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未来の会

機動力を強みにシーズの開花を支援
~医工連携により新規医療の事業化が加速~

機動力を強みにシーズの開花を支援 ~医工連携により新規医療の事業化が加速~
土井 俊彦(どい・としひこ)1963年岡山県生まれ。89年岡山大学医学部卒業。94年同大学院医学研究科第1内科修了。国立病院四国がんセンター内科を経て、2002年同東病院内視鏡部。04年同病棟部医長。09年同治験管理室室長併任。10年同消化管腫瘍科消化管内科副科長。12年同消化管内科科長。13年国立がん研究センター早期・探索臨床研究センター先端医療科科長。14年同東病院副院長(研究担当)、15年東病院先端医療科科長、同先端医療開発センター新薬臨床開発分野分野長。16年同副センター長。17年国立がん研究センター東病院医療情報部部長。22年同先端医療開発センター長、同橋渡し研究推進センターセンター長、同先端医療開発センター共通研究開発分野長を歴任し、24年東病院長に就任。

「柏の葉スマートシティ」を標榜する千葉県柏市の柏の葉地域では、新産業の創生を目指した公民学連携が推進されている。同地域の国立がん研究センター東病院に於いても、近隣の大学や様々な企業との活発な連携が進められている。1992年の開院以来、新規医療の開発を始め、先端医療の実践、第I相臨床試験に取り組み、医工連携による更なる躍進が期待される。4月に病院長に就任した土井俊彦氏に、最新の取り組みと今後の展望を伺った。


——先端医療開発センター長を経て、病院長に就任されました。今後特に注力する取り組みは。

土井 基本的には路線を大きく変えるつもりは無く、今後も世界へ通用する医療に取り組んで行きたいと思っています。先端医療開発センターとしては、研究開発が事業化に発展しない状況や臨床応用の障壁等の所謂「死の谷」を越えて行く事に注力して行きます。特にアカデミア発のシーズの研究を臨床へ送り出す為の医師主導治験は、恐らく国内で最多となります。この経験を生かして、最新の医療を患者さん迄届けるスピードを上げ、ドラッグ・ラグやドラッグ・ロスを解消して行きたいと考えています。

開発に適した環境で機動力を発揮

——先端医療開発センターは開発の要ですね。

土井 成功確率が低いものに挑戦し、導入効率を上げるという課題に真剣に向き合えるという点は、先端医療開発センターが在って良かったと感じるところです。ドラッグ・ラグについては、小児や希少がんに対する適応が遅れているとよく言われます。確かにそれも有りますが、実際はレセプトに症状詳記を添付すれば通ったり、県によっては保険診療になったり、適応外使用として治療を行える場合も有ります。実際は、日本は新技術の新薬の対応が出来ない場合が有る事が問題です。例えば、臓器移植後や感染症後に、状態が急激に悪化する「サイトカイン放出症候群」が起こる事や、CAR-T細胞で同様の症状が起こる事が有ります。その様な時に、ICUで十分な管理治療をすれば救命出来ますが、日本にはそういう体制が不十分です。同様に、放射性医薬品は世界中で数百もの治験が走っていますが、日本では数少ないのが実情です。それは放射線を取り扱える施設が少ない事や、技術要件を満たしていない事が理由です。その点、当院は機動力を生かして、再生医療や放射性医薬品にいち早く関わって来ました。

——国立がん研究センター中央病院と東病院、それぞれの役割と特色をお教え下さい。

土井 これ迄は「独立型」と言ってそれぞれで運営を行って来ましたが、約35kmの距離に在りますので、集約と連携も必要だと考えています。協力する事で日本の医療レベルを高め、それぞれの特長や強みを発揮すれば良いのです。例えば、中央病院は東京都中央区築地に位置しており、全国から多くの患者さんが来院し易い環境に在ります。一方、千葉県柏市の東病院は、コンパクトな分、複数の診療科連携が必要な患者さんへ早期の治験を実施するのに適しています。又、近隣には東京大学や千葉大学、産業技術総合研究所(産総研)等が在り、コンソーシアムを組み易いという利点や、街自体が若いので住民の協力を得易いという特長が有ります。

——地域性を考慮した機能分化がなされています。

土井 日本橋や築地には製薬会社のビジネス部門が集まりますが、柏には開発や研究部門が多く集まり、臨床への押し出しの為の場として利用して頂いています。これは立地の利点だと思っています。例えば、放射線やウイルスの研究は広大な土地が必要なものです。更に、こうした研究で動物実験を行う場合、マウスではヒトとの相関が弱い為ブタ等を扱いますが、その様な大型動物での実験は柏の方が適しています。又、当院には学閥が無く、様々な大学の先生が集まっています。出口志向が強く、患者さんのニーズに合わせて物作りをするというバックキャスト型の思考を持つ先生が多いので、成功確率も高くなっています。

——そういった思想は設立当初から有ったのですか。

土井 この病院が建てられた30年程前は、陽子線を用いたがん治療を特長にしていました。陽子線治療装置が日本に未だ3台しか無かった時で、当時は全く使いものにならないという批判も有りました。緩和ケア病棟を作った時も、日本は独自の訪問看護や開業医による往診システムが機能していましたので必要無いと言われていました。それらが今では「標準」になっています。同様に、がんを早期に発見出来るNBI(狭帯域光)を用いた内視鏡検査も、最初は見向きもされませんでした。我々は、論文での業績も大事とは思いますが、それらを単に面白いという興味からではなく、患者さんが必要としている物を作ろうという発想で30年間実績を積み上げて来ました。

街レベルの産学連携の推進で新事業が続出

——「柏の葉スマートシティ」は公民学連携のモデルとなっています。「再生医療プラットフォーム」の立ち上げの背景や目標についてお聞かせ下さい。

土井 2022年に、柏の葉スマートシティの一画に「三井リンクラボ」という賃貸ラボ施設がオープンし、そこに帝人、J-TECが入居したのが切っ掛けで、4者のコラボによる再生医療プラットフォームを立ち上げる事になりました。再生医療の開発・製造クラスターを構築し、シーズを持つアカデミア、ベンチャー企業、製薬企業等を支援する事で、国内の再生医療の事業化を加速させる事を目的としています。日本は再生医薬品で世界に遅れを取っています。何億も掛けて再生医療のラボを作ったとしても、年間数件では採算が取れません。継続的なモデルを構築する為には、民間企業の協力が必要でした。大学等で研究されている再生医療はハイエンドで優れていますが、誰もが同じレベルのものを製造出来る訳では有りません。多くの患者さんに迅速に医療を提供する為にも、より実用的な製品を世の中に送り出して行きたいと思っています。


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