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未来の会

「訪米成果」と「内政下手」の岸田評価ギャップ

「訪米成果」と「内政下手」の岸田評価ギャップ

「同盟協力」の意義を国民に説明する能力と意志の欠如

2001年の9・11米同時多発テロによって米国が「テロとの戦い」にのめり込んで行った00年代。米国は、世界に展開・駐留する米軍が効率的・機動的にテロとの戦いに対処出来るよう世界的規模の米軍再編(トランスフォーメーション)を進めた。欧州の対ロシア抑止に於いては北大西洋条約機構(NATO)加盟国に軍事分担を求め、アジア太平洋地域に於ける対中国・北朝鮮の抑止戦略に於いては日本に分担を求める方向で同盟協力の拡大協議が進められた。

 それに呼応したのが当時の小泉純一郎・首相率いる自民・公明連立政権だった。日米政府間の在日米軍再編協議は02年から始まり、06年5月の最終報告「再編実施のための日米のロードマップ」に結実する。最終報告には、米海兵隊普天間飛行場(沖縄県)の代替施設への移設や、沖縄に駐留する海兵隊の一部グアム移転、海軍厚木基地(神奈川県)から岩国基地(山口県)への空母艦載機部隊の移転等、日本側の基地負担軽減を含む大規模な再編計画が盛り込まれた訳だが、その結論に至る過程で日米両政府は05年2月にアジア太平洋地域に於ける「共通戦略目標」、同年10月には中間報告「日米同盟:未来のための変革と再編」を策定している。

原点は2005年の在日米軍再編2文書

 在日米軍再編に当たって日米の外交・防衛当局が05年に交わした共通戦略目標と中間報告の2文書が、その後の同盟協力の方向性を決定付けたと言っても過言ではない。同盟協力とは何か。同盟国の何れかが他国から攻撃を受けた際に同盟国全体で防衛・反撃する集団的自衛権の行使が軍事同盟本来の目的だとすれば、同盟協力は同盟に付随する分野で協力を深める事により、その実効性を高める目的で重視される様になって来た。特に戦争放棄と戦力の不保持を謳った平和憲法を戴く日本は、集団的自衛権の行使に制約が有る為、直接的な軍事力の行使に至らない範囲でどの様な役割を担うかが同盟協力強化の鍵を握る。その為、中間報告では「自衛隊と米軍の役割・任務・能力の検討」が主題となった。

 中間報告を貫いているのは、日本の防衛とアジア太平洋地域の安定の為に米国には十分な兵力を展開して貰い、「核の傘」を含む抑止力を明示的に提供して貰う事、その見返りとして日本は自衛隊と米軍が共同行動を取れるよう作戦計画や部隊運用の一体化を進めると共に、民間の港湾や空港等を有事に米軍に提供するという役割分担の徹底だ。当時のメディア報道では在日米軍基地の再編ばかりに焦点が当てられた嫌いが有るが、日米協議に携わった防衛省OBは「我々の仕事の大半は中間報告で完了したと思っている。あの頃から我々の念頭には中国が在ったし、あの時代によくあそこまで書けたと思う」と振り返る。中間報告の前提となった共通戦略目標には、国際テロや大量破壊兵器の拡散という新たな脅威に対処する事に加え、「地域における軍事力の近代化に注意を払う必要がある」と明記。これが中国の軍事的台頭を指すのは明らかで、共通戦略目標の具体的項目として「台湾海峡を巡る問題の対話を通じた平和的解決を促す」事も明記された。

 当時、日米政府間の公式文書が「台湾」に言及するのは極めて異例と言えた。日米共に、中国の主張する「1つの中国」を否定はしておらず、又、米国は「中国の経済成長を後押しすれば政治面の民主化も進み、民主主義を基調とする国際秩序にいずれ中国を取り込める」と考える対中エンゲージメント(関与)政策を採用していた。日本も、日中国交正常化を進めた田中角栄・元首相の流れを汲む旧・経世会(現・平成研究会=茂木派)主導の橋本龍太郎─小渕恵三政権の時代には考えられなかった事だが、親中意識の薄い旧・清和会(安倍派を最後に解散)の森喜朗─小泉純一郎政権に移行したタイミングと重なり、日米の中長期的な脅威認識の中に中国の軍事的台頭を位置付ける戦略協議へと発展する形となった。

