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未来の会

4大臣合意の「中間年薬価改定」は存続か見直しか

4大臣合意の「中間年薬価改定」は存続か見直しか
診療側と報酬側が真っ向から反論

診療報酬改定の無い年にも薬の公定価格を見直す「中間年薬価改定」に関し、今の仕組みを続けるか否かを巡る議論がスタートした。次回、2025年度の廃止は現実的ではないと見られているものの、医薬品業界は勿論、自民党厚労族や立憲民主、国民民主の両党等からも「医薬品の供給不安の一因」「物価高騰の影響を踏まえるべき」といった廃止論が出ており、厚生労働省も対応に苦慮する事になりそうだ。

 存続か見直しか——。議論のキックオフとなった7月17日の中央社会保健医療協議会の薬価専門部会では、診療側、報酬側それぞれが自らの立場に立った主張を繰り広げた。

 口火を切った森昌平・日本薬剤師会副会長は「薬局収益の75%は薬剤費。毎年度改定により資産価値は大きく目減りしている。25年度は延期も含め改定の在り方を慎重に見極めるべきだ」。これに対し長島公之・日本医師会常任理事は「医療の質向上には財源が必要」との観点から「引き下げで生まれた財源の一部は医療の質向上に向けた還元も求められる」と述べた。松本真人・健康保険組合連合会理事は中間年改定を強化するよう求めた上で、「改定による薬価引き下げ分は国民に還元すべきだ」と強調し、森、長島両氏に真っ向から反論した。

 医療機関は国が定める公定の薬価に基づいて薬の費用を「定価」で国や患者に請求する一方、薬の卸から仕入れる際は自由に価格交渉出来る。一般的には医療機関側が値引きを求め、応じる卸も多い事から薬価と市場実勢価格には開き(乖離)が生じる。

 時間の経過と共に広がるこの乖離を小さくする為、薬価は原則として2年に1度の診療報酬改定の際に見直されて来た。しかし、16年末の「4大臣合意」に基づき、乖離率が大きい品目に関しては診療報酬改定の年以外も薬価に市場実勢価格を反映させ、国民の負担軽減を図る事にした。

 4大臣とは、当時の塩崎恭久・厚生労働相、麻生太郎・財務相、石原伸晃・経済再生担当相、菅義偉・官房長官の4人。合意では薬価制度の抜本改革の基本方針として、国民皆保険の持続性とイノベーションの推進を両立し、国民負担軽減、医療の質向上を目指す︱︱との「4つの原則」を打ち出した。中間年改定は菅氏の強い意向が反映され、始まった経緯が有る。初めて実施された21年度は全品目の約7割、1万2180品目を対象とし、薬剤費を約4300億円削減出来たとしている。実施前は8・0%だった市場実勢価格との平均乖離率もじわじわ縮まり、23年度は6・0%となった。

「イノベーション推進」が大きな課題の医薬品業界

 只、近年の物価高騰、医薬品供給の不安定化を踏まえ、慎重論も次第に高まって来た。供給不足は乖離率が大きくなりがちな後発医薬品を中心に起きている。中間年改定を続けるなら供給不足に歯止めを掛けられなくなる、と医薬品業界は強調する。

  日本の製薬を巡っては「イノベーション推進」が大きな課題となっている。新型コロナウイルスのワクチン開発1つ取っても欧米企業に中々追い付けていないのが現状だ。中間年改定に対し、業界には「薬価制度は本来安定的であるべきだ。企業も予見性を以て新薬を開発出来る。それが全く損なわれてしまっている」(宮島俊彦・日本製薬団体連合会理事長)との不満が強い。

 こうした業界の声を受け、自民党の「製薬産業政策に関する勉強会」(会長・衛藤晟一参議院議員)は6月、中間年改定の廃止等を求める提言書を武見敬三・厚労相に提出した。中間年改定が当初の目的を超えた過剰是正となり、不採算品を増やし、供給不安を招いたと指摘している。又、立憲民主党や国民民主党も相次いで中間年改定の廃止を求めた。2月、国民民主党の玉木雄一郎・代表は衆院本会議で敢えて中間年改定に触れ、「薬の原材料価格が高騰する中、医療費削減を薬価に依存する今のやり方では、薬の安定供給もイノベーションも(損ない)、国際競争力を阻害する。製薬業界の賃上げも困難」と述べ、岸田文雄首相に4大臣同意の見直しを迫った。

