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参院選の低投票率を目論む石破政権の不埒

参院選の低投票率を目論む石破政権の不埒

自公50〜62議席なら首相続投で大連立も?

今年の通常国会は1月24日に召集され、今夏の参院選の日程は7月3日公示——20日投票にほぼ固まった。7月21日は海の日だ。立憲民主党の野田佳彦代表は1月27日の衆院本会議で「参院選の投開票日を3連休の中日にすれば投票率が下がると私は思う。何故この様な判断をしたのか」と石破茂首相を追及した。

3連休の中日に投票日を設定する党利党略

 通常国会の会期は150日間。会期延長も衆院解散も無ければ6月22日に閉会する。今年は3年毎に参院議員の半数が改選される年で、6年前に選出された参院議員の任期満了日は7月28日。公職選挙法は参院選の期日を国会閉会日から「24日以後30日以内」と定めており、政府・与党が国会召集日を1月24日と決めた時点で、ほぼ自動的に参院選の日程が定まる。1996年に祝日に定められた当初の海の日は7月20日だったが、2003年から7月の第3月曜日に変更された。選挙の投票は日曜日に行われるのが慣例で、参院選の投票日はともすれば海の日の前日に設定されてもおかしくない状況にありながら、22年の前回参院選迄それが回避されて来たのは、投票率アップを絶対的な正義とする民主主義国家の建前が守られて来たからだ。

 子供達の夏休みが始まる7月後半の3連休となれば、レジャーに出掛かける家庭も多いだろう。不人気をかこつ政権にとっては「(無党派層は)寝てしまってくれればいい」(00年・森喜朗首相)というのが本音で、投票率が下がれば下がる程、業界団体や宗教団体を支持基盤とする自民、公明両党の組織力が生きる。なりふり構わず建前をかなぐり捨てた石破政権の判断は、狙い通りの低投票率となって自公政権の延命に繋がるのか、それとも有権者の怒りを買って参院でも与党が過半数を失い、連立の組み換え等、政権構造の流動化に発展するのだろうか。

 トランプ米大統領2期目の「アメリカ・ファーストの貿易政策」に世界が振り回される中、今年の国内政局を見通すのは難しいが、政府・与党が参院選の投票日を7月の3連休に設定したという事は、それ迄に内閣支持率の回復を図るのは厳しいとの判断からだろう。昨年10月の衆院選で少数与党となった石破政権としては、勝てる見込みさえ有れば今直ぐにでも衆院解散に踏み切って議席の回復を図りたい。石破首相が昨年末のテレビ番組で「同時にやってはいけないという決まりは無い」と述べた背景には、「解散権」をちらつかせる事で自民党内の求心力を確保したい思惑が有ったと見られる。

 参院の改選議員側には衆院小選挙区の選挙運動と連動する事で支持票の掘り起こしに繋がる期待が有る一方、衆院議員側は、下手に「石破降ろし」を仕掛けて逆切れした首相が自棄っぱちの解散に踏み切れば自分達の身が危うくなると考える。野党側にも「常在戦場」の臨戦態勢を敷かなければならないプレッシャーが掛かる。

 しかし、昨年の衆院選から僅か9カ月で、民意の負託を受けた議員のクビを切るからには相応の大義名分が必要だ。国民の理解を得られず、自公が大敗する事になれば、今度こそ野党転落の憂き目に遭うかも知れない。石破首相としては、ぎりぎり迄解散の可能性をちらつかせつつ、野党の一部の賛成を取り付けて新年度予算を成立させ、今国会を乗り切りたいところ。

 参院選は定数248の半数124議席が改選される為、与党が改選議席の過半数を獲得出来なかったとしても直ちに参院全体の過半数を割る訳ではない。与党が3年前の前回参院選で獲得した非改選議席は75(自民62・公明13)。今夏の参院選で自公合わせて50議席を下回らなければ与党の参院過半数は維持される。かなり低いハードルだ。

