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未来の会

第189回 政界サーチ
〝岸田降ろし〟力無く、混迷の総裁選へ?

第189回 政界サーチ〝岸田降ろし〟力無く、混迷の総裁選へ?

生臭い「岸田降ろし」の風が熱波に晒されながら対流している。「岸田文雄・首相は嫌だ」は既にコンセンサスになりつつあるのだが、これぞという候補は一向に定まらず、秋の総裁選では岸田首相の続投も選択肢に残ったままだ。暫く吹いた解散風も高気圧に抑え込まれて、勢力を伸ばせず、里帰りした自民党議員らは「裏金事件」のお詫び行脚に汗を拭う盛夏である。

 岸田降ろしが顕著になったのは、裏金事件で責任を取らない岸田首相(総裁)への批判が契機だった。仕掛けたのは菅義偉・前首相。雑誌のインタビューで、先ず、派閥の裏金事件に対する岸田首相の対応について「各派閥と同じ様な処分を自身に科すべきだった。責任を取るべきだった」と指摘。派閥解消の決断こそ評価したものの、麻生派等の存続を念頭に「全ての派閥を一気に解消すべきだった」と手厳しい注文を付けた。

 更には「(次期衆院選は)自民に厳しい戦い。政権交代も有り得る」とした上で、9月に予定される党総裁選に触れ、「党を覆う嫌なムードを払拭する機会にしなければならない。自民には若い優秀な議員が少なからずいる。自ずと意欲ある若手が出て来るのではないか」と語ったのだ。

 素直に読めば、「党を覆う嫌なムード」は「岸田首相が責任を取って辞めないから」であり、総裁選への出馬は自粛し、若手への世代交代を進めるべきだと言っている。

 岸田首相支持派は岸田首相への辞任勧告と受け取った。若手は当然、憤る。

 「どの口が言っているのかね。菅さんは、岸田首相のリーダーシップで作った政治刷新本部の最高顧問だったが、当時は何も発言しなかった。最高顧問の責任はどうなんだと言いたいね。首相時代から何を言っているのか分からない人だったし、雑誌が適当に解釈して政局仕様に仕立てたんでしょ」

 菅前首相は次期首相候補に名の挙がる石破茂・元幹事長、河野太郎・デジタル相、小泉進次郎・元環境相らと親密だ。一連の岸田首相批判は次期総裁選に向けた仕掛けなのは明白だろう。

 国会閉会後、岸田首相の表情が曇りがちで、時に目が奥に引っ込んで見える様子等も考え合わせれば、菅前首相の先制攻撃は一定の効果を上げた様だ。只、大きな誤算も有った。国民の批判の目が向けられているのは菅前首相も同じだったからである。菅発言に対し、SNS上には「所詮は同じ穴の狢」「首相経験者としての矜持が無い」との書き込みが続出した。止めは、「おまいう(お前が言うな)」だった。

 菅前首相の名誉の為に付言して置く。菅前首相は無派閥であるし、官房長官時代は安倍晋三・元首相から派閥結成を勧められても頑として首を縦に振らなかった。無派閥はポリシーと言え、雑誌のインタビューに応じる必然性は有ったのだ。但し、自民党若手が指摘した様に言語は益々分かりにくくなっているし、立ち居振る舞いも年齢以上に緩慢だ。自民党幹部が指摘する。

 「SNSで叩かれた様だけど、今の自民党は〝物言えば唇寒し〟の状況なんだ。国民から嫌われている。内紛でも起こせば尚更だ。だから、総裁選に向けた健全な権力闘争も下火だ。活気の無い状況に変化を付けたいと思ったんじゃないのかな。やる事為す事許せないという人からすれば、単なる内紛に見えてしまうかも知れないけど。それと、当選同期で、首相にしたいと言ってはばからない河野さんは還暦を超えたのに未だ麻生派に居残っている。進次郎は未だ早いし、キングメーカーとしての焦りが有ったのかもな。とにかく、今は一挙手一投足が難しい」

 菅前首相に好意的な解釈とも思えるが、強ち間違ってはいない。総裁選が間近に控えている割には自民党内に活気が無いのだ。国民に嫌われようが、権謀術数を巡らせて大喧嘩する事で培われて来た政治感覚まで失う様だと、自民党は魅力の無い政党になってしまうだろう。

