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未来の会

第177回 患者のキモチ医師のココロ 「サプリメントを飲んでます」と言われたら

第177回 患者のキモチ医師のココロ 「サプリメントを飲んでます」と言われたら

 「紅麹」が含まれるサプリメントによる健康被害が広がっている。コレステロールの低下などを期待する人たちに人気の商品だったようだ。

 今回のサプリメントは、事業者の責任において、機能性(健康にプラスの効果)を表示できる「機能性表示食品」であった。この機能性表示食品制度は2015年に始まり、事業者はその根拠となる情報を届け出ることで、機能性を記した商品を販売できる。よく知られている特定保健用食品(トクホ)のように、国の審査によって、効果や安全性が審査されたものではない。また、届け出先は厚労省などではなく消費者庁長官となっている。つまり、消費者が商品の説明を読むなどして、自らの考えや選択で購入したり摂取するもの、それが機能性表示食品なのだ。トクホのように、国が審査し、効果や安全性が認められているわけではないのと同様に、「機能性表示食品」とうたわれているからといって国などの“お墨付き”が得られているわけではなく、むしろ「これをチョイスするかどうかはあなたの責任で決めてください」と迫られていると考えた方がよい。

 診察室で「サプリメント」が話題にのぼることはあるだろうか。患者から、「先生、こういうサプリを飲んでるんだけど効果ありますか。まさか有害じゃないですよね」と聞かれたら、なんと答えているだろう。

国立健康・栄養研究所のサイトは有用

 親切かつ科学的根拠を大切にする医者にとって有用なのは、国立健康・栄養研究所のホームページにある「素材情報データベース」だ。五十音別にズラリとさまざまな食品や成分の名称が並んでおり、それぞれについての有効性などが文献とともに提示されている。ただし、このデータベースが万全というわけではない。その理由のひとつは、多くの項目で有効性については「調べた文献の中に見当たらない」と表示されているからだ。これに基づくと、患者に「これは効果あるだろうか」と問われたとき、ほとんどの場合は「ないですね」と答えなければならなくなる。ただ、このデータベースだけですべての情報が手に入るわけではない。

 たとえば、八丈島の特産品で関東などでも収穫できる野菜に「あしたば」というものがある。この「あしたば」はミネラルの宝庫とされ、それを原料としたサプリメントも多数販売されている。前述のデーターベースによれば、「医薬品的効能効果を標ぼうしない限り医薬品と判断しない成分本質 」となっている。ややわかりにくいが、「医薬品と間違えられるような書き方をしなければ売ってよいですよ」ということだろう。言うまでもないが、「あしたば」のサプリメントは機能性表示食品として販売されている。

 これだけなら、診察室で「先生、『あしたば』のサプリ飲んでいいですか」と聞かれたら、「うーん、効果は明らかじゃないけど、あなたが飲みたければいいんじゃないですか」といった答え方でよいだろう。

 ところが、それでは済まない場合があるのだ。「あしたば」にはビタミンKが多く含まれている。実際の野菜をおひたしや天ぷらにして食べる程度なら問題はほぼないが、サプリメントとなると一度に生食の何倍もの成分を摂取する可能性もある。言うまでもないが、ビタミンKは抗凝固剤であるワーファリンと拮抗してその効果を減弱させる。ワーファリンを服用中の患者には、「あしたば」のサプリメントは控えるように言わなければならないのだ。このことは国立健康・栄養研究所のデータベースには記されていない。

 もちろん、純粋に医療の問題だけを考えるなら、このように処方薬と相性の悪いサプリメントを何種類か覚えておいて、それに留意しながら診療を行えばよいだろう。そのほかの機能性表示食品については、一律、「まあ科学的効果はないですけどね」と言えば済むことだ。

 ただ、健康志向の高まりや高齢人口の増加とともに、「自分で選んだサプリで健康を維持したい」という人はどんどん増えている。中には「疾病の進行を防ぎたい」「できるなら症状を改善させたい」と願う人もいてもおかしくはない。そういう人たちを一概に「サプリ?意味ないよ」と切り捨てるのは、医療従事者として良いコミュニケーションとは言えないだろう。

サプリの問診から始まるコミュニケーション

 私は、初診時の問診で「サプリは使っていますか」と尋ね、医薬品とのバッティングをチェックしたあとで、もうひと言つけ加えることにしている。「そのサプリにどんな効果を期待してらっしゃるのですか?」すると、それぞれがそのサプリメントを飲み始めたきっかけや自分の健康観や医療への信頼・不信感、さらには「孫が買ってくれるので」など家族関係についても語ってくれることがある。それがその後の診療のヒントやその人についての貴重な情報になることがある。

 私が出会ったある人は、何十種類ものサプリメントを摂取しており、一部のビタミンは明らかに過剰摂取となっていた。ただ、そこで「こんなに飲んだらかえって有害ですよ」と脅すのは意味がないので、「ずいぶん体に気をつかってるのですね」と水を向けてみた。すると、とにかく誰にも迷惑をかけたくない、自分の体は自分で守らなければ、という思いで、常に緊張しながら生活していることがわかった。

 私は、「たいへんしっかりと健康管理されているようですが、周期的な頭痛と脈が飛ぶ症状については、ちょっとこちらにも担当させていただけませんか」とサプリメントを大量摂取していることは否定せずに、検査や処方について提案してみた。すると、ホッとした表情となり、「おまかせしてよいのですか。お願いします」という答えが返ってきた。

 今回の「紅麹」を含むサプリメントによる問題については、ひとりの医者が原因不明の腎機能低下の患者を複数診て、その共通点としてサプリ摂取があったことから発覚したようだ。「何か愛用していたサプリはありますか」と問診しなければわからなかったことだろう。原因がわからない、診断がつかないというときに、その人の日常や生活背景にも目をこらすことを忘れてはならない。その教訓にもなった。

 今回のことで“サプリ熱”は冷めるだろうか。私はそうは思わない。それどころか、さらにその種類は増えるばかりだと思われる。そうなると、私たちがいくら勉強したところで、到底、その効能や安全性についてすべて知ることはできない。だとしたら少なくとも、「サプリ?毒にも薬にもならないから、まあいいんじゃないの」と“患者まかせ”にするのではなく、「何が入っているんですか」とパッケージを見せてもらったり、「どうして飲んでるんですか」と理由などについて聞かせてもらったり、「サプリを飲む患者」を診療と接続させたいところだ。

 また、事業者にも「とにかく売りたい」という姿勢ではなく、いくら審査がないとしてもその安全性について一定の自己ルールを決めてきちんと検証する、といった態度が望まれることは言うまでもない。

 ちなみに、これを読んでいるドクターはサプリメントを愛用しているだろうか。もしそういう人がいるとしたら、「何を期待して飲んでいるか」をぜひ聞かせてもらいたい。そこにも「医療とは何か、健康とは何か」を考えるヒントが隠されていそうだ。

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