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未来の会

第81回「日本の医療の未来を考える会」
医療用大麻解禁を妨げる障壁とは 効果と依存性を巡る最前線の議論

第81回「日本の医療の未来を考える会」医療用大麻解禁を妨げる障壁とは 効果と依存性を巡る最前線の議論
昨年12月に大麻取締法等が改正され、大麻草から製造された医薬品が解禁される一方、大麻の使用禁止が盛り込まれる等規制が強化された。法律の施行は今年12月からの予定だが、医薬品としての利用が限定的で、患者が望む法改正になっていないとの声も聞かれる。海外には大麻の解禁に踏み切る国も在るが、どの様な議論がされているのだろうか。大麻由来の医薬品を開発する等、世界のカンナビノイド研究をリードしている神経内科医師、イーサン・ルッソ医学博士と、医療用大麻の研究に従事する医師のマラ・ビリーバイキッジ氏に大麻の歴史や医療的効果、法規制の問題点等について講演して頂いた。
挨拶

和田 政宗氏 「日本の医療の未来を考える会」国会議員団メンバー(参議院議員)
私も「カンナビジオールの活用を考える議員連盟」に参加していますが、産業育成の観点から大麻の利活用を進める為、法改正が必要だという方向で議論が進められています。日本の場合、神事にも大麻が使われていますので、こうした分野での活用も必要です。医療面での大麻の利活用についても学び、今後の法律の立案に生かして行きたいと思います。

尾尻 佳津典 「日本の医療の未来を考える会」代表(『集中』発行人)今日は「医療用大麻」の世界的な研究者であるお2人に遠路遙々お越しを頂きました。日本では大麻の言葉に敏感に反応をしますが、世界に目を向ければ医療用大麻はこれからの医療に欠かせません。その証拠に、今回、講師をして下さるイーサン教授の研究所は巨額な金額
で買収されています。世界は患者の利益の為に医療用大麻の導入は進んでいます。

講演採録

講師:マラ・ビリーバイキッジ

■古くから薬として活用されて来た大麻

2018年にカナダは世界で初めて医療用と娯楽用の両方で大麻を合法化しました。大麻と聞くとCBDやTHCという言葉を思い出すでしょうが、CBDには精神に対する作用が有りません。一方、THCは「ハイ」になる成分です。麻にもTHCが含まれていますが、非常に濃度が低い。大麻の葉や茎、根、種子にもTHCやCBDが含まれていますが、非常に微量です。

大麻の薬物成分は花や蕾、特に花の腺毛状突起に有ります。THC、CBD、CBG以外のカンナビノイドが含まれ、テルペンやフラボノイドも存在します。大麻の香りや色、味は、こうした様々な物質によって形成され、CBDやTHCだけで様々な効果を引き起こす訳ではありません。

大麻は古くから薬として使われて来ました。例えば、古代中国の伝承に登場する王は、大麻を薬として扱ったと伝えられています。1840年代には、食欲を増進し、睡眠を助ける効果が大麻に有る事をフランスの精神科医が発見します。そして50年代には、米国で神経痛や破傷風、麻薬中毒、痙攣性疾患の薬として使用される様になりました。1900年代には、南アジアで喘息や気管支炎、食欲減退の改善に使われ、30年代に米国の製薬会社が大麻を医薬品として販売し始めました。しかし、間も無くアスピリンやモルヒネ等の薬が登場し、大麻はあまり使用されなくなります。そして、米国の薬局方からも削除されました。

ところが、64年にラファエル・メコーラム博士がTHCを発見し、再び医薬品として大麻が注目される様になります。その後、大麻についての研究が進み、96年にカリフォルニア州で医療用大麻が米国で初めて合法化されました。99年にはカナダ保健省が医療用大麻の研究に資金を出す事を発表し、2018年にはFDAも大麻をベースとしたエピディオレックスを医薬品として承認します。これはレノックス・ガストー症候群とドラベ症候群(2歳以上)の薬です。トランプ大統領が産業用大麻を合法化する法案に署名したのは同じ18年で、22年には米議会下院で大麻の非犯罪化法が成立しました。この間、東南アジアでもタイが医療用大麻を合法化しています。

現在では、大麻草の成分であるカンナビノイドの研究が進み、数多くの成分が発見されましたが、1990年代に体内で生成される内因性カンナビノイドが発見され、体中の至る所に受容体が有る事が分かって来ました。内因性カンナビノイドは、大麻と同じ成分で、人の健康の維持に大きく関わっています。

大麻に効果と副作用が有るのは他の薬と同様です。多くの人は、快楽を求める為に大麻を必要とすると考えがちですが、実際は多くの患者が薬としての大麻を求めています。中毒が問題視されますが、現実には中毒率は約9%とされます。それに医療用大麻と多幸感や気分の高揚を求める娯楽用大麻は目的が全く違います。英国の精神科医が、医薬品や嗜好品等の健康への影響や依存度を調べたところ、最も危険度の高い薬はヘロインやコカインで、大麻は中程度でした。そしてアルコールや煙草の方が危険度は高かった。2023年のWHOの報告でも、煙草とアルコールによって多くの人が命を落としていますが、大麻の過剰摂取による死亡例は記録に有りません。

実際に、今は幾つかの医薬品に大麻から抽出されたCBDやTHCが使われています。サティベックスという薬は、多発性硬化症の治療薬としてカナダやニュージーランドで承認され、カナダでは慢性神経障害性疼痛にも使われています。一般的な医療用大麻の効果としては、先ず痛みの緩和が挙げられます。関節炎、多発性硬化症、がん等が有りますが、最も多いのは頭痛の軽減です。次が精神疾患で、不安や鬱、不眠症等です。投与法もクリームやソフトジェル、経口スプレー、吸入など様々です。

医師による臨床試験もタイ等で実施されています。対象の疾病や症状には、不眠症やがん患者の痛みの緩和、不安の抑制、鬱等が有ります。WHOによると、がん患者の55〜95%が痛みの緩和に苦労し、不安に苦しんでいる人は2億7500万人います。こうした痛みや不安を和らげる選択肢としては、ベンゾジアゼピン系という薬も有りますが、これには、高齢者の認知機能の低下や呼吸抑制、依存性といった副作用が有ります。抗鬱剤も副作用が有り、副作用の為に服用を中止する事もよく有ります。オピオイドも同様です。

これに対し、副作用の少ない大麻から作られた医薬品は、世界中で売り上げを伸ばしています。エピディオレックスの全世界での売上高は年間17億ドルです。サティベックスは年間1億5000万〜2億ドル、今後も更に拡大すると見られています。大麻について更に研究を深め、合法化して行く事が大切です。やはり何よりも自然が一番で、自然のものより病気を改善させるものは無いと思います。

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