SHUCHU PUBLISHING

病院経営者のための会員制情報紙/集中出版株式会社

未来の会

第175回 ◉ ラニチジンはがんを大幅に増やす

第175回 ◉ ラニチジンはがんを大幅に増やす

H2ブロッカーのラニチジンが2019年9月、発がん物質N-ニトロソジメチルアミン(以下NDMA)が許容基準値を超えて検出されたとの欧米規制当局の発表で各国で回収措置がとられた。その後、ラニチジン使用後にがんになった人の裁判が、米国では大規模に、日本でも小規模ながら進行中である。薬のチェックで、ラニチジンとがん発症との因果関係について考察した1)。その概略を紹介する。

ラニチジン中でNDMAが不可避的に増加

ラニチジンは構造中にジメチルアミノ基と、NO2基が存在するために、保存中にNDMAが不可避的に増加すると考えられている。NDMA濃度が許容基準値(0.32ppm)未満のラニチジンを気温40℃湿度75%で8週間保管すると116ppmになったとの実験がある。

NDMAは閾値のない発がん物質

4800匹のラットを用いた大規模なNDMAの発がん実験で、NDMAは最低用量におけるまで、それ相応の発がん頻度を認めており、発がんのない「閾値」が決められない発がん物質であることが知られている。そのため、動物実験から推定し、10万人に生涯で1人未満にがんが生じるなら許容できるとの考えから、NDMAの許容摂取量は上限0.00959μgとされ、300mg錠のラニチジン中0.32ppm(0.32μg/g)が許容基準値とされている。

適切な疫学調査で有意ながん発症

ラニチジンとがん発症との因果関係を検討するには、薬剤使用(処方)とがん発症との時間的関係に配慮し、年齢(罹患率に影響する)や、規模(対象人数・人年)、薬剤の有無以外の背景をできる限り一致させた適切な対照群と比較して、十分な追跡期間を設ける必要がある。そうした条件に合致する疫学調査が台湾から報告された2)。その結果、ラニチジン300mg90日以上服用相当者の、ラニチジン非使用者に対するハザード比(95%信頼区間)は、肝臓がん1.22(1.09-1.36,p<0.001)、肺がん1.17(1.05-1.31,p=0.005)、胃がん1.26(1.05-1.52,p=0.012)、全がん1.10(1.06-1.15, p<0.001)と、有意の関連を認めた。肝臓がんと胃がんは用量-反応関係を認めた。

がん発症は15年で10万人あたり1000人超

国の許容基準は10万人に生涯で1人未満のがん発症だが、ラニチジン服用者のがん罹患率と、非服用者のがん罹患率との罹患率差、すなわち寄与罹患率もしくは超過罹患率は70.0(33.6,106.4)/10万人年と推定された。対象者の平均年齢は66.8歳なので、10万人あたり10年間で700人、15年間では1000人超と、国の許容基準1人をはるかに超える。

他にも関連を認めた疫学調査がある

論文の著者が関連を認めないと報告したコホート研究がいくつかあったが、薬剤情報の時間的処理が不適切、対象が若すぎる、少数すぎる、曝露量が少なすぎる、追跡期間が短すぎる、背景因子を揃えていないなど、1つ以上の欠陥を有していた。またこれらの論文の中にも、よく見れば10年超追跡したコホートで関連を認めたものがあった。さらに自発報告の不均衡度(disproportionality)をPRR (proportional reporting ratio)で検討し、胃がんや食道がんとの関連を指摘した調査もあった。

ラニチジンの服用とがん発症に因果関係

ラニチジンを服用すると、非服用者に比し高頻度、かつ極めて多数がその後がんを発症し、その判断が間違いである確率は非常に低く、同様の疫学調査で再現性があり、動物実験や保管中NDMA濃度上昇など、周辺症状事実と矛盾なく説明ができる。したがって、因果関係があると結論できる。

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

Return Top