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未来の会

後発医薬品の安定供給は5年間で実現し得るか

後発医薬品の安定供給は5年間で実現し得るか
供給停止状態となっている医薬品の7割を占める後発薬

長引く後発医薬品(ジェネリック)不足の現状を打開すべく、厚生労働省の有識者会議「後発医薬品の安定供給等の実現に向けた産業構造のあり方に関する検討会」は5月、報告書を纏めた。今後5年程度の「集中改革期間」を設け、ジェネリック業界の再編を促す事等が柱だ。

 後発薬は先発医薬品(新薬)の特許が切れた後、新薬と同一成分で作られる薬だが、診療報酬改定の度に薬価が下がり、「作る程赤字」の薬も在る。業界再編へのハードルは高く、品薄状態が解消される見通しは立っていない。

 同検討会の報告書が公表される直前の5月17日。記者会見で後発薬の安定供給について問われた武見敬三・厚労相は「足元の供給不足への対応を着実に行いつつ、中長期的な産業構造の改革に取り組んで行く事が必要だ」と切り出した。それには一定規模の企業による生産が必要だと指摘し、「企業間の品目統合による少量多品目構造の適正化、品質管理部門等に於ける企業間の協業による効率化等の連携・協力が求められる」と語った。

 医薬品の供給不足の深刻化は2020年12月、中堅後発薬メーカーの小林化工が製造販売する薬に睡眠誘導剤が混入する事案が発覚した事が切っ掛けとなった。この薬を服用後に意識を失って倒れ込む等、240人以上が健康被害を被った。同社は116日間の業務停止処分となったが、以降、後発薬メーカーを中心に製薬企業で法令違反が相次ぎ、日医工、沢井製薬等、後発薬大手を含む計21社が出荷停止等の行政処分を受けている。

 影響は今に至る迄長引いており、日本製薬団体連合会によると、4月末時点で医師の処方箋を要する医薬品の23・0%(3906品目)が限定出荷や供給停止状態で、その7割弱(2589品目)を後発薬が占める。後発薬全品目の内出荷制限は16%、出荷停止は14%だ。コロナ禍に於ける感染予防の徹底で流行が抑えられていた季節性インフルエンザ等が拡大した影響で、最近は咳止め等身近な医薬品の不足も目立っている。

少量多品目生産の非効率な業界構造再編が鍵

 供給不足が中々改善しない背景として、1万1000にも及ぶ品目の後発薬を190もの企業がそれぞれ少量生産している現状が在る。後発薬メーカーの67%は売り上げが年10億円に満たず、経営体力は弱い。この為、品質管理を十分に出来ず、増産の余力も無い。自社工場が無くとも共同開発したり、製造を委託したりする事で「自社ブランド」として承認を受けられる業界に有利な仕組みは有るものの、核となる会社・グループに不正が有ればその仕組みが裏目となり、一蓮托生で販売中止に追い込まれてしまう。

 有識者会議の報告書でも「少量多品目生産といった非効率な生産が広がり、(略)中長期的には成り立たない産業構造となった」とし、それによって品質確保や安定供給が疎かになったと結論付けた。その上で「後発医薬品の品質・安定供給問題は問題を起こした企業の単独・一過性の問題ではない」と指摘している。

 厚労省も供給不足の現状を放置していた訳ではない。品薄解消に向けて生産計画を立てた企業への補助をしている他、昨年10月には武見氏が咳止め薬等の増産を各メーカーに要請し、他の薬の製造ラインの活用や在庫の出荷等を求めた。今年4月からは代替薬が無い医薬品が6カ月以内に供給不足に陥る恐れが有る場合、当該企業に報告を求めた。

 又、24年度の診療報酬改定では、安定供給が可能な企業の製品の薬価を試験的に優遇した他、全メーカーに製造実態の点検を要請し、10月迄に結果の報告と公表を求める事とした。今秋には規制を緩和し、市場シェアが小さい製品の生産停止をし易くするようにルールを改める意向だ。自社の判断で製造をストップ出来るようにし、利益の上がる医薬品に製造を集中出来るようにする狙いが有る。

