抗凝固剤や抗血小板剤、NSAIDsに出血の害があることはよく知られている。しかし、カルシウム拮抗剤(Ca拮抗剤)そのものによる出血の害、あるいはCa拮抗剤と抗凝固剤、とくに直接作用型経口抗凝固剤(DOAC)との併用による重篤な出血の害についてはあまり知られていない。薬のチェック112号1)では、この害反応について解説したので、その概略を紹介する。
ジルチアゼムとDOACの相互作用で出血
まず、カルシウム拮抗剤のㄠつジルチアゼムとDOACとの相互作用による重篤な出血(入院例)の害に関する観察研究2)を扱ったプレスクリル誌の記事3)を紹介する。この研究2)は、米国の300万人以上が加入する健康維持組織のデータベースを用いた観察研究で、DOACを初めて処方された成人4544人が対象となった。DOAC開始時ジルチアゼム継続使用例が15%、その後5%にジルチアゼムが新規処方された。
ジルチアゼム併用による重篤な出血の調整ハザード比(95%信頼区間)は、リバロキサバン使用例では2.1(1.0-4.2)、アピキサバン使用例では3.1(1.5-3.3)であった。
CYP3A4とp-糖タンパクが相互作用に関係
ジルチアゼムとDOACを併用して出血リスクが増加する理由として、いずれの薬剤も、CYP3A4で主に代謝されること、また、いずれの薬剤も、トランスポーターであるp-糖タンパクの基質となり排泄されるため、競合的に作用し、DOACの血中濃度が高まることが、指摘されている1)〜3)。
すべてのCa拮抗剤が相互作用に関係する
しかしながら、Ca拮抗剤はジルチアゼム以外に、ベラパミルと、多数のジヒドロピリジン剤がある。これらすべてのCa拮抗剤は主にCYP3A4で代謝され、p-糖タンパクの基質になる1)。
そして、DOACが使用される非弁膜症性心房細動例には高血圧を合併する例が多く、降圧剤としてジルチアゼムやベラパミルだけでなく、ジヒドロピリジン剤が併用されることも少なくない。したがって、DOACとの相互作用による出血は、ジルチアゼムだけでなく、すべてのCa拮抗剤に該当する害反応である。
Ca拮抗剤そのものに出血の害がある
多くの細胞の活動にはカルシウムイオンの細胞内への流入が関係するため、Ca拮抗剤には平滑筋弛緩による血管拡張作用のほか、免疫抑制作用、血小板抑制作用などがある。実際、心臓の手術に際して、プラセボに比較してジヒドロピリジン剤で大出血と死亡が増加し中断されたランダム化比較試験(RCT)が、1996年に報告された4)。
その後Ca拮抗剤の出血の害が注目され、Ca拮抗剤と出血に関する研究が多くなされた。Ca拮抗剤と消化管出血との関連を調べた研究のメタ解析によるリスク比は、全体で1.17、症例対象研究1.20、コホート研究1.44であった。この研究では、RCTのメタ解析結果が、観察研究の結果と整合しなかったが、出血で最も重要な全出血が高頻度であったRCTをメタ解析した結果では、オッズ比1.76であり、観察研究と矛盾しなかった。したがって、Ca拮抗剤自体に出血の害がある、と結論できた。
しかし、現在の日本の添付文書ではCa拮抗剤そのものの出血の害も、DOACとの相互作用についても、一部を除いて、注意喚起が極めて不十分である。
実地臨床では
Ca拮抗剤と抗凝固剤は併用される可能性が高いにも関わらず、出血の害に対して十分な評価と注意喚起がされていない。これらを併用する場合は、Ca拮抗剤そのものによる出血の害と、相互作用による出血の害の増加の両面から注意が必要である。
参考文献
1)薬のチェック2024:24 (112):42-43.
2)Xu Yet al. J Am Heart Assoc 2022; 11(14): e025723
3)Prescrire International 2023 32(250): 189
4)Legault C et al. Stroke. 1996; 27: 593-8.
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