SHUCHU PUBLISHING

病院経営者のための会員制情報紙/集中出版株式会社

未来の会

第45回「精神医療ダークサイド」最新事情 「1万人を助けた男」の動画が大反響

第45回「精神医療ダークサイド」最新事情 「1万人を助けた男」の動画が大反響
精神科医・笠陽一郎さんの回復伝える

小学生が将来なりたい職業のランキングで、ユーチューバーが上位に食い込むようになってからだいぶ経つ。学研教育総合研究所が小中学生の子を持つ親(小学生1200人、中学生600人)を対象に2023年秋に行った調査では、小学生全体で2位、小学生男子で1位と、依然として高い人気を集めている。

ただし、中学生になると現実に目覚めるのか、中学生全体ではエンジニア・プログラマーが1位、公務員と会社員が同率2位となり、ユーチューバーはベスト10に入っていない。ネット配信で大金を稼ぐのは至難の業であり、相当な才能を必要とすることから、冷静な判断と言えるのかもしれない。

筆者は2年前、遅ればせながらユーチューバーになった。匿名で他者に誹謗中傷を浴びせる連中が大嫌いなので、XなどのSNSはやっていないが、この連載で度々紹介したOUTBACKアクターズスクールの活動を見てもらうため、チャンネル(OUTBACKプロジェクト)を開設したのだ。「精神障害者に毒づかずにはいられない」連中を刺激しないように細々と続けてきたので、各動画の再生数は数百回程度に留まっていた。

ところが、今年9月上旬に30分弱の動画を公開したところ、再生数が瞬く間に増えていった。「この情報を待っていた」と言わんばかりの食いつきだった。動画のサムネイルには内容をこう記した。「窮地の1万人を助けた男 精神科医・笠陽一郎 まだ死んどらん!」。

松山に住む笠さんをこの連載で取り上げるのは初めてだが、筆者の取材活動に最も影響を与えてくれた精神科医である。今から20年ほど前、精神医療の現場では統合失調症の誤診や薬漬けの被害者が溢れかえっていた(今も完全に収まったわけではない)。患者や家族は主治医に窮状を訴えても相手にされず、薬の副作用を「病状悪化」と解釈されてますます追い込まれた。そのような被害者たちに手を差し伸べたのが笠さんだった。

外来と訪問の診療を終えて家に帰ると、ガラケーを手に無料の「精神科セカンドオピニオン」を始める。患者や家族の悲鳴を聴き続け、減薬などの解決策を一緒に考えていく。被害者の多くは10代や20代の若者。どんなにヘトヘトでもガラケーの電源は切らず、夜通し対応し続けた。

松山まで診察を受けに来る患者も多かったが、大半は電話対応になる。笠さんは患者たちの地元で協力医を探したが、理解を得られないことが多かった。そしてヤブ医者たちは自分の罪を棚に上げて、「電話で患者や家族を煽るとんでもないヤツ」と笠さんを罵った。それでも笠さんは全国からのSOSを受け続け、対応数は1万人を超えた。

2年前、無理を重ねた笠さんは持病の悪化で倒れた。音信不通が続き、「かなり危ない状態」との情報も入ってきた。「診療や電話対応はもうやらなくていいから、とにかく長生きして欲しい」。笠さんに救ってもらった日本中の人たちが、そう願ったに違いない。思いは通じた。今夏、松山で3年ぶりの再会。そして、笠さんの回復を伝えるスクープ動画は大反響となった。

先の学研教育総合研究所の調査によると、医師のランキングは小学生全体で5位、中学生全体で7位と安定の人気を誇る。もちろん、子どもたちが目指しているのは尊大な医者や銭ゲバ医ではなく、笠さんのような尊敬に値する医師である。

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

Return Top