 それでも、現時点で供給不足の改善は一部に留まっている。「後追いの対策が中心で、体力の無い中小がひしめく業界の構造的体質にメスを入れていない」(厚労省OB)事が要因として挙げられる。

 こうした反省も踏まえて5月22日に打ち出されたのが有識者会議の報告書だ。「産業全体として、先を見据えた業界再編の機運を高めていかなければならない」と指摘し、「業界の中核を担う自覚のある企業には、こうした動きを牽引し、業界団体を通じて業界全体をリードする役割も求められる」としている。

 具体的には、中小による「少量多品目生産」の非効率性を指摘し、大手メーカーによる合併や買収、ファンドの仲介による複数メーカー、事業の統合、業界による自主的再編——による生産能力の拡大と効率化を図るよう求め、法整備の必要性にも触れている。5年程度の集中改革期間中は政府による金融・財政措置により経営統合や事業の一部譲渡等、業界再編の後押しを促している。又、全メーカーが徹底した自主点検をし、結果を都道府県や厚労省に報告すべきだとしている。

 同日の検討会に出席した日本ジェネリック製薬協会の高田浩樹・会長(高田製薬社長)は「社会的責任を果たすと共に強い企業となり、リーダーシップを取って行きたい」と決意表明した。これに応じ、厚労省も生産体制の脆弱な企業を参入させず、品目数自体も絞り込んで行くとしている。だが、業界再編には厚い壁が立ちはだかる。

金額ベース65%シェア目標を新たに設定

業界の多くは中小で、他の企業を買収出来る程の資金を持っていない所が多い。政府は国の補助の他、優遇税制の導入等を検討しているが、果たして利幅の薄い後発薬メーカーを買収しようとする企業がどれ程在るかは未知数だ。企業間の連携が独占禁止法に抵触するリスクも残る。業界の一部に残る「薬価差益」も懸案の1つだ。卸から安く大量に仕入れる事で値引きを求め、公定薬価との差額を得ようとする医療機関は一部存在する。他社の製品との差別化が難しい事も有り、卸による安売り合戦を招きがちだ。採算の取れない薬も在り、薬価差益の追求は市場価格の下落、ひいては製薬業界への打撃に繋がる。

 後発薬メーカーが原材料を海外に頼っている問題点も有る。厚労省によると、日本の後発薬の原薬は60%を輸入で仕入れている。調達先は中国21%、インド17%等、イタリア、韓国を加えた4カ国で7割程度を占める。医薬品医療機器等法は原薬も他社の物は使用不可と定めており、他社との融通が利かず、承認書に記されていない他の原料を使う事も出来ない。コスト高の国産化に舵を切るのは容易ではなく、国際的な有事によっては不測の事態も起こり得る。

 そもそも、後発薬業界の苦境は政府による後発薬の薬価抑制に起因している。医療費削減や財政健全化を達成したり、診療報酬本体アップの財源を捻出したりする手法として、後発薬の薬価は一貫して減額されて来た。と同時に、後発薬に関しては市場シェアに数値目標を打ち立て、普及を図って来た。05年に32・5%だったシェアは23年には80%超となり80%の目標をクリアしている。問題は多発しているものの、医療費削減を優先せざるを得ないと、後発薬の利用を進める政府の方針自体は今後も変わりは無い。従来は後発薬の利用割合を数値目標として来たが、厚労省は今年3月、金額ベースで29年度末迄に65%のシェアを目指す方針を新たに掲げた。又、今年10月からは処方薬について後発薬を原則とし、患者が先発薬を選ぶ場合、後発薬の薬価との差額の25%を保険適用から外す事にしている。

 これ迄国は医療費削減の観点から後発薬の利用を促すばかりで、安定供給については事後対応に終始して来た。報告書に従って5年間を「集中改革期間」としても、裏返せばこの期間は依然、後発薬の供給不足が続く可能性が有る事になる。5年と言わず、政府は早期に業界の構造的な問題に切り込み、早期に安定供給を可能にさせる義務を負っている。

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