自然の温もりと安らぎで心を癒やす
253 太田記念病院(群馬県太田市)
嘗て世界有数の航空機メーカーとして知られた中島飛行機。その付属病院として開設された太田病院は、終戦と共に一度閉鎖されたが、1946年、戦争の災禍に遭った住民への医療奉仕という理念を掲げ、中島飛行機の流れを汲む富士産業(現SUBARU)の健康保険組合病院として再び開設された。以来、救急医療体制や先進的な医療機器を調える等して、従業員だけでなく地域の医療や保健、福祉の向上に貢献して来た。
2012年には現在地に新築移転したのを機に、現在の太田記念病院の名称に変更。その時に、地域救命救急センターを開設し、3次救急医療機関になった。一方で、患者の気持ちが少しでも安らぐ空間にしようと、ホスピタルアートを導入した。
新病院を建築する際のコンセプトは「森の散歩道」で、エントランス脇の芝生広場に桜やプラタナス等を植栽。4階屋上庭園にも、モミジやフジ、サルスベリ等が植えられており、四季の移り変わりを楽しめる。こうした緑には「まるで自然の中を散歩する様な心地良さを感じながら元気になって欲しい」という患者への思いが込められており、それと連動する様に院内各所にアートが取り入れられている。
作品を制作したのは、国内外の作家8人で、彫刻や壁画、レリーフ、水彩画など種類も様々。エントランス前に置かれた彫刻家・豊嶋敦史氏の石彫作品は、医師や看護師ら医療スタッフの手の温もりを白い大理石の柔らかな曲線で表現しており、ベンチとしても利用出来る。又、芝生広場に在る大きなドングリを象ったブロンズ彫刻は、オランダ在住のラム・カツィール氏の作品。新たな命を宿した母の姿をドングリに託した。
病院に入ると目に入るのは、壁一面に広がるアクリルレリーフ。ガラス作家・青木美歌氏がアクリルで森に差し込む温かな木漏れ日を表現し、そこにガラスを散りばめて透明感溢れる光を表した。2階婦人科の待合室の病室の壁面は、イラストレーター・鈴野麻衣氏が手掛けたオリジナルアートクロスと水彩画で彩られ、「森のせせらぎ」をイメージした演出が施されている。
小児待合エリアは、現代美術アーティストの若野忍氏がドアや床に動物の絵を描く等して、命の温かさや逞しさを表現。13年にはキッズデザイン賞を受賞した。この他にも、木製や染織、ステンレスで作られたレリーフが院内の様々な場所の壁に飾られ、患者や家族らの目を楽しませている。
不安を抱きながら訪れる事の多い病院だが、だからこそ、森の中で自然に抱かれている様な温もりや安らぎや癒やしを出来るだけ感じて欲しい。「思いやりの心で行う医療」を掲げる院内には、スタッフのそんな願いが溢れている。
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