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未来の会

第175回 経営に活かす法律の知恵袋 ◉ 助産所の保険医療機関適格性と環境整備

第175回 経営に活かす法律の知恵袋 ◉ 助産所の保険医療機関適格性と環境整備

助産所の保険医療機関適格性

正常分娩も含めた出産費用等(妊婦健診も含む)の保険適用は、真の少子化対策と地域活性化(地域医療も含む)のために、必須の施策である。その円滑な実施にとって最も簡易迅速なのは、健康保険法の一部改正に基づく健康保険の拡充であろう。ただ、健康保険法上の「療養の給付」(現物給付)を助産所における助産介助等にも拡充するためには、その施設要件として、そもそも助産所が健康保険を使える保険指定医療機関になれるのかどうかの一応の検討はしなければならない。

しかし、結論は明瞭であろう。助産所は、「医学的管理の下における出産について助産介助を行う助産施設」であるから、健康保険法上の現物給付の対象となりうる施設として相当な基準を満たすものであるので、保険指定医療機関となるのに障害はないところである。理由は、現行の健康保険法関連法規や医療法関連法規の各条文からして明らかであろう。特に政令である健康保険法施行令第36条(健康保険法第101条の出産育児一時金に関する詳細な定めを補充したもの)の規定が決定的である。その抜粋をここに引用したい。

〈健康保険法施行令〉

第36条 法第101条の政令で定める金額は、48万8千円とする。ただし、病院、診療所、助産所その他の者であって、次の各号に掲げる要件のいずれにも該当するものによる医学的管理の下における出産であると保険者が認めるときは、48万8千円に…(中略)…3万円を超えない範囲内で保険者が定める金額を加算した金額とする。

1 当該病院、診療所、助産所その他の者による医学的管理の下における出産について、特定出産事故…(中略)…が発生した場合において…(以下略)。

2 出産に係る医療の安全を確保し、当該医療の質の向上を図るため、厚生労働省令で定めるところにより、特定出産事故に関する…(中略)…措置を講じていること。

実際に助産所は、医学的な管理の下で正常分娩の介助をしている。助産所では、その助産介助においては原則として医療上の処置は行わないが、分娩監視装置の装着や持続的なバイタルサインの測定など患者の状態の変化を常時観察していて、嘱託医師等の包括指示の下で付随的に医療処置を行うこともあるので、36条で言うところの「医学的管理の下において正常分娩の助産介助」が行われている施設であると言ってよい。「医学的管理」を行うために、分娩監視装置・医療用酸素・パルスオキシメーターなど多くの医療機器や、子宮収縮剤・電解質バランスや水分補給のための輸液製剤・抗菌剤・K2シロップなど多くの医薬品も常備されている。その面でも助産所は、保険指定の適格性のある「医療機関」であると言ってよい。また、医療法も第6条の10以下で医療事故調査制度を定めているが、助産所も病院・診療所と並んで、「医療」事故調査制度の適用対象とされているのも、その証左である。

保険化への環境整備

(1)未収金2カ月間の空白の解消措置

現在のレセプト・システムでは、今まで自由診療だったものが保険化されると、保険移行時に2カ月間分の全収入が未収となるという空白(タイムラグ)が生じてしまう。体外受精等が保険適用された2022年4月には、その解消措置が採用されなかったために、体外受精等を盛んに行っていた中小規模のクリニックは、経営的に大打撃を受けてしまった。解消措置の実施された先例としては、09年10月に導入された出産育児一時金直接支払制度(保険化と同じレセプト・システム)の激変緩和措置として11年4月から追加して導入された受取代理制度(空白が2カ月から2週間に短縮)が参考になるであろう。

