SHUCHU PUBLISHING

病院経営者のための会員制情報紙/集中出版株式会社

未来の会

医師の働き方改革による他職種への影響とは

医師の働き方改革による他職種への影響とは

病院薬剤師の立場から見えて来た問題点と改善点

2024年4月より、医師の長時間労働の抑制等、医療現場の勤務環境改善の一環として、「医師の働き方改革」がいよいよ開始された。現在、病院内では医師が担当する業務のタスクシフトやタスクシェアについて、看護師やその他の職種との間で議論と試行錯誤が続いている。実際、実務に於いて医師側から要望する内容と、コメディカル側から提案出来る内容はどれ程合致しているだろうか?

医師の働き方改革元年、各職種への影響は?

医師の働き方改革では、医師の労働時間の適正↘化を図るに当たり、医師だけで無く病院内で働くコメディカルや事務部に対しても業務の洗い出しが指示され、併せて医師が行って来た業務で他職種に移管出来る内容について議論が進んでいる。該当する職種については、看護師は勿論、病院薬剤師、管理栄養士、臨床検査技師、放射線技師、病歴管理室を中心とした医療アシスタント、診療情報管理士を含めた医事課等、例外は無いと言ってよい。だが、コメディカル側でも日常業務をこなしつつ現業の棚卸しを行い、移管を検討する事は時間的にも厳しく、この時点で現場には負担を強いている傾向も有る↘様だ。病院の規模にもよるが、部署によってはそもそも必要十分な人員が揃っておらず、基本的な病棟運営に於いてもマンパワー不足が言われている中での模索となっている場合も有る。

例えば、医師側からのタスクシフト・タスクシェアの要望として、「外来看護師による外来受診時の処方内容、残薬調整のダブルチェックやワクチン接種」、「病院薬剤師による定期処方代行、抗がん剤投与前の問診、外来や入院患者への薬物療法実施前説明、体重換算によるパスレジメン処方の調整」、「放射線技師によるポータブルレントゲン代行処方、↖緊急時のCT・MRI等の遠隔読影補助」、「臨床検査技師による検査オーダー代行、固形がんの術後検体の遺伝子検査実施オーダー代行」、「リハビリスタッフによる病名登録代行」、「医事課に於けるレセプト病名記載や患者への費用負担説明業務」——といった内容が挙げられているというが、これらを他職種に移管するとなると、1職種・1部門で全てが完結する事は無い。その為院内では、タスクシフト・タスクシェアの為のワーキンググループが立ち上げられ、移管の要望の有った業務に対する精査や、その実現に向けての協議を行う等、副次的な業務も増加している。

全国に先駆けて行ったタスクシフトの好事例

厚生労働省医政局では21年9月、各都道府県知事に対し「現行制度下で実施可能な範囲におけるタスク・シフト/シェアの推進ついて」という通達を発出し、具体例や留意点等の周知に努めているが、実際に各職種への負担は大きく、順風満帆に進んで来たとは言い難い部分も有る。只、全国にはタスクシフト・タスクシェアをいち早く取り入れた病院も存在する。例えば、社会医療法人近森会近森病院では、多職種の医療専門職を病棟に常駐させ、医師や看護師の周辺業務をシフトしたりシェアしたりする事で労働生産性を高め、労働環境の改善に繋げた。薬剤や栄養、リハビリ、医療機器、転院調整等は、専門医以外の大多数の医師にとっては不案内な分野の場合も多い為、専門のコメディカルが院内に常駐する事で分担がスムーズに進んだという。

又、各職種の専門性を更に高める為、業務の振り分けは判断が不要な「ルーチン業務」と、常に判断が必要となる「非ルーチン業務」とし、医師や看護師は非ルーチン業務、それ以外の医療専門職はルーチン業務を行う事とした。タスクシェアにより業務が増加した側は、そこから更に業務の絞り込みを行い、資格業として行うべき業務に集中する事で労働生産性を向上させ、人件費の増加を防いだ。薬物療法は薬剤師、リハビリはリハスタッフ、栄養療法は管理栄養士、高度医療機器操作は臨床工学技士、24時間以内の早期介入を行う医療ソーシャルワーカー(以下、MSW)、その他病棟クラークやアテンダント等の事務部門が総動員されている。