「6月解散」シナリオの道筋見えず

最終報告に盛り込まれた在日米軍の再編計画は、普天間飛行場の移設を始め、未だ途上に有る項目も少なくない。中国の軍事的台頭を睨んだ共通戦略目標と中間報告の合意事項も、日米双方の対中戦略が揺れ動く中で店晒しになりかけた時期も有った。米側ではオバマ政権の1期目まで対中関与政策が続いたが、中国の習近平体制が権威主義的姿勢を強めた結果、オバマ政権も中国を戦略的な競争相手と見做す方針に転換。日本側では親中派と目された鳩山由紀夫政権の誕生で一時、日米関係がギクシャクしたが、その後の政権は民主党政権時代も含め同盟協力の強化を推し進めた。

 特に安倍晋三政権は、集団的自衛権の行使を可能とする安全保障関連法の制定に踏み切り、同盟本来の軍事協力にも実効性を持たせた意義は大きい。もう1つ、安倍政権の成果と言えるのが、日米豪印4カ国(クアッド)戦略対話等、同盟国の米国以外に安保協議の対象を広げた事だ。実は05年の中間報告も、日米の共同訓練に加えて「多国間の訓練及び演習への自衛隊及び米軍の参加により、国際的な安全保障環境の改善に対する貢献が高まる」と指摘していた。安倍政権は、中国の脅威を共有する東南アジアや、中国・ロシアへの警戒を強めるNATOとの関係強化にも取り組み、岸田文雄政権はそれを引き継ぐ事で、中露等の権威主義国家との対決姿勢を前面に押し出している。これも05年に日米政府間の在日米軍再編協議で合意した共通戦略目標と中間報告の延長線上に位置付けられる。

 岸田首相は4月8日から国賓待遇で米国を訪問し、バイデン・米大統領と会談した外、南シナ海で中国と対峙するフィリピンのマルコス・大統領も含む日米比3カ国首脳会談も行った。安倍元首相以来9年振りとなった米議会での演説では、米国が中心となって築き上げて来た国際秩序がロシアのウクライナ侵略や中国の軍事的台頭によって新たな挑戦を受けていると指摘し、自由と民主主義に基づく国際秩序を日米で守って行く決意を表明した。今年11月の米大統領選で米国第一・同盟軽視のトランプ氏が返り咲く懸念が広がる中、「米大統領が誰になろうと日本は同盟協力の強化路線を堅持する」という国際公約を米議会で宣言した意気や良し。最大の問題は、これが肝心の日本国民に理解されていない事だ。

 首相就任以来推し進めて来た防衛費の大幅増、英国・イタリアと共同開発する次世代戦闘機の第三国輸出、日本企業がライセンス生産した地上配備型迎撃ミサイル「パトリオット」の対米輸出等は全て、日米の役割分担を強化し、同盟協力を拡大する事によってアジア太平洋地域の平和と安定に貢献するという20年来の国家目標に沿った政策を着実に実行しているものだ。惜しむらくは、その意義を国民に説明する能力と意志の欠如だろう。国民の側から聞こえて来るのは「米国のポチ」「平和憲法を蔑ろにする軍拡政権」等の批判ばかり。「外交の岸田」を自任した所で国民の評価が得られなければ意味が無い。

 自民党の派閥政治資金を巡る裏金事件への対応は後手後手に回って内閣支持率は地を這ったまま。9月の自民党総裁選を睨み、巨額の裏金還付を続けていた安倍派全体を敵に回したくなかったのだろう。しかし、真相解明に踏み込まない対応が国民の政治不信を増幅させ、自民党内では恣意的な処分が首相の求心力低下を招いた。外交・安保政策の道筋を付けた4月の訪米成果を内閣支持率の回復に繋げて通常国会会期末に衆院解散というのが首相周辺の描く「6月解散」シナリオだが、「内政下手」の岸田首相が待ち望む支持率回復の道筋が見えない。

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