元日の能登半島地震、その被災者救援に向かう筈だった海上保安庁の航空機と日本航空旅客機の痛ましい衝突事故、更には北九州の大火事と多難なスタートとなった2024年。政界は自民党・派閥の政治資金裏金疑惑で大揺れし、岸田文雄・首相は政治資金改革という重荷を背負って、辰年の荒波に揉まれている。
内閣支持率の最低を更新し続ける岸田内閣は「もう虫の息」とばかりに、東京・永田町の話題は「ポスト岸田」で持ち切りだが、焦点が定まらず、混沌とした話ばかりが目立つ。自民党のベテラン議員が語る。
「ここ暫く総理・総裁選びは、党内の権力構造、つまり派閥(数)の力学による予定調和路線だったが、今はその前提が崩れている。裏金疑惑で、最大派閥・安倍派が崩壊同然となり、他の派閥も身動きが取り難いからだ。総裁任期は秋迄なのだから、ポスト岸田レースは始まっているのだが、何とも予想が難しい状況だ。そもそも、岸田さんの本音が分からない。というよりも、本人も状況を見て判断しようという事だと思う。私の勘だと、次のメディア等の下馬評は外れそうだ」
派閥推薦で有力候補が出て来て、数(議員数)の勝負で決着させる従来型の方程式は通用しない状況にあるという事らしい。このベテラン議員は「初の女性首相」がキーワードになりそうな気がするという。
女性首相は十数年前から言われている事では有るが、その辺も踏まえて、混沌とした「ポスト岸田レース」の節目を時系列で整理してみる事にする。有力候補毎の整理は条件が複雑で分かり難いからだ。
重要なのは、岸田首相の腹の内だ。くたびれ果てて「辞めたい」と思っているのか、それとも震災復興や政治改革を旗頭に「やる気満々」なのか、はたまたその中間なのかで状況は随分違うからだ。恒例の伊勢神宮への参拝を遅らせ、防災服で年頭会見に臨んだ姿を見ると、未だ心は折れていないと見るのが自然な感じはする。但し、譲るのに相応しい人材、政治状況が整うのなら話は別だろう。一国のリーダーにとって辞め時の選択は、就任よりも難しいとされる。得心出来る花道が在れば、その選択も有り得ると見る事にする。
最初の山場は「来年度予算成立直後」とされる。年度内成立を目指すであろうから、3月下旬頃だろう。よく言われる「予算成立花道論」である。石破茂・元幹事長が、早々とその可能性に言及し、現実的選択肢として浮上している。
問題は自民党の派閥改革、政治資金改革など一連の政治改革に目鼻が付いているかどうかだ。岸田首相(自民党総裁)が陣頭に立つ「政治刷新本部」は1月中に中間報告を取りまとめる方針だが、裏金を根絶する為の政治資金規正法改正案の成立には時間が掛かる事も予想される。自らの政治活動に関わる規制には与野党とも様々な利害が有り、調整に手間取る為だ。
政治改革を旗印に走る首相
自ら言い出した政治改革の道半ばで、岸田首相が辞任を表明するとは考え難い。予算成立花道論の可能性は低いと思われる。
万が一、岸田首相が辞任表明した場合には、茂木敏充・幹事長、高市早苗・経済安保相、河野太郎・デジタル相、石破元幹事長、林芳正・官房長官、野田聖子・元総務相の総裁選出馬が予想されている。ただ、河野デジタル相は小泉進次郎・元環境相らとの「小石河」連合で、石破元幹事長への一本化を念頭に置いているされる他、岸田首相の女房役となった林官房長官、推薦人確保が望めない野田元総務相は出馬が難しいと見られる。
結局、茂木幹事長、高市経済安保相、石破元幹事長の「三つ巴」となりそうだが、この場合、党内支持基盤の厚みで茂木幹事長が有利と見られている。
次の節目は通常国会会期末だ。6月下旬が想定されている。政治改革法案に目処が付いていれば、岸田首相が経済政策の成果と合わせて国民に示し、衆院解散・総選挙に打って出る可能性が取り沙汰されている。
この場合、厄介なのは日程である。7月7日が東京都知事選の投開票日で、「公明党が都知事選と同時期の衆院選には頑強に抵抗するから、やろうとしても出来ない」というのが大方の見方だ。前号の続きでいうと、現職の小池百合子・都知事は1952年の辰年生まれ。レディードラゴンである。特別顧問を務める「都民ファーストの会」は地方選で連戦連勝で、陣営内には「女性首相というなら小池さんだ」と鼻息が荒い。可能性は低いが、岸田首相が衆院解散に打って出れば、一騒ぎ起こりそうな気配もある。岸田首相の辞任はどうかというと、低支持率の中、会期末まで持って来たのだから、余程の事情が無い限り想定し難い。
本線は9月の総裁選?
