承認された医薬品が使えないという矛盾を是正
2023年6月16日に政府が発表した「骨太の方針2023」の中に「大麻に関する制度を見直し、大麻由来医薬品の利用等に向けた必要な環境整備を行う」という一文が掲載されている。医療用大麻を解禁しようという政治的な動きは今に始まったものではない。カンナビジオールの活用を考える議員連盟(CBD議連)等では2年以上前から議論や調査が行われて来た。満を持して医療用大麻を解禁する法案は23年の臨時国会で成立した。医療用大麻は医療現場からのニーズも有り、大麻から製造された医薬品が米国を始めとする欧米各国で承認される様になって来ている。使い方によっては大麻の医療上の有用性が実証されており、特に難治性のてんかんには有効だとされている。大麻由来の医薬品は日本でも既に治験が開始されているが、現行法では使用が禁止されている為医薬品として承認されても医療現場で使用する事が出来なかった。政府が改正大麻取締法案を成立させたのは、治験が進んでいる大麻由来の医薬品の承認にタイミングを計っていたのであろう。
大麻の主成分はテトラヒドロカンナビノールとカンナビジオールに大別される。テトラヒドロカンナビノールはTHCの略称で知られている大麻の主な向精神性の成分である。カンナビジオールはCBDの略称で呼ばれ医療用大麻の主成分の1つでありTHCの様な中枢神経作用等は無いものと考えられている。日本で22年から治験が行われているのはイギリスの製薬会社であるGWファーマ製のエピディオレックスという薬である。難治性てんかんのドラベ症候群やレノックス・ガストー症候群、結節性硬化症の治療薬でCBDを主な成分としている。日本国内にはエピディオレックスの使用を検討出来る難治性患者が約2万人居ると推定されている。エピ↖ディオレックスはイギリスを始めアメリカ、ドイツ、イタリア、韓国等30カ国以上で既に承認されている。日本でもエピディオレックスの承認を望む声も多いが、たとえ承認されても大麻由来の治療薬は大麻取締法によって使用する事が出来ない。今回の改正法案は医薬品として承認されても使用出来ないという矛盾を正す目的を持っている。エピディオレックス以外にも海外で医薬品として承認されている医療用大麻として、抗がん剤による吐き気と嘔吐、エイズ患者に於ける食欲不振の治療薬であるドロナビノール、抗がん剤による吐き気と嘔吐の治療薬であるナビロン、多発性硬化症患者の筋痙攣、神経因性疼痛、過活動性膀胱等の治療薬であるナビキシモルスが有り、医療現場からのニーズは確実に存在する。
医療用以外は所持も使用も厳禁
本改正法案には医療用大麻の解禁と合わせて大麻の使用に関する規制を強化する方針を示している。CBD議連の取り纏め案でも基本的に医薬での利用を除いてTHCを含む規制成分については禁止とし、麻草の嗜好目的での使用禁止についても徹底すべきであると提案している。政府は薬物の蔓延や乱用対策として大麻の使用を制限する規定を麻薬及び向精神薬取締法に盛り込む方針である。
薬物事犯の検挙数は近年減少傾向であり、覚せい剤の検挙数は直近10年で半減するペースで減少している。ところが大麻を所持して検挙された者の数は直近8年で約3倍に膨れ上がっている。その内69・2%が30歳未満の若年者であるという。大麻は所持する事が違法であり使用は合法である等という詭弁が大麻の使用を楽観視する事に繋がっている。ここでいう大麻とはTHCを含んだ物を言うのだが、政府は大麻に含まれるTHCの成分には、知覚の変化として時間や空間の感覚が歪む、学習能力の低下として短期記憶が妨げられる、運動失調として瞬時の反応が遅れる、精神障害として統合失調症やうつ病を発症し易くなる、IQ(知能指数)の低下として短期・長期記憶や情報処理速度が下がる等、脳等の中枢神経に影響を与えるとしている。又、大麻は酩酊感や陶酔感、幻覚をもたらす為、その感覚を味わった人は再び使用を繰り返す傾向が有り依存症になり易いとしている。依存症になると日常生活に悪影響を及ぼす事から規制するのが妥当だという。
