SHUCHU PUBLISHING

病院経営者のための会員制情報紙/集中出版株式会社

未来の会

第172回 ◉ 浜六郎の臨床副作用ノート メトホルミンでビタミンB12欠乏

第172回 ◉ 浜六郎の臨床副作用ノート メトホルミンでビタミンB12欠乏

薬のチェックでは、医師国家試験、薬剤師国家試験を紹介し読者に回答を試みてもらっている。114号では2024年の医師国家試験から、心不全改善と慢性腎臓病の改善を目的とした薬剤として、いずれもSGLT-2阻害剤を選ばせる問題が出題された。消去法でSGLT-2阻害剤を選ぶしかないが、ダパグリフロジンの慢性腎臓病への適応承認(21年8月)から日は浅く、他の2剤の適応承認はさらに遅い。

そのうえ、慢性腎臓病適応の根拠になったランダム化比較試験(RCT)にはデータの矛盾が多く、腎機能改善・総死亡低下効果の確実な証拠は発見できなかった(詳細は次号)。また、症例に起こった害反応が見過ごされていた。症例要約を通じ、読者にも考えていただきたい。

症例

Aさんは65歳の男性。糖尿病と高血圧で通院し、ビグアナイド剤、DPP-4阻害剤およびアンジオテンシン受容体拮抗剤服用中。自覚症状はなく、毎日7000歩を歩いている。身長164㎝、体重60㎏。脈拍72/分、整。血圧118/72mmHg。アキレス腱反射は両側で消失している。尿所見:蛋白3+、潜血(−)、随時尿の尿蛋白500mg/dL、尿クレアチニン250mg/dL。血液所見:赤血球300万、Hb10.0g/dL、Ht33%、白血球6200、血小板31万。血液生化学所見:尿素窒素25mg/dL、クレアチニン1.2mg/dL、eGFR48.0mL/分/1.73m2、尿酸6.0mg/dL、血糖120mg/dL、HbA1c7.2%(基準4.9〜6.0)、Na142 mEq/L、K5.0 mEq/L 、Cl108 mEq/L。出題は、この患者の腎機能低下を抑制するために追加する薬剤はどれかとして、a.尿酸低下薬、b.SGLT-2阻害薬、c.カルシウム拮抗薬、d.スルホニル尿素薬、e.陽イオン交換樹脂製剤から選ばせる問題であった。正解はb.

大球性貧血が見過ごされている

上記症例には、顕著な貧血があり、MCV=110と推定され、大球性貧血であるため、腎性でなくビタミンB12欠乏性が強く疑われる。アキレス腱反射消失の神経障害を伴っていることも、ビタミンB12欠乏症を強く示唆する。胃切除術の既往は書かれておらず、薬剤性が強く疑われる。

ビタミンB12欠乏症の原因はメトホルミン

処方された薬剤の中で、ビタミンB12欠乏症を起こしうる薬剤は、ビグアナイド剤であり、おそらくメトホルミンである。メトホルミンが、ビタミンB12の吸収を抑制することは。確立されている。

メトホルミンはミトコンドリア毒

メトホルミンの基本的な作用は、細胞内のミトコンドリアの呼吸鎖の機能を抑制しインスリンの分泌を抑制することである。動物実験でも肥満動物でのみ血糖降下作用が認められている。肥満でインスリン分泌過剰の糖尿病の人にのみ有効である。標準体重の糖尿病患者Aさんのインスリン分泌機能は低下していると考えられるため、毒として働きうる。

SGLT-2阻害剤併用で代謝性アシドーシス増

代謝性アシドーシスは一旦起こると約半数が死亡するほどの重大な害反応である。これが、メトルミン使用で年間1万人に1人未満、SGLT-2阻害剤では年間1300人に1人程度とされているが、両者の併用で当然ながら危険性が増大する。

必要な医療はメトホルミン中止

Aさんに必要な医療は、まず血中のビタミンB12と葉酸の濃度を測定し、メトホルミンとDPP-4阻害剤を中止し、ビタミンB12を補給し、食事内容を見直し、インスリン注射を開始することである。その結果、腎機能も改善するかもしれず、SGLT-2阻害剤の使用は的外れである。

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

Return Top