こうして見て来ると、9月末の総裁任期満了による総裁選が最も想定し易い。ここで、岸田首相の本音が重要になる。岸田首相が出馬するかどうかで、レースの構図が一変するからだ。党内の予想は、経済政策、政治改革に一定の成果を挙げ、後進に道を譲るというものだ。
ただ、これも希望的な観測に見える。9月末まで政権を握り続ける胆力を岸田首相が持っていたとなれば、再選出馬は当然と思えるからだ。この場合、茂木幹事長や現職閣僚の高市経済安保相、河野デジタル相らは難しい対応になる。岸田政権の要だった茂木幹事長は出馬断念の可能性が高く、林官房長官も岸田支持に回らざるを得ない。結局、高市経済安保相と、石破元幹事長、河野デジタル相のどちらかが出馬する形になると予想される。
経済政策、政治改革の成果にもよるが、大方が納得出来るレベルなら、現職が有利だろう。問題は選ばれた総裁が次期衆院選の顔になる事だ。選挙に不安の有る若手らは「岸田首相では戦えない」と騒ぎ出すだろう。任期満了に伴う総裁選は地方党員も参加した本格総裁選となる。国民的人気が高い石破元幹事長(又は河野デジタル相)や、保守派の高市経済安保相と岸田首相による激しい選挙戦になりそうだ。
任期満了で岸田首相が辞任するケースも考えておこう。大事なのは「岸田首相の心持ち」である。自らの政策を発展させると共に、引退後の自身のポジションを安定させてくれる後継者が、その条件だ。辞任は「主流派VS反主流派」の苛烈な争いによる党内分断を防ぐ効果も期待出来る。
注目されているのは、初の女性首相の冠付き、上川陽子・外相である。岸田派所属で、法相時代には躊躇無く「死刑執行」に踏み切り、党内から「肝っ玉母さん」と呼ばれた。東大卒、米国議員の事務所勤務とキャリアは申し分ない。問題は知名度が低い事だ。これ迄総裁候補に擬せられた事は無く、突如浮上した感は否めない。
岸田首相にとっては「初の女性首相誕生」の立役者として最後を飾れるし、総裁派閥の長として君臨する道が開ける。名門派閥「宏池会」に相応しい引退である。
尤も、この「上川後継説」には反岸田陣営から「岸田首相周辺が自己都合で広めているだけ」との批判も付きまとっている。野党幹部からは「〝初の女性首相〟を国民の目くらましにし、安倍派を支えに失政を重ねた自らの責任を誤魔化そうとしている」との厳しい声も有る。確かに話が旨すぎる感じはするが、野党陣営は、女性首相を担いだ自民党が直ぐに総選挙に打って出て大勝するのではないかと気を揉んでいるという。
自民党長老は「遙か先の事をあれこれ言うと、〝鬼が笑う〟と言うが、今年9月の決まり事を語っても〝鬼に笑われる〟状況かな。嘗て無い、しんどい総裁選の年になるね」としみじみ語っている。
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