政府はマイナカードと一体化した「マイナ保険証」の利用が進まないのに業を煮やし、国民に活用を強く促している。にも拘わらず、1月の利用実績は全国平均で4・60%に止まり、一向に利用は広がらない。率先する立場の中央省庁(国共済組合)の平均(昨年11月時点)が4・36%、保険証を所管する厚生労働省ですら4・88%と低く、同省内からは「これでは示しが付く筈もない」(幹部)との嘆きが零れる。
現行の健康保険証は今年12月、マイナ保険証へと切り替えられ、経過期間中の現在はどちらも使える。厚労省によると、マイナンバーカードの保有者は9168万人と全人口の73・1%に達し、内7143万人(77・9%)はマイナ保険証を使えるよう登録を終えている。それが実際の利用率となると一気に下がり、トップの鹿児島県でも8・44%、最下位の沖縄県は2・31%に低迷している。
尤も、マイナ保険証を利用するメリットとしては、高額療養費の申請をしなくても自動的に適用されたり、確定申告の医療費控除の手間が楽になったり等の他、転職・転居時にも健康保険証の切り替えが不要、医療費の自己負担が少しだけ安くなる、といった事位だ。自身もマイナ保険証を利用していないという厚労省職員は「私もそうだが、大した利点も無く健康保険証を併用出来るなら、敢えてマイナ保険証を使う人が未だ少ないのは仕方ないだろう」と話す。
国民に切り替えを迫っている政府側の発言とも思えないが、実際各省庁の昨年11月の利用率は1位の総務省ですら6・26%。内閣府の5・12%等、財務、農水、経済産業各省は5%台、法務、国土交通、文部科学各省は厚労省と同じ4%台。外務省は3・77%で、最下位の防衛省に至っては2・50%と極端に低い。
こうした事態を受け、武見敬三・厚労相は「低過ぎる。率先して使って貰う様、働き掛ける必要性を改めて認識した」と述べ、医療機関や保険運営者に利用勧奨をさせるべく働き掛けて行く考えを強調している。
それでも、「未だマイナ保険証を使えない医療機関も有り、健康保険証との使い分けは面倒臭い」(財務省幹部)等、国の役人にも消極的な声は多い。厚労省の中堅幹部は「マイナ保険証に一本化される12月以降は利用率が高まる筈」と楽観視しているものの、外務、防衛両省の低さに関しては「気になる」と漏らす。
そもそも健康保険証のマイナ保険証への一本化は、マイナカード普及に向けた一策だが、政府はもっと早くから普及策を進めている。その1つが、2016年から取り組んでいる、国家公務員の身分証をマイナカードに一元化するものだ。
ところがスタート直前の15年11月、内閣官房、警察庁、公安調査庁、外務省、防衛省は連名で「国家公務員身分証の個人番号カード一元化における問題点等について」との文書を政府に提出。一元化の問題点として、「紛失・盗難等により、職員の氏名、住所、年齢等を所属省庁とともに把握できる」とし、「職員やその関係者に対する危害・妨害の危険性が高まる」と指摘していた。又、「個人情報を一括して盗まれ、それらを基にした職員個人に対する不正な働きかけに利用される可能性が否定できない」とし、身分証との一元化の適用除外を要請している。
前出の厚労省中堅幹部は「外務省や防衛省のマイナ保険証利用率の低さは、身分証の一元化同様、海外情報機関等への情報流出への懸念を反映したものではないか」と言いつつ、でも、と付け加えた。
「情報漏洩を心配しているのは国民も同じ。主要省庁に信頼されていないシステムを国民に使えというのは正直、ハードルが高い」
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