コロナ前の受診・入院の水準を取り戻せるか
5月8日、新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置付けが、「2類相当」から、季節性インフルエンザ等と同じ「5類」に変更され、入院に対応する医療機関が拡大された。3年以上に亘ったコロナ禍により医療機関の経営は大きな影響を受けたが、一転、「コロナ体制」からの脱却という新たな試練を迎えている。政府は、診療が可能な医療機関数を、3月時点の約1.5倍に増やす事を目標に掲げられた。入院では、約3000の医療機関がコロナ病床を確保していたが、コロナ病床としての位置付けが廃止されたのに伴い、国内に約8200とされる全病院に受け入れを求める。発熱外来は全国に約4万2000在ったが、インフルエンザと同レベルの約6万4000医療機関への拡大を目指す。
補助金終了で、深刻な状況が浮き彫りに
患者の負担は増え、外来医療の窓口支払い分は原則自己負担となったが、経過措置として9月まで高額なコロナ治療薬は公費負担。入院医療費は、年収等に応じた高額療養費制度の適用で減額となる。10月以降の扱いは、夏の感染状況を見て再検討される事になる。
保健所による入院調整の終了に伴い、各医療機関で患者の入院先を調整する必要が有る為、診療報酬に新たな加算項目も設けられた。行政が担っていた入院調整を医療機関が行う場合、「救急医療管理加算1」950点が算定される。入院先、診療情報を示す文書を添えて患者を紹介し、「診療情報提供料I」を算定する医療機関が対象で、外来患者の新規入院の他、入院中の感染者も同じ取り扱いとする。救急医療管理加算を算定出来るのは、本来、休日・夜間の救急医療を確保する為の診療を行っている医療機関に限られるが、入院調整の対象患者にのみ算定する医療機関は、この施設基準をクリアしていると見なし、施設基準の届け出も求めない。
これ迄コロナ禍に対応していた医療機関は、深刻な問題と直面している。手厚い補助金によって病院経営が一過的に潤い、それによって黒字化を達成した病院は少なくなかった。しかし、5類への移行で、発熱外来や入院に対応する医療機関に対する診療報酬の特例措置が段階的に縮小されるという厳しい現実に向き合っている。
2023年5月、日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会が公表した「医療機関経営状況調査」においては、コロナ補助金が無ければ、大半の医療機関で赤字が見込まれるという深刻な状況が浮き彫りになっている。医業収益ベースで見た赤字の医療機関の割合は7割を超えており、補助金が無ければ、22年度においては8割に迫る勢いだった。
この調査は、医療機関の経営状況を厚生労働省に提示し、それを考慮した診療報酬改定となるよう進める事を目的に、電子メールで調査票を配布して実施、回収された。4月5日時点の有効回答数は630病院(有効回答率15.6%)で、21年度(21年12月、22年1月、2月)と22年度(22年12月、23年1月、2月)の医業損益等について、各3カ月分の合計額を比較した。
調査結果の概要は、以下の通りである。先ず、医業利益、経常利益共に赤字病院の割合が前年度よりも増加していた。医業利益の比較では、21年度、22年度共に赤字病院の割合が7割を超え、22年度は前年度より3.5ポイント増加した。経常利益では、赤字病院の割合が前21年度より8.3ポイント増加した。経常利益から、コロナ・物価高騰関連の補助金を除くと、21年度、22年度共、赤字病院の割合は約7割に達した。22年度の赤字病院の割合は、前年度より4.4ポイント増加した。医業収益と医業費用の比較では、費用の伸びが収益の伸びを上回った。電力、ガス、水道等の光熱費は、前年比で4割以上増加した。21年度、22年度共、赤字病院の割合が7割を超え、経常利益においても補助金が無ければ殆どの病院が赤字経営となる異常な状態にある。報告書は、現在の診療報酬は、構造的な問題が有ると言わざるを得ず、安定的な医療提供体制を確保する為には大幅な入院基本料の引き上げが必要である、と結論付けている。
背景には、光熱費や諸物価の高騰、更に人件費増加等の問題がある。一般企業であれば、コスト増加分を価格に転嫁する事が可能だが、診療報酬という一律の公定価格に縛られた医療機関は、そうは行かない。3病院団体では、こうした状況への対応を国に強く求めて行く方針である。
開業医を苦しめる「受診控え」
開業医にとっても、5類移行後の経営は先行き不透明である。長崎県保険医協会が会員に対して実施したアンケートでは、5類移行後の経営について、「不安」と答えた機関が6割を超えた。この調査は23年3月から4月にかけ、県内1437の医療機関を対象に行われ、196機関(医科161、歯科35)の回答があった。
経営見通しについて、医科は「大いに不安」12.4%、「少し不安」50.3%、歯科は「大いに不安」が8.6%、「少し不安」57.1%だった。保険収入について、コロナ禍前の19年と22年の保険収入を比較すると、医科は「大幅に減った」11.2%、「減った」35.4%に対し、「大幅に増えた」5%、「増えた」27.3%だった。
診療・検査医療機関(発熱外来)の届け出の有無により、回答には差があった。医科では届け出のある医療機関は、4割が増加していたのに対し、未届けの医療機関は66%で減少していた。保険収入の増加要因は「発熱外来」「ワクチン接種」、減少要因は「受診者数の減少」等。背景には、受診控えがあるとされ、5類引き下げで特例措置が縮小され、受診控えが解消しなければ、経営悪化は避けられないと見られている。
コロナ患者の受け入れを増やす必要もあるが、コロナ疑い患者に対応しようにも、医療機関には、ベッドの空き状況を確認出来るシステムや、感染している可能性のある患者と他の患者の動線や診察場所を分ける等、適切なゾーニングも求められるようになり、何かと物入りである。効果的で負担の少ない感染対策に、飛沫等の浄化、高性能マスクの使用を検討し会話で患者と20cm以上の距離を取るといった対応もある。こうした出費に対しては補助金も検討されており、茨城県では院内に追加配置する浄化装置等の購入を補助する。
独自の支援策を講じる自治体も
医師会として、独自にポストコロナに於ける患者サービス向上の為の取り組みを始めた所も有る。愛知県医師会は、産婦人科の医師や助産師を対象に新型コロナウイルスの抗体を保有しているかを調べる検査を実施している。新型コロナに感染した妊婦は、医療関係者への感染予防の観点から、地域中核病院で帝王切開となるケースが多かったが、抗体を有するスタッフであれば再感染も重症化もし難い。医療スタッフへのリスクを抑えつつ、コロナ患者を受け入れ易い勤務体制の整備という点で、好ましい取り組みとなるだろう。
医療スタッフを支援する体制作りに於いてとりわけ深刻なのが、看護師の確保である。日本看護協会の調査結果では、21年度に病院で働き始めた新卒看護職員(看護師、助産師、保健師、准看護師)が同年度内に退職した割合(離職率)は、10.3%と1割を超え、前年から2.1ポイント増加した。調査は、8165病院の看護部長を対象に昨秋実施し、2964病院から回答を得た(有効回答率36.3%)。日看協では理由について、COVID-19の感染拡大によって、医療現場に不安や関連が生じた影響を指摘する。尚、経験者の離職率は16.8%で、前年比1.9ポイント増加で、高水準のままである。
コロナ対応ばかりを続けて来た中で、医療従事者の意識改革を含めた再研修も必要となって来る。感染拡大初期に、福祉医療機構が貸し付けを行っているが、その返済も遠からず到来する。コロナ以外の患者の外来や入院の水準を回復出来るか、正念場を迎えている。
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