神奈川県立中井やまゆり園の大改革
先日、筆者は神奈川県立中井やまゆり園(足柄上郡中井町)を訪問した。知的障害のある80数人が暮らす入所施設で、1972年の開所から52年が経つ。人里離れた土地に隠れるように存在し、出入り可能な門は西側1カ所のみ。交通量が比較的ある東側の道路沿いには、結界のような深い堀が刻まれ、強固な城を思わせる土塁がそびえている。
同園では2021年以降、職員によるおぞましい虐待行為が次々と発覚した。虐待に関わったとみられる職員は64人にのぼり、「顔を平手打ちして額をこぶしで殴った」「入所者の肛門にナットが入っていた」「服薬用の水に塩や砂糖を混ぜた」など9件が虐待と認定された。「刺激を避ける」との理由で暗い施錠部屋に長年閉じ込められた入所者もおり、当時の園長が懲戒処分を受けた。
入所者を人間扱いしない職員を放置すると、津久井やまゆり園(相模原市緑区)で元職員が45人を殺傷した事件のような惨劇が再び起こりかねない。神奈川県は「当事者目線の支援改革プロジェクト」を中井やまゆり園などで開始し、現在も支援改善アドバイザーらが同園を巡回して、職員の意識改革や入所者支援を続けている。
23年に同園の園長となり、改革の重責を担う吉田信雄さんは語る。「開所した当初は、ここで2、3年過ごしながら生活リズムを整えて、地域に戻ることを目指していました。しかし、なかなか達成できず、出口の見えない施設になっていきました。入所者の平均年齢は上がり続けて、今は47歳になっています」
支援改善アドバイザーの大川貴志さん(障害者支援施設てらん広場統括所長)は、同園の問題点をこう指摘する。
「中井やまゆり園には『強度行動障害』と呼ばれる人が多くいますが、成育歴を辿ると、いずれも入所後に悪化したことが分かります。ストレスまみれの施設環境が、強度行動障害を作り出したのです。これは支援の敗北であり、社会の敗北です」
入所者の中には、真っ暗な施錠部屋に約8年も閉じ込められた男性もいる。部屋の窓は塞がれ、電気もつかない。そんな状態に置かれたら、誰でも叫び、暴れるだろう。生物として当たり前の反応を「強度行動障害」と決めつけ、楽な〝支援〟のために平然と監禁する非道な職員たちこそ、心や脳ミソが深刻な障害を起こしている。良からぬ精神科病院と同じ構造である。
男性は大川さんらの介入で暗黒施錠部屋から開放され、落ち着いて室内作業ができるまでに回復した。筆者は、売れ残った手帳を再生するための分別作業を行う男性に会ったが、不穏な様子など微塵も感じられなかった。
吉田さんは「当初目指していた通過型施設になれるように、地域との交流や、入所者の暮らしの改善を進めていきます」と語る。その足掛かりとして、5キロほど北にある小田急秦野駅近くに地域活動拠点を作り、近隣公園の清掃や花壇の管理などを始めている。
実は筆者の今回の訪問には、取材以外の目的もあった。精神疾患の人たちを対象とした演劇学校OUTBACKアクターズスクールのノウハウを中井やまゆり園でも生かし、入所者も職員も元気にしたいと考えているのだ。これから交流を深めていき、楽しいオリジナル作品を一緒に完成させて、本格的な舞台で多くの人に観てもらいたいと思っている。
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