レンボレキサント(デエビゴ®)が、「不眠症」を適応症に2020年に販売が始まり、販売開始翌年の21年127億円、22年には242億円とほぼ倍増し、睡眠剤としては異例の売上を記録している。本連載の第94回(17年12月号)で、カタプレキシー(情動脱力発作)の害について取り上げたスボレキサント(ベルソムラ®)と同様、オレキシン受容体拮抗剤である。薬のチェック111号1)で詳しく検討したので、その概要を紹介する。
睡眠剤は寿命を短縮
不眠は主観であり、睡眠時間が短い=睡眠不足(睡眠負債がある状態)とは異なること、睡眠不足は害があるが、不眠の人はむしろ長生きであること、睡眠剤(睡眠導入剤)を服用すると、うつ病や事故、依存症、感染症、がんを誘発し、死亡の危険度が2〜4割増加することをこれまで述べてきた。これら睡眠剤の害はゾルピデムなども含めたベンゾジアゼピン受容体作動剤の知見が主な根拠になっている。しかし、デエビゴなどオレキシン受容体拮抗剤や、ラメルテオン(ロゼレム®)などメラトニン受容体作動剤を含めても、この点は同様と言える。
プラセボ効果のある人を除外して評価
デエビゴの効果は6カ月後の睡眠潜時(寝付くまでの時間)で評価された。しかし、ベルソムラとの比較が可能な3カ月後のプラセボとの睡眠潜時の差が、ベルソムラの5.2分短縮に対してデエビゴは11.9分短縮と、効果が著しいように見える。しかし、これはある種のトリックであり、実質上は両剤とも5分程度の短縮に過ぎない。ベルソムラもデエビゴも睡眠潜時の短縮時間はほぼ同じだが、プラセボ群の睡眠潜時短縮が11.3分対18.9分とデエビゴで著しく短いためにプラセボとの差がデエビゴで大きくなったためである。そしてこれは、本試験に入る前に全員にプラセボが使用され、それで改善した約半数の人が除かれたうえで本試験が実施されたからである。
オレキシン欠乏はカタプレキシーなどを起こす
脳内で覚醒に関わるオレキシンが欠乏すると、昼間の激しい眠気発作や、寝入りばなの幻覚・金縛り・カタプレキシー(情動脱力発作)などを特徴とする疾患ナルコレプシーを引き起こす。
デエビゴは、同効薬剤ベルソムラと同様、オレキシン受容体拮抗剤であり、臨床試験では用量の増加とともに、カタプレキシーなどナルコレプシー症状が増えた。カタプレキシーと睡眠麻痺、それぞれ単独でも、合計した場合でも、有意な用量−反応関係を認めた(p< 0.0001)。カタプレキシーのプラセボと比べた危険度(オッズ比)は、デエビゴの用量が1mg増加するごとに1.19倍、5mgで2.4倍、10mgで5.7倍高まると推定された。
マウスにチョコレートを示すと、ヒト用量の10分の1相当量からカタプレキシーを生じ、強い用量−反応関係があった。
異常な夢や悪夢、レム睡眠行動異常など睡眠時随伴症、入出眠時幻覚を含むナルコレプシー様症状もすべて常用量範囲の10mgまでで用量−反応関係が有意であった。
うつ病・自殺念慮なども多い
オレキシン受容体拮抗剤について検討した結果、うつ病と自殺関連事象がプラセボ群の約5倍発症していた。注意力や記憶力の低下も起こしやすい。
半減期が長く、個人差が大きく、しかもCYP3Aで代謝され、多数の薬物と相互作用があるため、重大事故の危険がある。
結論
睡眠時間を増やす効果はごくわずかである一方、害は明瞭である。主観的な不眠の訴えに対しては、基本的に使用すべきではない。
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