 石破首相は参院選の勝敗ラインを「与党として参院全体で過半数」と主張している。自公で改選50議席を割らない限り退陣する考えは無いという事だ。対する立憲の野田氏は1月4日の年頭記者会見で参院選の勝敗ラインについて「少なくとも改選議席の与党過半数割れを実現する」と述べた。つまり、自公が50議席以上62議席以下の範囲に収まれば、石破首相と野田氏の双方が勝利を主張するグレーゾーンの選挙結果という構図になる。

首相の本音は国民民主より立憲・維新か

石破首相にとっては、与党が参院過半数を維持したところで、衆院の過半数を持たない少数与党政権が続く。参院選後の政権運営を考えれば、国民民主党だけを一本釣りして済む話ではない。「年収103万円の壁」を始めとして、政権の足元を見られて無理難題を吹っ掛けられる不安定な状況が続く事が予想される。だからこそ、今国会の予算審議では立憲、日本維新の会とも政策協議を行う「低姿勢」に徹している。目先の予算や法律を通す為のみならず、参院選後の石破首相続投を睨み、立憲、維新にも秋波を送っているのだ。

 では、自公と立憲が大連立を組む可能性は有るのか。参院選で与党が過半数を大きく割り込めばその可能性も出て来るが、その場合は石破首相の退陣が前提となる。野田氏が狙うのはこのパターンの大連立であり、自身が2度目の首相に就く事も想定しているのではないか。問題は自公50〜62議席のグレーゾーンとなった場合だ。野田氏は年頭会見で大連立の可能性について「大きな危機が有った時に考えられる選択肢であり、平時には考えない。政権交代の為野党結集に主眼を置く」と否定したが、裏を返せば、仮にトランプ米政権が巻き起こした世界的な混乱を「大きな危機」と見做すなら大連立も有り得るという理屈も成り立つ。後段の「野党結集」は参院選での候補者調整を見据えた選挙戦術の話であって、参院選後に共産党やれいわ新選組を加えた野党連立政権が出来る等とは考えてもいないだろう。

 石破首相が元日のラジオ放送(昨年12月収録)で「前原(誠司維新共同代表)さん、野田さんは中道政治を目指すという意味では相通ずるものが有る。長い友人でもあるし、信頼関係は有る」と語ったのは、穏健な保守中道路線を政治信条として来た石破氏の本音と思われる。野党と連立を組むなら、派手なパフォーマンスに走る国民民主党の玉木雄一郎代表(3月3日まで役職停止中)より、気脈の通じる前原氏や野田氏の方が良いらしい。

有権者の政治不信が都議選のうねりとなるか

 その一方、選択的夫婦別姓制度の導入や核兵器禁止条約締約国会議へのオブザーバー参加に後ろ向きの姿勢を示しているのは、低投票率の参院選を睨んで保守層の支持を繋ぎ止めたい思惑からだろう。全ては参院選後も政権を維持する為の綱渡り戦術。石破政権として何を成し遂げたいのかが見えて来ない。

 気になるデータが有る。毎日新聞と社会調査研究センターが昨年12月から今年2月に掛けて実施した郵送世論調査によると、「日本の政治に抱く感情」を11の選択肢から複数回答で選ぶ設問で「不信」が60%、「不安」が57%を占めた。近年の国政選挙に於ける低投票率は政治に対する有権者の関心の低さによるものと筆者は勝手に思い込んでいたが、調査で「無関心」と答えた人は12%に止まった。これ迄は政治に対する不信や不安が有権者の選挙離れに繋がっていた一方、昨年11月の兵庫県知事選では投票率が上がり、政治不信の高まりが政党の支援を受けなかった斎藤元彦知事の再選を後押しした。

 夏の参院選前には東京都議選(6月13日告示——22日投票)が予定され、昨年7月の東京都知事選で小池百合子知事に次ぐ2位に入って注目された石丸伸二前広島県安芸高田市長が地域政党「再生の道」を結成して既存政党批判票の取り込みを狙う。有権者の政治不信が都議選でも大きなうねりになる様なら、参院選の低投票率を目論む石破政権の不埒な思惑は打ち砕かれるかも知れない。

今年1月、東京都の小池知事と面会する石破首相(首相官邸HPより)

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