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広島サミットをファクトチェック 日本の国際的地位を高める契機に

広島サミットをファクトチェック 日本の国際的地位を高める契機に
三山 秀昭(みやま・ひであき)1946年富山県生まれ。69年早稲田大学法学部卒業後、読売新聞社入社。ワシントン特派員、編集局政治部長等を経て、2011年広島テレビ放送社長。17年同顧問(現職)。その他、広島日仏協会会長、広島大学特別招聘教授。

今年5月に行われたG7広島サミットでは、米、英、仏にインドといった核保有国が広島に集まっただけでなく、ウクライナのゼレンスキー大統領も電撃出席する等、改めて世界が核兵器の恐怖や平和について考える契機となった。2016年にオバマ米大統領(当時)が現職大統領として初めて広島を訪れてから7年。当時、外務大臣を務めていた岸田文雄首相にとっても、今回の広島サミットは非常に満足行く結果となったのではないだろうか。そのオバマ大統領の訪日にも深く関わった元読売新聞政治部長で広島テレビ放送顧問の三山秀昭氏に、広島での定点観測者として今回の広島サミットの総括や今の日本の課題等について聞いた。


——今回のG7広島サミットをどう評価しますか。

三山 これ迄核保有国の現職リーダーで広島を訪問したのはオバマ氏だけでした。ニクソンやカーターも来ましたが、彼等が来たのは大統領の任期外です。それが、今回は米、仏、英の首脳に加えて、G20のインドの首相も平和公園で献花をした。「現職」首脳は核の発射権限を持つ一方、核軍縮を進める決断が出来る立場なので、その意味は極めて重いのです。これは49回目を迎えたサミットの歴史の中で画期的な事です。そして、ウクライナのゼレンスキー大統領もサミットに参加した。被爆地としての「ヒロシマ」を横軸とすれば、ウクライナ問題という縦軸が有って、これが交わった。侵略されている国のトップリーダーがサミットに参加するのも初めての事です。国際的な注目度も非常に高いサミットになりました。

——核保有国の首脳が揃って慰霊碑に献花をした事は意義深い。

三山 今回は米英に加え、仏、印の首脳も訪れたのが大きな成果です。フランスはNATOの一員であり、欧米諸国として一括りにされますが、米英とは一線を画す傾向が有る。イラク戦争の時も参戦に反対し、米国は有志連合という形で開戦せざるを得なくなった。核に対する考え方も他の国と違い、原発大国でもある。ですから、マクロン大統領の広島訪問には相当な根回しが必要だった。インドも嘗ては、米ソの核実験に反対していたが、政権が変わって核保有へと舵を切った。そのインドも広島に来た。今、グローバルサウスの雄と言われるインドが広島を訪れたのは大きな出来事です。もう1つ付け加えると韓国です。原爆では朝鮮半島出身者も数多く犠牲となりました。彼等の慰霊碑が出来たのが戦後25年経った1970年。しかし川を挟んで公園の対岸だったので、公園内に移そうと言う話が持ち上がったのですが、反対運動が起きた。朝鮮半島に対する差別意識も有ったのでしょう。ようやく公園内に移設されたのが99年でした。しかし、韓国大統領はこれ迄誰一人としてここを訪れなかった。その理由は中国も同じですが、「戦争中、日本は中国、韓国で酷い事をした。日本は原爆の犠牲の側面ばかりを訴えるが、中国や韓国でして来た事を忘れていないか」という思いです。そうした感情が根強く、中国と韓国の首脳は広島や長崎を訪れていなかった。それが、今回、尹錫悦大統領と岸田首相が2人並んで慰霊をした。これは日韓関係で歴史的な事です。

——政府も相当な準備をしたのでしょうね。

三山 地元の広島市も被爆者団体も岸田首相も3点セットに拘りました。広島サミットは伊勢志摩や北海道や沖縄の様なリゾートサミットではありません。平和公園を訪れなくては意味が無い。そして、原爆慰霊碑への献花と資料館の視察、存命中の被爆者の証言を聞く事、この3点セットを実現させなければならなかった。オバマ大統領の資料館訪問は10分でしたが、今回は40分です。中には1時間以上滞在した首脳も居たし、カナダのトルドー首相は再度資料館を訪れた。更に3点セットは、招待国8カ国に加え、ゼレンスキー大統領も受けてくれた。これを成功と言わないでどうしますか。それに、サミット後、広島では日本人だけでなく、欧米の旅行者が急増しています。単なる観光ではなく、資料館を見て帰る。それは原爆被害の実相を知る事です。そうして原爆の被害を知る人が世界中に広がる。これも今回のサミットがもたらした効果だと思います。

——地元広島での評価はどうですか。

三山 広島には大小含めて色々な被害者団体が有ります。その為、今回のサミットに対しても様々な意見が有る。私は「評価しない」「不十分だ」と言う声が取り上げられ過ぎではないかという気もします。今回、首脳等に被爆体験を話したのは小倉桂子さんという85歳の女性です。彼女は独学で学んだ英語で、切々と自らの被爆体験等を語り、首脳等に「人間として感じ、自分の事として追体験して欲しい」と求めた。それに対し、各国の首脳らは小倉さんに握手を求め、労いの言葉を掛けました。彼女は「達成感の様なものを感じた」と言っています。被爆者や被爆2世の人の中でも今回の成果を評価している人は多い。その事は全国の人に知って欲しいと思います。

台湾有事に備え外交力が求められる日本

——2016年に『オバマへの手紙』、昨年は『世界のリーダー185人 ヒロシマ、ナガサキで発した「言葉」』を出版されました。

三山 僕はオバマ氏の広島訪問に或る程度関わっていますから、『オバマへの手紙』では当時の事を書き残しました。オバマ氏は核軍縮に向けた演説でノーベル平和賞を受賞した。しかし「演説だけでノーベル賞を貰えるのか」という思いも有り、広島訪問を実現させたかった。だが米側は、現職大統領が広島を訪れると謝罪を求められるのではないかと心配していた。勿論、原爆被害者の中にはそれを望む人も居ます。しかし、多くの人は遺恨や謝罪を乗り越えて被爆地広島へ来て、軍縮と平和に向けたメッセージを発して欲しいと思っている。その思いを伝えれば、オバマ大統領も来易くなるだろうと考えました。そこで被爆者や市民から集めた「オバマへの手紙」1472通を持ってホワイトハウスを2度訪れました。又、被爆米兵を調査・追悼していた森重昭さんの存在を直に伝えました。これがオバマ氏の広島訪問に繋がった事は事実で、それはオバマ氏と森さんのあの抱擁シーンが雄弁に物語っています。オバマ氏は広島からの帰国後、核の先制不使用宣言を検討したのですが、これには核の傘の下に居る日本や韓国やNATOが反発した。そしてトランプが大統領になると、米国はアメリカファーストの国となり、オバマ的なものは全て壊してしまった。今はバイデン政権がそれを元に戻し始めていますから、今回のサミットの流れは今後も継続させて欲しい。日本がサミット議長国を務めるのは12月31日迄ですから、国際政治の中でリーダーシップを果たさなければなりません。

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