厚生労働省の幹部人事が7月4日に発令された。大島一博・事務次官(1987年、旧厚生省)は留任する等、近年では比較的波乱の乏しい人事となった。だが、幹部の配置を詳しく見てみると、次年度だけでなく中期的な省内の人事の流れが読み解ける。
昨年夏に85、86年入省組を追い越して抜擢された大島氏は、大方の予想通り留任した。年齢も59歳と未だ若く、異次元の少子化対策に伴う歳出改革で、狙い打ちされ兼ねない社会保障制度の「改悪」を阻止する重要な任務を担う。
大島氏と同期の伊原和人・保険局長も留任した。マイナンバーカードと健康保険証が一体化した「マイナ保険証」でトラブルが相次いでおり、年末には診療報酬改定も控えている為だ。これらの諸課題を解決し、来年夏には晴れて事務次官に昇格する見込みだ。
密かに注目されるのが、90年に旧労働省に入省した村山誠氏の処遇だ。雇用環境・均等局長から官房長に「抜擢」された。旧労働省出身者からは、長らく事務次官を輩出していないが、ある労働官僚は「旧労働省出身で事務次官になれるのは今や村山氏しかいない。今回、官房長に起用されたのでその路線がより盤石となった」と明かす。
旧厚生系で村山氏の同期となるのが、総括審議官から老健局長となった間隆一郎氏だ。年末は診療報酬に加え、介護報酬も同時改定。その重要な一翼を担う存在となった。介護保険法改正の作業も遅れており、介護分野では課題が山積している。政策理解度や調整能力が高い90年組の「エース」が投入された形となった。
昨年夏の幹部人事では、大幅な改正が予想された年金制度改革の仕切り役として「年金局長」への起用も取り沙汰された間氏だったが、現時点で一番難航が予想される局長ポストの1つ、老健局長に収↘まった。
間氏の同期、鹿沼均氏は全世代型社会保障制度改革担当の政策統括官に就任。菅義偉前首相秘書官を務め、菅氏からの信望が厚い鹿沼氏は間氏と並ぶ「エース」と称える声も有る。人事に詳しい幹部の1人は「来年は伊原氏が事務次官に昇格し、その後は90年入省組で事務次官を回す事になるだろう」と予想する。
医系技官では、医務技監の福島靖正氏(87年、↖旧厚生省入省)が勇退し、内閣官房新型コロナウイルス等感染症対策推進室長だった迫井正深氏(92年、同)が昇格。こちらも想定内の人事だが、首相官邸関係者は「首相官邸の要請で迫井氏の異動が1年先延ばしになった影響だ」と明かす。健康局長には大坪寛子・大臣官房審議官(08年、厚労省入省)が抜擢された。コロナワクチンの対応など難題が残されている為だと見られる。薬系技官のトップ、医薬担当の大臣官房審議官には吉田易範氏(90年、旧厚生省入省)が昇進した。
一方で、老健局長だった大西証史氏や医薬・生活衛生局長を務めた八神敦雄氏ら旧厚生省出身の87〜88年入省組が軒並み退官の憂き目に遭った。特に大西氏は内閣総務官も務め、「出世コース」に乗っていたとされたが、「加藤勝信厚労相からの評価が今いち高くなかった」(別の省幹部)事が影響したと見られる。
伊原氏の事務次官昇任が秒読みの段階に入ったと共に、将来的に旧労働系にも事務次官ポストが回って来る可能性が高まった幹部人事と言えよう。
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