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第175回 政界サーチ 梅雨入り前の〝解散風〟その正体は?

第175回 政界サーチ 梅雨入り前の〝解散風〟その正体は?

統一地方選と同時に実施された衆参補欠選挙が4勝1敗とほぼ合格点だった岸田文雄・首相の周囲で解散風がそよぎ続けている。「そよぐ」は漢字表記だと「戦ぐ」。文字通り政権選択の戦いになる総選挙の有無が、梅雨入り前の国会周辺の話題の中心になっている。早期解散論と時期尚早論の両論が並び立ち甲乙付け難いが、解散風が止まない様子を見ると、岸田首相の念頭に「解散シナリオ」は有る様だ。

 早期解散論は昨年末から囁かれていた。G7広島サミットで世間の注目を集めた上で、一気に解散・総選挙に持ち込むというシナリオだ。囁いたのは岸田首相の側近だとされる。

 狙いは自民党内のうるさ型への牽制である。解散を匂わせる事で自民党内の異論を封じようと考えたのだ。つまり、この時点では、今一つ党内に睨みの利かない現状を打破しようというブラフ(脅し)の色合いが強かった。複数の調査で、内閣の不支持率が支持率を上回る窮地に立った岸田政権には「伝家の宝刀」をチラつかせる位しか、打つ手が無かったのだ。

 年明けには、小泉純一郎・元首相や二階俊博・元幹事長ら小泉政権時代の与党幹部が「今年は衆院解散は出来ない」との見方で一致したという情報が流布され、安易な解散論に冷や水を浴びせた。

 ところが、春になって新型コロナウイルスが終息の気配を見せ始めると、東京・永田町の空気感が変わり始めた。コロナの減衰に歩調を合わせる様に内閣支持率が好転し始めたのだ。

コロナ終息気配で支持率上昇

 4月の調査では、テレビ朝日調査で支持率45・3%(前回比10・2ポイント増)、不支持率34・6%(同4・4ポイント減)、読売新聞・日本テレビ合同調査でも支持率47%(同5ポイント増)、不支持率37%(同6ポイント減)で、共に支持が不支持を上回り、不支持率が支持率を上回る逆境から脱した。

 内閣支持率が低く出る傾向を持つ毎日新聞調査では支持率は36%(同3ポイント増)と微増だったが、不支持率は56%(同3ポイント減)と下降。産経新聞・FNN合同調査では支持率50・7%(同4・8ポイント増)、不支持率44・7%(同3ポイント減)になり、昨年8月調査以来、8カ月ぶりに支持率が不支持率を上回った。

 いずれの調査も、岸田首相が遊説先で爆発物を投げ込まれた事件の直後であり、首相という職制への同情が集まった側面は有る。ただ、政策面でも「異次元の少子化対策」等は評価する声が目立った。岸田首相に近い中堅議員は「岸田さんは強運なんですよ」と相好を崩しながら、支持率のうんちく話を始めた。

 「コロナの出口が見え始め、株価等も好転しつつある事が最大の要因でしょう。ずっと暗闇に居たんだから、光が見えたらプラスの感情になる。防衛費増や異次元の少子化対策は、その必要性は分かっていてもコスト面で国民を不安にさせたが、コロナが終わって経済が回り始めれば何とかなる、とプラス思考で考える。支持率って言うのは内閣うんぬんじゃなくて、時流に大きく左右される。時流に乗れる首相こそ強い首相だと思うな」

 言いたい事は理解出来るが、いつもは「そんな数字に何の意味が有るんですか。世論調査に一喜一憂せずが正しい政治の道」等と逃げているのに勝手なものである。

 さて、この中堅に政局を展望して貰った。結論から言うと、〝早期解散有り得べし〟である。

 「政府は6月中旬迄に経済財政運営と改革の指針(骨太の方針)をまとめる。それ迄に、異次元の少子化対策の具体策を煮詰めなければならないが、それが終われば環境は整う。最短なら、6月27日公示、7月9日投開票の線ですか。岸田さんはああ見えて、豪胆です。有り得ると思うな」

 同じ質問を自民党長老の1人にしたら、ギロリと睨まれた。   

 「4勝1敗。数字の上では勝ちなんだろうが、中身が悪い。この流れで解散に走ったら馬鹿だな。サミットは見た目は派手だが、国民にはあまりピンと来ない代物だ。足下をしっかり見てから、決断しないと危うい事になる」

早期解散に立ちはだかるモノ

長老が気にしているのは自民党の地盤の脆さだ。

 「山口4区は安倍元首相が10万票前後を取っていたが、後継候補は半分の5万票だ。同2区は岸信夫・前防衛相の圧倒的地盤なのに、野党候補に5000票差に迫られた。参院の大分も僅か341票差。千葉5区は、野党が乱立していたから勝てただけで、立憲に1本化されたら完敗だった。野党もそこは十分学習している。このまま、選挙力を検証する事無しに突っ込めば取り返しが付かない事になる」

 話は敗れた和歌山1区にも及ぶ。

 「世耕弘成・参院幹事長や二階元幹事長らがいながら、日本維新の会に持って行かれた。〝世耕・二階戦争〟による保守地盤のがたつきが原因だが、そんな場合は党本部が仕切るのが習わしだ。岸田内閣の支持率はうなぎ登りらしいが、岸田・自民党は河童の川流れだ。選挙体制が緩くて、戦う体制になっていない」

 早期解散論には自民党以外の障壁も有る。昨年、統一地方選に備えて党首の世代交代を先送りした公明党だ。異例の8期目を迎えた山口那津男・代表の下、「全員当選」を掲げて統一選に臨んだが、結果は1555人を立てて、12人が落選した。候補者に占める落選者の割合は約0・8%。普通の政党なら、上々の成績なのだが、地方選を重視し、「勝てる候補しか出さない」とされる公明党にとっては惨敗の結果だった。

 支持母体・創価学会の高齢化に伴う組織力の低下が背景に有るというが、自民党幹部は独特の見立てをしている。

 「嘗ては、疫病が流行れば宗教は頼られるべき存在だった。病魔退散の神事や祈祷が山ほど有るのがその証拠だ。コロナはどうだったかというと、祭りは見送られ、神社仏閣はクローズされた。そこに、統一教会問題が降って湧いた。国民の心が宗教から遠ざかって当然だろう。公明党はその煽りを食ったんだ」

 公明党はそもそも同じ年に統一地方選や東京都議選と衆院選が重なるのを嫌う。支持者らが選挙疲れになり、思う様な結果が出ない為だ。地方選での敗北直後の衆院解散には当然、反対の立場だ。

 公明党幹部が語る。

 「公明党の牙城だった近畿が怪しくなっている。大阪市議会で維新が単独過半数を達成した事で状況が変わった。力を得た維新は公明党の協力が不要になった。総選挙になれば公明党現職がいる選挙区にも対抗馬を立てる可能性が有る。そうなれば相当厳しい」

 組織力の低下とライバル政党の急伸に対応すべく、「当面は党の立て直しが優先であり、早期の衆院解散には反対」というのが公明党・創価学会の共通認識だという。

 自民党長老は「首相の腹次第で如何様にもなるが」と前置きして、こう述べた。

 「衆院解散の選択肢が広がり、政権運営がし易くなったのは事実だろう。でも、解散には大義が必要なんだ。〝何となく負担増お願いします〟じゃ大義にならん。早期は難しい。年末の増税論議が本格化する前段階、今年秋の臨時国会辺りが山場じゃないか。来年の自民党総裁選での再選への布石としても頃合いだしな」。岸田首相が否定しても、永田町には、不思議な「解散風」が吹く。

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