 総裁選では、菅前首相の他、麻生太郎・副総裁、OBの森喜朗・元首相らが背後で動いている。それぞれ思惑は有るが、妙案は未だ見当たらない様だ。岸田首相支持派は気が気ではないが、菅前首相、麻生副総裁、森元首相らのキングメーカー争いが熾烈を極めれば、力の隙間も生じる。

 「総裁の交代で党の支持率を上げてくれる程、国民は優しくない。次の政権も難航は必至だろう。岸田首相は麻生副総裁と念入りに話し合いを続けているし、森元首相は大学の先輩で交流も有る。世間で言われる程の劣勢、窮地とは思っていない。米国はトランプさん優勢で、バイデンさんの大統領選辞退まで話題になっている。ウクライナ、パレスチナ、北朝鮮と問題が山積している現状で、外交経験豊富な岸田首相程相応しい人はいない」。岸田首相支持派の中堅はそう断言するが、こちらも見通しが立っている訳ではない。

都知事選と国民の既存政党離れ

国民からほぼ見放された岸田政権に代わって、夏場の話題の中心になった東京都知事選は小池百合子・知事が元広島県安芸高田市長の石丸伸二氏、元立憲民主党代表代行の蓮舫氏ら55人を破って3選を果たした。当初は自民と立憲の代理戦争とも見られた「七夕決戦」は自民党色の強い小池知事に軍配が上がり、世論の反発を考慮してステルス応援に徹した自民党関係者はホッと胸を撫で下ろした。自民党選対関係者が語る。

 「小池知事は党を離れてはいるが、小泉純一郎政権時代から、ある種の自民党のイメージシンボル的な存在だ。ここで負ければ、政権交代の潮流が生まれる可能性すら有った。現政権の枠組みを維持する目処を立てられたという意味でこの勝利は大きい」

 小池知事は地域政党・都民ファーストの会の特別顧問であり、自民色は既に薄い。だが、保守系の政治家に属する事は確かであり、立憲や共産とは一線を引いている。東日本に限って言えば、保守総崩れの危険性は遠のいたと見ていいのかも知れない。気掛かりなのはほぼ無名の新人だった石丸氏が次点に食い込んだ事だ。

 石丸氏は敗戦の弁で「岸田首相の広島1区とか」と国政への挑戦を匂わせた。自民党選対関係者は「国民は自民や立憲など既存政党に飽きている。次の衆院選では、既存政党と一線を引く若い世代の台頭に注意が必要になる」と語っている。

バイデン大統領選挙選辞退の衝撃

 夏枯れ政局に華を添えた都知事選よりも、政界関係者の耳目を集めているのは日増しに報道頻度が高まる米大統領選だろう。春先から「もしトラ」で盛り上がってはいたが、いよいよ佳境に入って来た。全体がぼやっとしている自民党総裁選より、ずっと見応えが有り、日本経済の行方にも大きく関わって来る一大イベントだからだ。

 取り分け注目されたのは、民主党支持派と見られる新聞「ニューヨーク・タイムズ」が社説でバイデン大統領の選挙戦辞退を促した事だった。政治報道に携わる新聞社は政治家の相談を受ける事もしばしば有る。但し、日本の場合、基本はシャドーワークであって、現職首長の選挙戦辞退を媒体を使って促す事はまず無い。日本の新聞関係者が語る。

東京都知事選で3選を果たした小池百合子知事

 「CNNの討論会で言葉に詰まり、精彩を欠いたのは確かだが、この期に及んで大統領候補の差し替えを求める社説とは驚いたね。政権交代可能な2大政党がある米国ならではなんだが、政治的思惑が強過ぎる。日本のメディアでは到底できない事だね。只、公平を意識し過ぎる余り、凡庸に陥りがちな日本の政治報道を再考する機会ではある」

 CNN討論会後、世論調査ではトランプ前大統領優勢の数字が並ぶ。暗殺未遂事件を経て、トランプ前大統領は更に勢い付き、去就が注目されたバイデン大統領が遂に選挙戦の辞退を表明した。民主党の後継候補はハリス副大統領が有力視されるが、米大統領選は嘗て無い展開となっている。都知事選で小休止した自民党総裁選を巡る政争もいよいよ加熱する。政局不穏の季節が到来する。

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