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第109回「日本の医療」を展望する世界目線 シンガポール最新医療事情と医療DX①

第109回「日本の医療」を展望する世界目線 シンガポール最新医療事情と医療DX①

今回から、2024年2月に行ったシンガポールの医療調査について報告したい。コロナ禍を挟み、約4年ぶりの本格的な海外調査であったが、かなり詳細な情報が得られ、実りのあるものになった。特に、このところ変化が大きいシンガポールを対象に選んだのが良かったと思われる。まさに「変われない国」日本への、非常に良い示唆となるのではないだろうか。

まず驚いたのは、以前調査を行った7年ほど前と比べ、医療政策において大きな方向転換が行われていたことである。以前は、基幹となる急性期病院を中心にシンガポール全体を6つのクラスターに分けるという構想であった。この時我々は、高齢社会先進国かつ課題先進国である日本の面目躍如とばかり高齢者対応に注目したが、欧米先進国の例にならい急性期病院が中心であるシンガポールにおいては、高齢者対応の病院は「徐々にでき始めている」といった様子であった。

しかし今回の視察で、シンガポール政府は地域医療のクラスターを6つから3つに再編、そしてその中に高齢者対応の病院も含めたコミュニティケアも包含するという大きな変更をしていたことが明らかになった。

シンガポールの特徴

シンガポールは東南アジアに位置する都市国家で、その人口密度は世界でもトップクラスに高い。人口は、23年時点で約592万人(うちシンガポール人・永住者は約415万人)、つまり東京23区の人口の約半分ほどである。国の面積は、約735.2平方キロメートルと、日本の奄美大島と同じぐらいの大きさである。

シンガポールは、その限られた面積にもかかわらず、高度に発展した経済と先進的なインフラを持つ国としても知られており、金融、貿易、観光が主要な産業となっている。公用語は英語、マレー語、中国語(標準中国語)、タミル語の4つで、これは国内の主要な民族グループを反映している。しかし、互いに反目はしておらず、多文化主義と多民族社会が特徴であり、それぞれの文化が尊重されると同時に、国全体としてのアイデンティティも大切にされている。

経済面では、シンガポールは世界でも有数の自由貿易港としての地位を確立しており、その開放的な経済政策と戦略的な地理的位置は、国際ビジネスのハブとしての役割を強化している。また、教育、医療、交通などの公共サービスの質も非常に高く評価されている。国土が狭く自然資源に乏しいため、水資源の確保や食料自給率の向上など、持続可能な開発と自給自足に向けた取り組みにも積極的で、都市部では緑化政策や環境保護にも力を入れており、建国以来の緑化政策になぞらえて、「ガーデンシティ」という愛称で呼ばれることもある。

「実力主義」が成長の1つのキー

歴史を紐解くとシンガポールは、3世紀に中国の文献で初めて言及され、その後14世紀に「ライオンの都市」を意味する「Singapura(シンガプーラ)」と名付けられた。1819年に東インド会社が商館を建設し、その後イギリスの植民地となった。第2次世界大戦後に独立を果たし、経済成長を遂げた。初代首相のリー・クアンユーの考えが強く、資源に乏しい国がどのようにして発展できるかのモデルを提供していることでも知られる。

実際、その発展モデルを模倣している、と引き合いに出されるのが、同じような時期から急速に発展を遂げた国(正確には独立国家ではなく首長国)、ドバイである。産油国のイメージが強く、オイルマネーにより経済発展を遂げていると思われがちだが、現在石油産業の直接的なGDPへの影響は減少しており、1990年台の25%から2017年には約1%にまで低下している。その為、ドバイ政府は早期から経済の多様化を積極的に進め、ビジネス、観光、イノベーションのグローバルハブとしての地位を築いている。

シンガポールに話を戻そう。シンガポールの発展に寄与した「建国の父」ことリー・クアンユーの思想や政策は、長時間にわたる彼のインタビューや過去の著作をもとに、『リー・クアンユー、世界を語る』(サンマーク出版)に詳細が記されている。

リー・クアンユーは、金融業を中心とする経済発展戦略を採用し、シンガポールをアジアの金融ハブに育て上げた。そして「人間は才能ある者とない者に分かれ、政府の仕事はそれを早く見極めることにある」という考えを持っていたとされている。これは、効率的な人材管理と社会の発展につながる政策の実施を重視したものである。現在でもシンガポールでは12歳までの6年間の義務教育期間でかなり選別が進み、中学校はエクスプレス(大学進学コース)、ノーマル(アカデミック:普通科コース)、ノーマル(テクニカル:職業訓練コース)の3つのコースに分かれている。

企業に対する考え

このような実力主義的考え方の下で、企業に対し建国当初から外資企業を積極的に誘致し、国内産業の育成を試み、現在、約7000社の外資系企業がビジネスを展開している。また、シンガポールには優秀な政府関連企業(GLC)が存在し、国内外で活躍している。これらの企業は政府によってコントロールされており、経済発展に大きく寄与している。そして、シンガポールの1人当たりGDPは、23年に8万4734米ドルを記録している。前期22年の8万8429米ドルと比べると下落の結果ではあるが、それでも世界5位である。さらに上位の国には、ルクセンブルクといった小国やノルウェー、アイルランド、スイスなどが入っている。ちなみに日本は34位である。

シンガポールの経済と物価

英経済誌『エコノミスト』の調査部門エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)が昨年11月30日に発表した「2023年版世界主要都市の生活費ランキング」で、シンガポールはスイスのチューリヒと並んで1位である。世界400以上の地域で調査を行うコンサルティング会社・マーサーが毎年発表している「世界生計費調査」は、全世界の都市の住居費や交通費、食費、被服費など200以上の項目の価格を米ドルに換算して総合的に比較したものだが、昨年1年間で世界で生計費が最も掛かった都市は香港で、シンガポールは2位だった。

しかし今回、ホーカーズ(屋台村)やフードコートを回ってみると、比較的廉価な生活も可能のようで、狭い国土であるが二極化が進行している感じを受けた。例えば中華街のホーカーズで食べたチキンライスは1シンガポールドルが110円として、日本円で約400円であった。

シンガポールの医療費や医療データ

シンガポールの医療費は先進国の中では低い。国際銀行の統計が取れる186カ国の中で、シンガポールは146位と、下位50カ国以内に入っている。それはこの後述べるように個人の責任で医療費を使うという仕組みなので患者があまり医療費を使わない、あるいは軽い医療に関しては自らの判断で対応することが普通だからであろう。ただ、高齢者の増加に伴って医療費が増加している。

20年の1人当たりの医療費が3368米ドル、21年の平均寿命は83.44年、女性は85.90年、男性は81.10年だった。また、21年の合計特殊出生率は1.12、糖尿病の有病率は11.60%である。

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