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旧統一教会被害者救済法から1年

旧統一教会被害者救済法から1年

財産保全法の顛末

2023(令和5)年12月13日に世界平和統一家庭連合(旧統一教会)被害者救済法が成立した事は記憶に新しい。

 この法律では、法人等が霊感等の知見を使って不安を煽り、寄付が必要不可欠だと告げるといった個人を困惑させる不当な勧誘行為を禁止している。個人に借金させたり、自宅を売らせたりしてまで資金を調達する様要求する事も禁じている。個人の自由な意思を抑圧し、適切な判断が困難な状況に陥らせない様にする配慮を法人に義務付けている。違反した場合、法人名を公表出来る様にする事で法の実↘効性を高めた。罰則も設けられ、禁止行為に違反し行政の勧告や命令に従わなかった場合には、1年以下の懲役か100万円以下の罰金の刑事罰を科すとしている。併せて霊感商法等の悪質商法による契約を取り消せる「取消権」を行使出来る期間を10年に延長する事を盛り込んだ改正消費者契約法も成立した。取消権は寄付をした本人が求めていない場合でも、扶養など一定範囲の親族でも行使出来る。又、集められた寄付金の帰属先を組織の幹部等の個人に変え、規制対象から逃れられない様にする事が課題として残った。

 被害者救済法の運用について数的なデータは未だ取りまとめられていない。関与する弁護士は、「自由な意思を抑圧されている」状況が曖昧な事、「著しい支障が出ている」状況を客観的に確定出来ない事、著しい支障が現在に於いて解消されている場合の取り扱い等が曖昧な事が課題だとしている。又、禁止行為が不特定又は多数の個人に対して繰り返し組織的に行われている事を外部から必ずしも明らかに出来ない為、推認するに留まり権限の行使が難しくなる事が懸念されている。

 23年10月13日、旧統一教会を巡る問題で政府は「文部科学省が事実関係の確認を重ねた結果、解散命令請求に足る客観的な事実が明らかになったと認められた為」と述べ、文部科学省が解散請求を東京地裁に請求した。

 時期を同じくして、与野党の各党が旧統一教会の財産の保全を可能とする法律案の策定に入った。旧統一教会に被害者救済法での寄付金の返還請求が増加すると、解散命令を機に財産の海外への持ち出し、関連企業や関連団体、関係者への財産の移譲、隠匿等を行っても法的に制御は出来ず、被害者を救済する為の原資が確保出来なくなるのではないかという懸念に応じる為である。

公明党への配慮か、財産の保全は盛り込まず

 立憲の法案は2年間の時限立法である。何故2年という期間で区切るのだろう。第2、第3の統一教会が今後現れないとも限らない。法案の中身は会社法を準用して財産を保全する案である。「宗教団体の目的を著しく逸脱した行為をしたことに係る(中略)裁判の請求があった場合又は裁判の手続きを開始した場合、諸官庁、利害関係人若しくは検察官の請求により、その事件の決定があるまで当該宗教法人の財産に関し、管理人による管理を命ずる処分その他の必要な保全処分を命ずることができる」とし、保全処分の前提となる条件を以降に定めている。1つは「当該宗教法人による不当な寄附の勧誘その他の行為(中略)によって生じた損害の賠償に係る訴訟、示談の交渉及び国の行政機関その他の関係機関に対する相談に係る状況その他の事情に照らし、当該行為によって、相当多数の個人において、多額の損害が生じていると見込まれること」ともう1つは「当該宗教法人の財産の構成、国内から国外へ向けた多額の送金その他の当該財産の第三者への移転に係る状況その他の事情に照らし、当該財産の隠匿又は散逸のおそれがあること」である。国内から海外へ向けた多額の送金と明記しているあたりが旧統一教会に対する措置である事が明確に窺える。

 一方、自民党・公明党・国民民主党案は対案にすらなっていない。立憲・維新案は旧統一教会の財産を保全する事を可能とする法案だが、自民・公明・国民案は「憲法が保障する財産権を制限する様な措置は難しい」として法制化に踏み込んでおらず、財産目録の作成と報告を義務付けているだけに留まる。自民・公明・国民案は被害者からの請求が有れば財産目録を閲覧出来る様になる事と、被害者が不当な寄付の返還等を求めて訴訟するに当たり、日本司法支援センターから代理人費用や訴訟経費を立て替えて貰える仕組みの導入が創設されるとしている。その対象を審査し、特定被害者と特定宗教法人に指定して制度の対象とする事になる。自民・公明・国民案は結局のところ被害者の自助努力を促し、費用と手間を援助する制度を導入するだけの案と言っても過言ではない。旧統一教会の解散請求にまで乗り出したにも拘わらず、被害者救済の原資となる旧統一教会の財産を保全する規定には反対している。これでは財産目録を作成し報告さえすれば、財産を被害者救済に充てずに処分や海外送金、役員名義への変更、関連会社への譲渡といった救済逃れのお墨付きを与える様な法案になってはいないか。自民・公明・国民案も議員立法であるから、今回は例外的に公明党を抜きにして自民党単独案を検討すべきだ。この様な法案を出す事で、逆に創価学会を支持母体とする公明党への配慮であると、同党との連立の弊害を指摘される結果になり兼ねない。

 結局、12月に入り与野党は法案成立の為に一本化した。維新・立憲が自公案に相乗りする形で衆議院に於いて賛成多数で可決した。自民が法案の付則に「施行後3年を目途に財産保全のあり方を含めて法律の規定に検討を加える」と付け加え、野党に向けた微細な法案修正を行う事で決着した。国民民主党を加えて過半数を大きく上回る議席を持つ与党の前に維新や立憲は成す術が無く、恥を忍んで尺寸之功を立てるしかなかったと思われる。れいわ新選組だけが議決に反対した。法案が教団の財産を監視するだけで保全する権限を持たない事を主な反対理由としている。

被害者の債権の線引きが必要

さて、保全法案について内容を検証したが、そもそも論として旧統一教会の財産を保全するにはそれに相応する被害者の債権が必要なのではないか。その債権を確定するには個別の損害賠償訴訟での司法判断を経る必要が有る筈だ。旧統一教会の財産の保全を可能とする法律案の国会審議に合わせて、寄付金等の返還訴訟をスピードアップする事は三権分立の原則に反する上、特定の団体への弾圧にもなり兼ねない。被害は寄付をした本人だけであるとは限らない。家族や親族の財産を持ち出していたり、唆して所得していたり、更には他人から借り受けて寄付に及んでいる可能性も有る。又、寄付した事で将来の相続財産を毀損したり、進学や留学等の機会を享受出来なくなったり、家族の名義を使用し無断で寄付した事を信者本人が認めなかったり、債権を確定するには様々なケースが予想される。裁判手続きを開始したところで宗教法人の財産が保全されるべきであると考えるが、複雑怪奇が予想される寄付について何処まで債権として認められるのか皆目見当が付かない。

 旧統一教会の被害者が多数出ている事や母体が海外に在る事等から、本法案の成立は譬え骨抜きであっても、法的処置を取らず問題を放置するよりかは余程ましという考えが有る。一方で、れいわ新選組のいう包括的な財産の保全が規定されなければ財産が海外等に散逸するので本法案には反対するという考えも有る。れいわ新選組の主張は正論であるが多勢に無勢であり何も生まず前進しない。立憲民主党と日本維新の会が法案を撤回し成立を見たが、与党に対して迎合的であり果報になびいた印象は拭えない。

 とりわけ債権の認定に関しては、社会の風潮と隔して慎重かつ冷静な司法であらねばならない。

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