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第176回 ◉ 浜六郎の臨床副作用ノート 抗RSV抗体ニルセビマブで死亡増

第176回 ◉ 浜六郎の臨床副作用ノート 抗RSV抗体ニルセビマブで死亡増

RSウイルス(RSV)は大部分の乳児が罹患する呼吸器感染症の原因ウイルスで、乳児でまれに重症化する。従来は、高リスク児に対して、月1回注射のモノクローナル抗体製剤パリビズマブ(シナジス®)による予防が承認されていた。2024年5月に販売が開始されたニルセビマブ(ベイフォータス®)は、1シーズンで1回の注射で済む便利な製剤として高リスク児には医療保険が適用され、満期産健康児に対しても自費での使用が承認された。薬のチェックでは、ニルセビマブ1)とパリビズマブ2)について115号(2024年9月)で扱ったので、今号でニルセビマブ、次号でパリビズマブについて概略を紹介する。

入院は減るが死亡が増える

RSV感染による入院は、健康早産児対象のンダム化比較試験(以下、RCT)でニルセビマブ群、プラセボ群でそれぞれ4.1%対0.8%、満期産健康児を対象にしたRCTでそれぞれ2.0%対0.4%と、いずれもニルセビマブ群で有意に低率であった。この成績が承認の根拠となった。

ところが、満期産健康児を対象にしたRCTで、死亡がプラセボ群では皆無(0/996)であったが、ニルセビマブ群では1998人中5人(0.25%)であった。511日までの試験期間中の脱落を考慮して、3時期に分けてそれぞれの時期の人年と死亡数から計算した、期間ごとの10万人年あたりの死亡率差(寄与死亡率)を計算した。3時期をメタ解析した結果、統合死亡率差は249人(95%信頼区間:30.7−467)/10万人年(P=0.0254)であった。ニルセビマブ群の3期間における累積死亡率は751人/10万人年(53.14, 1448.2)と推定され、臨床試験に参加した各国における一般人口での乳児死亡率よりもかなり高い。

例えば、日本では同年齢の乳幼児の死亡率は78.2/10万人年であり、病人も含めた一般人口の乳幼児よりも、RCT対象者がはるかに健康であることを考慮すると、ニルセビマブ群の死亡率が著しく高いことが目立つ。

ハイリスク児対象RCTを含めても死亡増

早産児を対象にプラセボと比較したRCTや、先天性心疾患など高リスク児を対象にパリビズマブと比較したRCTでも、RSV感染による入院は減ったものの、死亡は多い傾向があった。

そこで、ニルセビマブの効果と安全性を確認した3件の主要なRCTを同様の方法で時期別に死亡率差を求めてメタ解析したところ、217(10, 424)/10万人年(P=0.0399)であった。

RSV感染が無関係と考えられる死亡例について、同様にメタ解析したところ、238(39,437)/10万人年(P=0.0190)であった。

死亡は血栓症増加が原因では?

パリビズマブが開発される以前には、先天性心疾患児を対象に血清由来の抗RSV抗体製剤のRCTが実施され6人が死亡(プラセボ群0)、あるいはチアノーゼが有意に増悪し緊急手術や死亡が増加していた。また、先天性心疾患児はもともと静脈血栓を起こしやすく、手術でさらにそのリスクが大きくなることが知られている。

まとめ

ニルセビマブは、ハイリスク児、満期産健康児のいずれでもRSV感染による入院を減らした。しかし、健康児に用いた場合は単独で死亡が増加し、高リスク児を含めてメタ解析しても、ニルセビマブの死亡率がプラセボやパリビズマブよりも高く、統計学的に有意であった。RSウイルスが関係しない病気、とくに肺動脈の狭窄など血小板減少を伴う血栓症、あるいは、突然死が関係していると考えられるため、どのような状況の乳児にも推奨しない。

参考文献

1)薬のチェック 2024:24(115):108-110 
https://medcheckjp.org/
2)薬のチェック 2024:24(115):111-113 
https://medcheckjp.org/

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