厚生労働省で初めて中途採用した総合職(キャリア)が今年4月から各部署で働き始めている。中途採用に踏み切ったのは、「強制労働省」とも揶揄される程の激務で、若手や中堅職員の離職が相次いでいるからだ。慢性的な人手不足に悩む厚労省は、今後も同様の採用を続ける見通しだ。
厚労省は昨年11月、政策立案等で中心的な役割を担う課長補佐級を5人程度、募集すると発表した。大学や大学院を卒業もしくは修了し、昨年4月時点で7年以上の職務経験を持つ人を対象とした。書類選考と厚労省で解決すべき政策課題とそのアプローチ等を挙げる論文試験、面接を実施した。
選考の結果、数百人の応募者から30〜40代の9人が採用された。募集人員は当初の「5人程度」を大幅に上回り、今年4月から各部局の課長補佐等として業務に就いている。厚労省関係者は「論文を見ても問題意識が高く、とても優秀な方ばかりだった」と明かす。
9人の詳細は明かされていないが、地方自治体や民間医療機関の出身者らで占められているという。課長補佐は入省8〜10年目で就き、8〜10年近くを過ごす。政策立案の要として働く重要なポストだ。
同じ様な取り組みは既に財務省や経済産業省等で実施されていたが、厚労省としては初めて。在職10年未満で退職するキャリア官僚は後を絶たず、2018〜20年度で100人を超える。「一時は年収の良い外資系コンサルタントに転職するのがブーム」(転職した元キャリア官僚)だったという。
国会対応等で深夜業務を余儀なくされる厚労省内でも同様で、退職者数は次第に増えていた。その矢先、20年に新型コロナウイルスのパンデミックが発生して業務が膨大に増え、退職者数も同様の傾向↘を辿った。現在でも一般職を含め相当数の官僚が退職しているという。外資系コンサルに転職する厚労官僚も居るが、医療系等のベンチャーやNPO、医師免許といった国家資格取得を目指す人など多岐に亘る印象だ。
大手紙記者は「厚労省の若手や中堅の職員と飲みに行くと必ずと言って良い程転職の話になる。元々入省時は志高かったものの、幹部職員の根回し文化等の現実を見て嫌気が差して来る人も多い。昨今↖の転職ブームも退職者の増加に拍車を掛けている」と指摘する。
そうした中、退職者の補充や省外で職務経験を積んだ人材の意見を取り入れる趣旨で、厚労省は課長補佐級の中途採用を始めた。特に大島一博・事務次官(1987年、旧厚生省入省)が積極的だったとされる。一般職では数年前から中途採用を実施しており、50代を受け入れた「実績」も有る。こうした事情も影響したと見られる。
只、退職者が相次いでいる理由を解消しなければ、持続的に働ける環境とは言えず、中途採用の実施は弥縫策と言わざるを得ない。或るベンチャー企業に転職した元厚労官僚が「子育て等働く環境という点を考えれば辞めて清々した。厚労省にもう一度戻ろうという気は無い」ときっぱり言う等、問題の根は深い。
今回の様な取り組み等で多様な人材を受け入れ、硬直化した組織からの脱皮が求められる。「強制労働省」は過去の遺物とし、新たな風を取り入れる事で働き易い職場へと変化を遂げて欲しいところだ。
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