厚生労働省は年内にも美容医療に対する規制強化策を纏める。医学部を卒業して2年の臨床研修終了直後に美容医療界に進む「直美(ちょくび)」の若手医師の増加に伴い健康被害も増えている他、美容医療を志す医師の増加の裏で、外科等の診療科医が不足する医師偏在が生じている為だ。そこには自由診療が基本で、公的健康保険制度によってコントロール出来ない業界に対する厚労省の苛立ちも滲む。
美容医療の実施件数は年々増えている。2019年は約123万回だったのに対し、22年は3倍超の約373万2000回。同年の美容外科の勤務医数は1230人で、こちらは14年前の3倍超。更にこの内5割以上を20〜30代の若手が占める。厚労省が今年8月、美容外科等を対象に実施した実態調査によると、24年度(4月)は7・4%の医療機関が「直美採用」をしていた。又、54・4%は施術に際して研修や経験年数等の要件を設けていなかった。
美容医療を巡るトラブルも増加している。23年度に「危害」とされた相談(796件)の中でも、皮膚障害(139件)、熱傷(91件)等が目立つ。全国の保健所からの聞き取りでは「施術不良、合併症・後遺症」や契約に関するトラブルの相談が多く寄せられているという。
又、近年は人体に吸収されない「非吸収性充填剤」による豊胸術や、糖尿病治療薬「GLP‐1受容体作動薬」をダイエット用に使う施術が問題化。この豊胸術に関しては、美容医療関係の学会が「安全性が証明される迄は実施すべきでない」との共同声明を出している他、GLP‐1の方は日本肥満学会が安全・適正使用に関する談話を出した程だ。痺れを切らした厚労省は今年6月、「美容医療の適切な実施に関する検討会」を発足させ、年内に規制対策を纏める事にした。
3回目の同検討会が開かれた10月18日、厚労省は美容医療を手掛ける医療機関に、年に1度、安全管理措置の実施状況を自治体へ報告し、施術に際して遵守すべき事を記したガイドラインを関係学会に作成する案を提示。概ね異論は無かったものの、出席者からは「安全管理措置」が本当に実施されたのか把握する手段が無い点等が指摘された。一方、美容医療界から参加した久次米秋人共立美容外科理事長は「(現在義務化されていない)診療録の記載や保存をしていない施設には、国が罰則を設ける等すべきだ」と踏み込んだ。
厚労省はガイドライン作成等の対策に加え、公的保険が適用される診療に一定期間従事しない医師に対しては、医院を開業しても保険診療を不可とする仕組みを検討している。
只、同省はこの規制を医師の都市部への集中を解消する偏在対策として打ち出そうとしている。「直美」による若手医師の保険外診療への流出が、保険適用される診療科の医師不足を招いているからだ。しかし、自由診療だけに、美容医療は保険制度で縛りを掛ける事が難しい。過疎地での医師不足が深刻度を増す中、医師の偏在対策を議論する同省の別の検討会では「偏在施策と結び付けるべきでない」との意見が出ている。「捉え方によっては、美容整形なら都市部で開業出来るという誘導策になってしまう可能性が有る」(今村知明奈良県立医科大学教授)という訳だ。
厚労省は診療報酬と医療保険制度によって、医療政策を司って来た。其の網の目から漏れ、安全性を軽視して儲けている一部の美容医に関しては苦々しい思いを抱いている。国際訴訟も増加する中で、同省幹部は「強制を伴う規制は中々ハードルが高い」と言いつつも、「健康被害は放置出来ない。やれることは何でもやる」と話している。
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