の人権擁護のための市民活動は無駄ではなく、制度改正にもつながったが、筆者は致命的な欠落があったように思えてならない。それは患者たちの「真の声」だ。精神科病院に入院経験のある人は、医療水準や入院環境を「もっと良くして欲しい」と願うことが多いが、「私の入院は不要だった」と語る人は、誤診や院内虐待の被害者を除くとあまりいない。ところが精神医療改革を熱心に叫ぶ人たちは、民間精神科病院を目の敵にして全廃を目指す傾向が強い。公立総合病院に少数のベッドを残せば足りると考えているのだ。

あさかホスピタルの巨大な泥絵(筆者撮影)

近年、公的な総合病院から精神病床が次々と消えて民間依存が強まっているのに、彼らはこうした現状には関心がなく、早急な「地域移行」ばかり叫び続ける。地域はそれほど楽園ではないのに。

もちろん、日本は民間の精神病床が多過ぎるので縮小は欠かせない。厚生労働省は、2040年を見据えた新たな地域医療構想の中に精神医療を位置付ける方針を示しており、民間精神科病院も改革を迫られることになる。患者にトラウマを負わせ、より悪くする病院は一刻も早く潰れて欲しいが、診療の質や患者の満足度を高めようとする病院は、民間であろうと生き残って欲しい。患者たちが必要としているからだ。

昨年春、福島県郡山市のあさかホスピタルを見学した。総合心療科を中心とする470床の病院で、02年に分院を閉じて共同住居に転用した後、入居者の地域分散を進めた歴史がある。同時に、地域生活を支える仕組みも独自に構築し、その結果、多機能型支援事業所、総合児童発達支援センター、特別養護老人ホーム、グループホーム、美術館などを含む一大グループが誕生した。

このようなグループ化に対しては「患者の囲い込み」との声も上がりそうだが、各施設利用者の表情は明るい。同病院1階の広い廊下には、完成間もない巨大な「泥絵」が飾られていた。グループ関係施設27カ所の土などを使って色を出し、多くの患者と病院職員が2週間かけて描き上げた力作だ。「生きづらい人たちの人生に寄り添い続けたい」と願う職員たちの思いが伝わってきた。


ジャーナリスト:佐藤 光展

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

Return Top