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第71回 厚労省人事ウォッチング 次官級候補の大西元総務官、退職の背景事情とは

第71回 厚労省人事ウォッチング 次官級候補の大西元総務官、退職の背景事情とは
大西 証史氏

 7月4日に発令された厚生労働省の幹部人事が省内外で波紋を呼んでいる。退職に追いやられた大西証史・老健局長を巡る人事が発端だ。大西氏の処遇に隠された背景事情とは。

 1988年に旧厚生省に入省した大西氏は、愛媛県立松山東高校、東京大法学部を卒業し、同期には渡辺由美子・こども家庭庁長官らがおり、今回留任した大島一博・事務次官の1年下の年次だ。

 これまで大臣官房総務課広報室長や社会・援護局保護課長、健康局総務課長、大臣官房総務課長を歴任し、尾辻秀久・元厚労相の秘書官も務めた。この縁から有力な厚労族議員の1人となった尾辻氏に可愛がられ、衆院解散で解散詔書を皇居に持参する役目を持つ重要ポスト・内閣総務官にも昇り詰めた。

 過去の内閣総務官経験者は、何れも事務次官級ポストまで出世している。具体的には、柴田雅人・元内閣府審議官(74年、旧厚生省入省)や原勝則・元厚労審議官(79年、同)、土生栄二・内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局長(86年、同)の存在が挙げられる。内閣総務官の重責を果たした大西氏も、このルートを歩む筈だった。だが、大西氏は何故退職する羽目になったのか。1つは、加藤勝信・厚労相との折り合いが良くなかったとされる点が影響した。今夏迄にまとめる予定だった介護保険法の改正方針を巡り、大西氏は財務省や省内の議論を重視し、利用者負担もやむなしと考えた。しかし、自民党の厚労族議員や業界団体からの反発を招き兼ねず、調整が難航するため加藤氏がこの案を嫌ったとされる。

 ある大手紙記者は「介護保険部会の度に大西氏は負担増の案を持って行ったが蹴られていた」と証言すれば、厚労省幹部は「とにかく大西氏は加藤厚労相から遠ざけられていた印象だ」と明かす。

 もう1つの要因が有る。大西氏を処遇する省外↘のポストが徐々に無くなって来ているというのだ。土生氏の後任は、総務省自治行政局長だった吉川浩民氏(88年、旧自治省入省)で、総務省に奪われた。

 霞が関の省外のポストを取り巻く状況について、前出の幹部は「先日出版された安倍晋三・元首相の回顧録の中で、厚労省はかなり叩かれている。正に同じ様な雰囲気が、今の首相官邸からひしひしと伝わってくる」と漏らす。その上で「省外のポストを獲得する競争にも敗れ、いくつかは他省庁に奪われ↖た様な形になった」と冴えない表情を浮かべる。

 霞が関の人事情報に詳しいフリージャーナリストも「本来は厚労省の順番だったポストも財務省など他省庁にかっさらわれた様なケースがあった。特に、栗生俊一・内閣官房副長官から目を付けられている感じだ」と解説する。

 大西氏の処遇を巡っては、厚労省OBも驚きを隠さない。事務次官経験者の1人は「歴代の内閣総務官経験者は事務次官級まで上がって来た。それは各省庁から優秀な人材を出したという自負の現れでもあり責任でもある。こんな事が許されるのか……」と絶句した。内閣総務関係県のあるOBも「元々大西氏は同期よりも年齢が上だったので、致し方ない面が有るかも知れない。ただ、これまで局長で退官する事があまりなかったので……」と驚きを隠し切れない様子だった。

 省内から見れば順当な配置が多く見られた厚労省人事だが、対外的に取り巻く環境は厳しい。現政権が続く様であれば、来年以降も同様の傾向が繰り返されるかも知れない。

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