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未来の会

政府が進める野心的な第6次エネルギー政策とは

政府が進める野心的な第6次エネルギー政策とは

2030年迄に温室効果ガスを46%削減する為の方策

現在、第6次エネルギー基本計画が進められている。これは2021年10月に制定されたものだ。その内容について政府は野心的な見通しである事を認めている。行政用語の「野心的」とは「達成出来なくても良い」という意味である。

 先ず、30年迄に温室効果ガス削減割合の目標を46%としている。その為の方策として再生エネルギー比率を36〜38%にした。その内訳は、太陽光発電14〜16%、風力が5%、地熱が1%、水力が11%、バイオマスが5%になっている。再生エネルギー以外に水素発電が1%、原子力発電が20〜22%、天然ガス発電が20%、石炭が19%、石油が2%。

 つまり、30年には主要電力が再生エネルギーになる計画である。30年迄のパリ協定に対する取り組みではあるが、現実的には日本の経済安全保障に関わる取り組みでもある。であるからこそ、エネルギー自給率を向上させる努力は怠ってはならない。 

日本は既に太陽光発電大国

 エネルギー資源を巡る歴史から鑑みて日本はエネルギー自給率を向上させる必要が有る。自給出来るエネルギーとは再生エネルギーと大規模水力発電と原子力発電である。中でも原子力発電は11年に発生した東日本大震災以後、大半の施設が停止したままになっている。原子力発電は二酸化炭素の排出も無いし、天候など自然環境に影響を受けずに電力を安定供給出来る発電方法である。

 原子力発電所の現在の稼働状況は11基が稼働しており、22基が停止中になっている。現在の電源構成の中で原子力は約5%のシェアに過ぎないが、政府が第6次エネルギー基本計画の中で目論む20〜22%にシェアを引き上げるには、停止中の全ての原子力発電所を稼働させる必要が有る。

 もう1つのエネルギー自給率を向上させる方法は再生可能エネルギー施設の推進だ。東日本大震災以後は急速にシェアを拡大して来た分野である。中でも太陽光発電施設は政府の助成措置もあり飛躍的に増えた。現在では凡そ9・9%のシェアに至っている。第6次エネルギー基本計画では更に促進して14〜16%を目指す事になっているが容易ではない。既に国内各地に太陽光パネルの設置が進み、平地での設置量は世界3位の水準になっている。太陽光パネル全体の設置量も世界で3位になっている。ある意味、日本は既に太陽光発電大国でもある。昨今では、山林や原野等を開発して大規模なソーラーパネル施設を設置する事も多くなり、自然破壊や環境破壊が危惧される様になっている。又、太陽光パネルの80%以上が中国からの輸入品である。その太陽光パネルの中国での生産地が新疆ウイグル地区だと言われている事から、中国からの大量購入がジェノサイドに加担する行為なのではないかと指摘されている。 

 今後、太陽光発電を更に進めるとしたら、耕作放棄された田畑の利用が望まれる。現在は農地転用に関して農業委員会の許可を得るのは容易ではないが、政府が方針として仕向ければ可能且つ有効である。又、工場やビルの屋上の有効活用には向いている。医療施設には停電に備えて是非再エネ設備を備えてもらいたい。多くの医療器具が電源を必要とし、生命維持に直結する事でもある。政府は医療施設設置の基準に対して緊急時のエネルギー源の確保の義務付けを検討しても良いだろう。太陽光発電は自然の影響を強く受ける。雨天や曇天では十分な機能を発揮出来ないので、エネルギーの安定供給には向かない。

 風力発電施設も最近は多く見られる様になった。静岡県の太平洋と接する地域では積極的に建設されている。現在は施設の耐久性や技術力も向上しているのかも知れないが、以前は故障ばかりでアテにならないという低い評価をよく耳にした。風力も風が吹かないと発電しないので、自然環境の影響を少なからず受ける事から安定供給を期待する事は難しい。

