健康保険証をマイナンバーカードと一体化する改正関連法が6月、成立した。「マイナ保険証」の誕生に伴い、厚生労働省は今の健康保険証を2024年秋に廃止する。
ただ、健康保険証の早急な廃止はマイナカード普及の旗振り役、河野太郎・デジタル担当相に押し込まれた面が否めない。同省内からは「取り残されて無保険になる人が出兼ねない」との危惧の声も漏れて来る。↘
東京23区の東部を訪問看護している女性看護師は、認知症や寝たきりの独居患者を十数人受け持っている。こうした患者の中でも身寄りの無い人はケアマネ等が健康保険証を預かり、管理しているケースが多いという。急遽病院に運び込まれた際等に必要となる為だ。
今の健康保険証は申請せずとも手元に届く。それがマイナカードは原則、本人による申請が必要だ。更に暗証番号が有り、税や病歴など個人情報に紐付いている。女性看護師は「認知症で申請意思を確認出来ない人も居る。暗証番号は誰が決めるの? 個人情報の塊の様なカードを誰が管理するの? 本当、国のやる事は出鱈目だわ」と怒りを露わにする。
国は本人申請が難しく、成年後見制度を利用し↘ていない人について、代理人による申請を認めてはいる。多くは支援者や介護職の人達が申請し、管理する事になると見られる。
しかし、横浜市で活動するケアマネは「万一失くしたら大変だ。管理責任が重過ぎる」と言い、マイナカードを預かる事に尻込みする。このケアマネが出入りする介護施設の中には、入居者の健康保険↖証を一括管理している所も有る。こうした施設では職員等が代理申請し、マイナカードを管理する事になりそうだが、ケアマネは「ただでさえ忙しい介護職に更に事務仕事を押し付ける事になる。暗証番号なんて管理出来ますかね。問題が起きるのが目に見える様です」と疑問を口にする。
医師で作る全国保険医団体連合会(保団連)が全国の高齢者施設を対象に実施したアンケートによると、回答した1219施設の内、マイナカードの代理申請に対応出来ない、という施設が93%に達した。人手不足等が主な理由だ。又、暗証番号、マイナカードの管理について問うたところ、「出来ない」との回答が94%に上った。やはり、紛失時の責任が重い事を理由に挙げる施設が多くを占めた。
尤もマイナカードの申請は任意であり義務ではない。「マイナ保険証はマイナカードの取得義務化だ」との批判を受け、厚労省はマイナ保険証を持たない人向けに健康保険組合等から「資格確認書」を交付する事にした。マイナ保険証が無くとも保険証として使える。
資格確認書も原則は本人による申請を求めている一方、加藤勝信・厚労相は本人や代理人による申請すら難しい人について「(行政等が一方的に行う)職権交付など必要な対応をする」と語っている。
実際、マイナカードの申請確認が難しい様な人達は資格確認書を受け取る事になる、と厚労省幹部は見ている。ただ有効期限は最長1年と短く、事務が繁雑になるのは必至。申請意思の有無を見極め、どの時点で職権交付に踏み切るのか等の判断は難しく、混乱が予想されるという。マイナカードを巡っては、自治体によって他人の情報が紐付けられたり、ポイント付与にミスが生じたりと各地でトラブルが続いている。厚労省の中堅官僚は「資格確認書もスムーズに行くとは考え難い。交付漏れが起き、無保険状態に置かれる人が出るのでは」と懸念している。日本の役所の底力が試されている。
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