 これに対し岸田首相は「今後共イノベーションの推進と国民皆保険の持続性を両立する観点から薬価改定を行っていく」と答弁しただけで、明快な見解を示す事は避けた。

中間年改定の廃止要求に曖昧な態度の政府

 政府のどっち付かずの姿勢は、6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2024(骨太の方針)」にも反映されている。

 中間年改定見直しの要望を踏まえ、今年の骨太の方針には「イノベーションの推進、安定供給確保の必要性、物価上昇等取り巻く環境の変化を踏まえ、国民皆保険の持続可能性を考慮しながら、その在り方について検討する」という記述が盛り込まれた。原案には無かった「物価上昇」との文言も加える等、一応「前向き感」は示して見せた一方で「国民皆保険の持続可能性」にも触れており、中長期的な方向性は曖昧にしたままだ。

 中間年改定の廃止を求める声に対し、武見厚労相は「国民負担を抑制する観点から4大臣合意に基づいて実施している」等として廃止には慎重姿勢を崩していない。賛成派と慎重派の応酬で幕を開けた7月17日の薬価専門部会だが、25年度に中間年改定を実施する事になった場合に備え、今年度にも薬価調査をする事は決めざるを得なかった。

 只、医薬品業界は「4大臣合意」さえ反故にされたと受け止め、不満を募らせている。中間年改定に関する合意事項の1つは、「乖離幅の大きな品目について薬価改定を行う」というものだった。が、これ迄は全品目の平均乖離率(23年度改定では7・0%)の0・625倍を超す品目を改定の対象として来た。業界は「0・625倍という数字に根拠は無い」と指摘する。全体の7割程度の品目が改定対象となる事に関して「乖離率の大きな品目」とはかけ離れているとし、少なくとも中間年改定を4大臣合意の趣旨に立ち返らせるよう訴えている。

新薬創出・適応外薬解消等促進加算の累積控除

一方、支払い側や財務省は中間年改定の継続を譲らず、更に薬価の新たな引き下げ材料を模索する。今後焦点の1つになりそうなのが、「新薬創出・適応外薬解消等促進加算」の累積控除の取り扱いだ。

 この加算はイノベーションの推進に向け、優れた新薬を支えるものだ。加算分を財源に充て、優れた医薬品の開発へと結び付ける狙いが有る。国は加算の対象となるような画期的な新薬については、市場実勢価格に基づく薬価の引き下げを猶予している。

 とは言え、後発品が発売されたり薬価収載から15年経過したりすると、薬価改定時にそれ迄猶予されて来た分の引き下げ(累積控除)が行われる。25年度にも中間年改定を継続するよう主張する支払い側は「イノベーション評価は別途十分行われている」として、中間年改定でも累積控除に踏み切るよう製薬業界を揺さぶっている。

 中間年改定がイノベーションの推進を阻害し、医薬品の安定供給を妨げているという主張については厚労省も理解している。だが、改定自体は公定薬価の値を下げることによって、下がった市場実勢価格に近付けるのが目的であり、手を打たなければ「薬価差益」として医療機関の懐に入る金額が膨らんで行く。医薬品の流通に関する構造的な問題の解消等も大きな課題だが、目の前の価格差を是正しない理由を見つけるのは難しい。

 世界的に医療用医薬品の供給不足が問題となっているが、日本のように大規模、長期的に供給不足が続いている先進国は無い。その上、円安を始め、諸物価が高騰する等、医薬品流通現場の状況は以前とは異なる、と同省幹部は言う。それでも社会保障費の抑制や、新規施策の財源には薬価の引き下げ分を充てる事が常態化している。この幹部は「異次元の少子化対策1つ取っても財源に四苦八苦している。中間年改定を廃止するのはハードルが高い」と見通しを語る。

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