(2)嘱託医療機関制度の廃止又は改革

助産所は、医療法第19条とその関連法規によって、嘱託医のみならず、嘱託医療機関(病院又は診療所)を付けなければ、分娩に関与できなくされている。しかしながら、嘱託医制度には意味があるとしても、急変時の助産所からの緊急搬送はその地域の適切な病院・診療所に適時に行えば足りることとなっているため、嘱託医療機関制度はほとんど意味を持っていない。さらには、「(主観的な)信頼関係が大切!」などというような独善的な見解によって、病院・診療所が助産所の嘱託をゆえなく拒否する例も全国的に多発している。このままでは、助産所が保険指定を受けても嘱託医療機関がいないがために分娩ができない、などという馬鹿げた事態が多発しかねない。

そこで、意味もなく弊害の大きい嘱託「医療機関」制度だけは、廃止してしまってもよいと思う。少なくとも、正当な事由(客観的な信頼関係の欠如、たとえば当該助産所での事故多発など)がなければ、地域の中核的な病院は嘱託医療機関を拒否できない(いわば応招義務が課される)こととしなければならない。

(3)事故損害賠償保険の独占状態の排除と助産所(開設者)自体への付保

現在、助産所には、助産法人化が認められていないだけでなく、助産事故損害賠償保険も看護職保険の建て付けの下で、日本助産師会に入会していないと付保できない状態となっている。それは、事故損害賠償保険の独占状態又は競争制限状態とでも評しうるものとなっており、助産所自体または助産所開設者(使用者責任)には付保されていない状態なので、今後の助産所自体への保険指定制度ともそぐわないものになってしまったと言えよう。したがって、助産法人化や助産所保険又は助産所開設者保険といった種類の事故損害賠償保険加入も認められねばならない。

(4)医療安全確保措置の標準化

今もって産科の領域では、「産科医療補償制度」という独特のシステムを医療安全確保措置の中心に置いていると評しえよう。それは、「補償」という面で中途半端なだけでなく、「原因分析」という面でも旧来型の「医療行為の医学的評価」を中核としている。それは、全ての診療科において採用されている標準的な「医療事故調査制度」とは全く異なっており、つまり、標準的でない。実際、その「医学的評価」のために、医師に対する過酷な医療過誤の責任追及への不安が特に若い医師に生じ、若い医師が産科の専攻を回避する1つの原因となっているとする見方も根強い。

もしも本当にそれが若い産科医の不足の原因だとしたら、直ちに産科医療補償制度を廃止・改正して、若い産科医に産科医療の安全・安心感を持たせるように図るべく、医療安全確保措置の標準化を目指すべきであろう。

(5)かかりつけ助産師(LMC)の活用

妊娠・出産・産後ケアにおいて最も大切なことは、「継続ケア」である。海外では「LMC」(リード・マタニティ・ケアラー)として定着しているので、我が国でも導入すべきであろう。特に、LMCが中心となり、妊産婦を守る司令塔の役割を果たすことが望ましく、それに相応しい診療報酬項目(継続ケア加算)の設定も欠かせない。

我が国のニュアンスだと、「かかりつけ助産師の活用」ということになろうか。たとえば、助産所で急変したために病院に緊急搬送された妊産婦に対して、かかりつけ助産師が搬送先で分娩や手術に立ち会う、産後に搬送先を訪問して母乳マッサージや授乳指導、育児相談、新生児に対する保健指導を行う、出産して落ち着いたら直ぐに、病院から再びかかりつけ助産師のいる助産所に産婦が戻って来ることも当り前になることが望ましい。

(6)妊産婦の権利の充実

妊娠・出産は、ノーマル(普通、日常的、かつ生理的)なライフ・イベントであり、ライフ・ステージである。このような妊娠・出産をする妊産婦には、それこそ多くの重要な権利が保障されなければならない。充実したインフォームドコンセントの実現、自己の妊娠・出産の個人情報の全てがスマホ等でダイレクトに閲覧・コントロールできるシステムの開発、産科暴力の阻止・変革、医療過誤責任追及の恐れや呪縛から解き放たれた全面的・満足的無過失補償の実施、医療過誤損害賠償請求権の放棄との引換での患者権利宣言の制定など、である。

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