それは酒や煙草も同じ事ではないかという向きも有る。しかし、たとえ酒や煙草が同様に日常生活に悪影響を及ぼす物であったとしても嗜好用大麻の使用を解禁する理由にはならない。酒や煙草は今更使用罪等で規制する事が現実的ではないだけである。
大麻の栽培や所持は違法であるが、暴力団等の反社会的組織は大麻が違法薬物であるが故に競合が少なく販売に関わる事が多い。反社の資金源になり易いという事である。暴力団等の反社は比較的価格が安く利益の薄い大麻を売るよりも高額で依存度がより高い覚せい剤等を売るほうが効率的だ。政府の方針は使用罪を設ける事で使用者を減らし、同時に反社会的組織の資金源を断つ事である。
カナダ・米国は取り締まりが形骸化し解禁
18年に大麻を合法化したカナダはその逆である。カナダでは大麻を合法化する前は闇市等で売られている大麻の売り上げの殆どがマフィアに流れていたとされる。そのマフィアの資金源を断つ為にカナダ政府は大麻を合法化し、生産から販売や所持まで政府が主導する事にした。マフィアから大麻販売の売り上げを切り離し、政府の管理の下税収のアップに繋げる様にした。そもそもカナダでは大麻解禁前に大麻を使用した経験の有る国民は4割以上もいて、もはや解禁しているのと変わらない状態だった。罪悪感は無いに等しかったと言える。だが日本は事情が違う。日本では大麻が解禁されていない現在、大麻を使用した経験の有る者は1・4%しかいない(厚生労働省調べ)。やむを得ず大麻解禁に踏み切ったと思われても仕方が無いカナダとは事情と現状が大きく違う。ちなみに日本には外国で行われた犯罪も処罰出来る「国外犯規定」と呼ばれる規定が有り、日本人のカナダ現地での大麻の所持等は違法となり刑罰の対象になる。
アメリカでは急速に大麻の解禁が進んでおり、23州で嗜好用大麻を、40州が医療用大麻を解禁している。アメリカでは大麻が合法化された後の社会への影響として救急搬送事例が増加、違法栽培・違法販売が激増、健康被害や交通事故の運転手死亡者数の内THC陽性者数が増加しているという。幼児が大麻を誤飲して緊急搬送される例も増えている。米国運輸省道路交通安全局が19年9月から21年7月にかけて実施した大規模調査では、交通事故で負傷した運転手の54%強から薬物やアルコールが検出され、中でもTHCがアルコールを抑えて最も多かった。これ迄州法での大麻解禁を連邦政府は黙認して来たがバイデン大統領は連邦法での大麻解禁も視野に入れている。カナダ同様にアメリカでも大麻使用者が急増している事が背景に在ると思われる。19〜30歳での44%、35〜50歳迄の28%が過去1年以内に大麻を使用したと答えており、10年前から倍増に近いペースで急増しているというアメリカ国立衛生研究所(NIH)の報告が有る。
幸いな事に日本ではカナダやアメリカの様に大麻取締法が形骸化していない。10年間で検挙者数が倍増しているとは言え未だ1・4%の使用率に留めているのだから、国民にとって未だ罪悪感は大きい。医療用大麻は科学的進歩による貢献と認め厳格なルールの下で解禁される。同時に大麻の使用罪を規定する事は、誤解を招き易い現状の大麻使用に関する条文を明文化・明確化する事になる。日本では、大麻が事実上解禁しているのに等しいという状況に陥っている訳ではない。医療用大麻を解禁すると同時に、嗜好用大麻・産業用大麻を禁止し、医療用大麻と明確に分けた状況で暫し様子を見るのが妥当であろう。
厚労省発表の大麻使用率1.4%というのは、他国が下水調査により数値を出しているのに対し、日本では対面調査(アンケート)なので、少ない可能性があります。
おしっこはウソをつきませんが、口はウソをつくからです。
そもそも調査方法の違う数値を比較すべきではないと思います。