 最近は地熱発電も注目される様になった。日本は火山国であるから地熱資源は豊富だ。世界第3位の地熱資源が有ると言われている。蒸気をエネルギー源とするので温室効果ガスも発生しない。比較的大規模な開発が可能で24時間稼働する事も出来る。天候など自然環境にも左右されないというメリットも有る。半面、開発コストが高く、設置に掛かる工期も約10年と長くなってしまう。

新形態の発電方法にも取り組み中

以上、様々な発電型が有るが、この他に新形態の発電方法にも政府は取り組んで来た。中でも有力なものは核融合発電である。既に20年にヨーロッパで日本を含む世界35カ国が参加する国際プロジェクトとして工事に着工している。核融合発電とは重水素と三重水素を海水から取り出し原子核同士の融合を促す発電方法である。温室効果ガスも発生しないし、ウランも必要としない。原子核1㌘で石油8トン分ものエネルギーが発生する。核融合の停止も容易であり、メルトダウン(炉心溶融)の可能性も少ない。つまり、この核融合発電は夢のエネルギー源なのだ。ヨーロッパでは25年に初動し、35年に本格稼働を目指している。ヨーロッパだけではなく、実は日本の茨城県でも同様の核融合炉を建設開始している。この施設も日欧共同の取り組みである。既に施設はほぼ完成しており、各機器の健全性を確認する作業に入っている。この施設が本格稼働すれば約20万戸分の電力を供給する事が可能になる。化石燃料の輸入に頼っている日本にとって状況を大きく改善出来る可能性を秘めるプロジェクトである。

 さて、エネルギー供給源が化石資源から非化石資源など再生可能エネルギー等に潮流が移り変わっているが、だからと言って石油やガスを軽視する事は出来ない。中東など産油国から原油を買う場合、日本は米ドルでの取引によりアメリカが購入している価格より高値で輸入している。アメリカはシェールの採掘によって石油やガスを採取している事からエネルギー自給率は約106%になっている。一方、日本は新潟県の沖合で少量のガスを採掘しているに過ぎず化石燃料の殆どを輸入に頼っている。産油国はエネルギー資源を保有している国には安く売り、資源の無い国には高く売る。つまり、日本は足元を見られて法外な価格で原油を買わされている状態なのだ。よって、原子力や再エネに政府の方針が向いたとしても、原油や天然ガスの需要がなくならない限りは化石資源の開発に関してもおざなりにするべきではない。

 実は日本にも油田は存在する。最近では茨城県沖合で発見されている。又、日本海側の韓国済州島との間の第7鉱区と呼ばれる油田は中東にも匹敵する埋蔵量であると予想されている。韓国と日本は共同開発する事で合意しているが、28年にはその合意の期限が切れる。その後は日本のEEZ(排他的経済水域)内である事から巨大油田の産油国に日本がなるかも知れない。

 その他にも日本の管轄海域内にはメタンハイドレートというガスが大量に眠っている。その埋蔵量は日本のガスの消費量の100年分に当たる。メタンは、石油や石炭に比べ、燃焼時の二酸化炭素排出量がおよそ半分程度、環境対策に有効なエネルギーと考えられている。現在、天然ガスの多くは、中東やオーストラリア、ロシア等からの輸入に依存している。しかし、戦乱等の事情により輸入が制限される事になっても、メタンハイドレートの開発を続けていれば、自前のエネルギーを持つ道が開ける筈だ。

 以上の様にエネルギーの確保(エネルギー自給率の向上)に関して取り組むべき事は大きく2つに分かれる。現実的な取り組みとして、停止中の原子力発電所の再稼働を早急に進める事。もう1つは将来を見据えての取り組みである。地熱発電への投資、核融合発電の実用化を進める事と、メタンハイドレートの開発の促進、28年以降の第7鉱区の油田開発の実行が挙げられる。現在と未来をバランスさせて進める事が望まれる。

 余談だが、電気料金の請求書に「再エネ賦課金(再生可能エネルギー発電促進賦課金)」という項目が有り、毎月自動的に徴収される。その徴収総額は年2兆円に上る。これによって、将来的に再エネや新電源の開発など様々な形でリターンが望める。

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