他に、恩賜財団済生会熊本病院の「ICUチーム医療」の例では、集中治療室専門医、救急専門医、循環器専門医等からなるICUスタッフの医師だけでなく、循環器内科と救急・総合診療科から派遣される医師や認定看護師、専門看護師、専任薬剤師、臨床工学技士、管理栄養士、MSWも一緒になって日々の方針を議論しながら、多職種の視点から医療ケアを行う体制を作っている。これも制度開始以前より取り組んで来た医師の働き方改革が実を結んだ結果である様だ。同院では、包括診療部の立ち上げから始まり、病院総合医プロジェクト等、単なる業務移管に留まらない体制を整えた点が大きな影響を及ぼしている。包括診療医の強みとして、協働によるチーム医療、包括的医療の実践、地域包括ケアシステムへの貢献、医療経営管理やレジデント育成等を掲げ、これらを意識した医師とコメディカル部門は、職種の垣根を超え、一体となって救急医療へ取り組む事が出来ているのだ。

こうした好事例に追随すべく、少しずつ移管を進めている病院も有る。都内近郊で勤務する或る薬剤師によると、その病院では、各職種が医局側と話し合い、代行オーダープロトコルを決定していると言う。これには賛否両論が付きまとうものの、決められた条件下で行う代行入力については、患者への医療サービスの確実性を上げる事が出来、より良質な医療を提供し得る事から、正に医療専門職として行える「ルーチン業務」の1つであると言える。

又、病院薬剤師による代行処方についても、定期代行処方や持参薬切替代行処方、クリニカルパスに於ける体重や腎機能に見合った抗菌薬投与量の調整等、タスクシフト・タスクシェアの影響を受けていると言う。最近では、AST(Antimicrobial Stewardship Team:抗菌薬適正使用支援チーム)としても、薬物TDM(Therapeutic Drug Monitoring:薬物血中濃度モニタリング)実施による抗菌薬投与設計や広域抗菌薬処方例への介入等、業務移管の幅は拡充する一方となっているそうだ。

「医師の働き方改革」で浮上した問題点と改善点

順調にタスクシフト・タスクシェアを実現して来た事例が在る一方、結果としてコメディカル側の業務量が多くなり、残業時間増加の傾向が見られる事実も忘れてはならない。

前述の薬剤師によると、薬剤師は、従来も外来での院内処方や入院処方の調剤監査、抗がん剤や中心静脈栄養輸液の無菌調製、医薬品情報業務等は行っていたが、そこに病棟業務として処方薬の患者への個人セット、内服や注射処方オーダー確認、医薬品相互作用確認、化学療法導入患者への初回指導、薬剤管理指導や退院指導が加わり、場合によっては入院患者へのポリファーマシーへの介入やカルテ薬歴への記載等、追加で行う業務が非常に多くなったそうだ。これ迄は調剤室での業務が中心だったが、より患者に近い場所での業務が増加している事も顕著な変化である。薬剤師が直接患者と接する機会が増えた事で、医師だけで処方業務を行っていた時よりもスピーディーに、よりエビデンスレベルの高いサービスが提供出来る様になり、薬剤師のサービスの質の向上にも繋がっている。だが、働き方改革で医師の勤務時間を見直す事が、一方で薬剤師を始めとしたコメディカルの勤務時間を増やしているのでは、医療界の真の「働き方改革」とは言えまい。

では以前より多忙となっているコメディカル部門の改善点は何処に有るのか? それは、「人材確保」と、集中すべきコア業務の確立による「労働生産性の向上」に尽きるだろう。医師の働き方改革は、医師からのタスクシフト・タスクシェアだけで進む訳ではない。業務を移管された側のコメディカルの意識改革や体制作り等、病院全体の取り組みが必須である。取り組みの成果は、各病院で今後徐々に表れて来るが、改革を成功に導くには、今回紹介した事例等、上手く機能した取り組みを如何に自院に取り入れて行くか、これこそが鍵となりそうだ。変化が求められている。

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

Return Top