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未来の会

第47回「精神医療ダークサイド」最新事情 平和を願う短パン・ハイソックス

第47回「精神医療ダークサイド」最新事情 平和を願う短パン・ハイソックス
繁華街を歩いてみんなを笑顔に

都市伝説や予言が気になる人たちによると、2025年は日本も大災難の年になるらしい。根拠のないオカルト話に付き合う気はないが、恒久平和を脅かしかねないきな臭さが世界を覆っていることは確かだろう。

とはいえ、今年も年初くらいは心和む話題をお届けしたい。そこで紹介したいのが、筆者が関わる横浜市磯子区のB型福祉事業所シャロームの家を長年利用する平本和久さん(61)だ。平日は欠かさず事業所に来て、駅前の清掃作業などを続けている。

グレイヘアが似合うダンディな笑顔と、清潔な白のワイシャツ。テーブルをはさんで上半身しか見えない状態で向き合うと、区役所に長年勤める真面目な公務員のように見えてくる。ところが下半身のファッションはなんと、ジャージの短パンに白のハイソックス!

一度見たら忘れられない衝撃のアンバランスだが、違和感はすぐに薄まり、「ほっこり」とした気持ちになってくる。平本さんに魅惑の短パンコーデの誕生秘話を聞いた。「44歳の時、一休さんみたいに突然閃きました。チーン!て。世界をもっと明るく、平和にするにはどうしたらいいかと考えていた時です。この姿でいると、みなさんを幸せな気持ちにできると気づいたんです」

間違いない。見ているだけで幸せな気持ちになってくる。でもなぜ、この組み合わせなのだろうか。

平本和久さん(筆者撮影)

「私は働き過ぎたことが原因で、23歳の時に精神疾患を発症しました。入院生活は10年続き、うち9年は隔離病棟でした。退院してシャロームの家を利用し、結婚もしたのですが、40歳で妻を突然亡くしてしまいました。気力を失い、毎日涙が止まらない。そんな時、支えてくれたのが利用者さんや職員さんです。優しい人たちに助けられ、立ち直れました。それからです。みんなを笑顔にしたいという思いや、平和を願う気持ちが強くなったのは」

「私も何かできないかと考えていると、定時制高校1年の時の記憶が蘇ってきました。自転車で学校へ向かう途中にコケて、スラックスの膝の部分を破ってしまい、両方の裾をまくり上げて登校するとすごくウケたんです。笑われるのではなく、『実にユニークだ』と褒められたので、すごく嬉しくなりました。この時のことを思い出して、これならできると気づいたんです。でも中年の男がズボンをまくり上げたら変なので、下は短パン、上は清潔感を出すため白のワイシャツにしました」

それから15年、平本さんは四季を問わず短パンスタイルを貫いた。普段の行動範囲は事業所周辺だが、「社会が暗い雰囲気に包まれた」と感じた時には、腕に白いリストバンドを巻いて「特別救助隊」となり、横浜市内の繁華街を歩き回って道行く人々を笑顔にする。還暦を過ぎた今年の冬は、健康を考えて長ズボンで過ごすようだが、春になったらまた短パンに戻るという。

「辛いことも沢山ありましたが、多くの人に大切にされて、黄金の人生を送ることができました。いろいろあったからこそ、日々を楽しく過ごせる今に辿り着いた。これからもずっと幸せでいられるはずです。だから他の人も幸せにしたい。みんなで幸せになれたらいいなあと、そう思っています」 

福祉事業所や精神科病院には、平本さんのような偉人がたくさん隠れている。


ジャーナリスト:佐藤 光展

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