SHUCHU PUBLISHING

病院経営者のための会員制情報紙/集中出版株式会社

未来の会

コロナワクチンの過剰確保と廃棄の背景

コロナワクチンの過剰確保と廃棄の背景
国民の8割が接種した大規模事業は検証フェーズへ

新型コロナウイルスのワクチンの確保量が妥当だったかを巡る報道が相次いでいる。会計検査院は、厚生労働省が8億8200万回分を確保する際に作成した資料に数量の算定根拠が十分に記載されていなかったとする報告書を3月29日に発表した。それに先立つ18日には、毎日新聞が独自調査として、7783万回分のワクチンが使用されずに廃棄されていた事を暴いた。新型コロナの感染が国内で確認されてから3年が経過し、新型コロナ行政は検証のフェーズに入っている。

 検査院の報告書を簡単に紹介したい。検査院によると、ワクチン事業の決算状況は、2020年度が7728億円、21年度が3兆4298億円の計4兆2026億円で、予算に対する執行率は68・4%。このうち、ワクチンの確保には2兆4718億円を要した。ワクチンは政府が製薬会社と供給契約を結び、都道府県の人口や流行状況などに応じて割り当て量を決める。政府は20年10月〜22年3月に、米ファイザー製3億9900万回分、米モデルナ製2億1300万回分、英アストラゼネカ製1億2000万回分、米ノババックス製1億5000万回分を契約した。

 報告書等によれば、厚労省は4社の供給可能数量や開発失敗の可能性等をシミュレーションして考慮したとしているが、資料には契約の経緯や計算式など算定根拠となる記述が不足し、妥当性を検証出来ないという。ワクチンの在庫管理で、厚労省がメーカー側の倉庫にどの程度の在庫が有るかをリアルタイムに把握していなかった事も判明した。

 又、メーカーへの返品対応も調べたところ、国が受け取る返金額について「厚労省は金額の妥当性を確認していなかった」と指摘。例えば、アストラゼネカとは同社が示した返金額をそのまま受け入れていたと見られる。

2000億円超のワクチン廃棄に賛否両論

 検査院は「確保数量が必要数に比べて著しく過大なら、キャンセル料の支払いや廃棄といった不経済な事態が発生し兼ねない。算定根拠を確認出来ない状況は適切ではない」と指摘。今後、緊急の場合でも算定根拠資料を作って保存し、事後に妥当性を客観的に検証出来る様にすべきだと求めた。検査院は何故、この様な報告書をまとめたのか。大手紙の社会部記者は「多額の国費が投入され、国会や報道で様々な議論がされている中、国民の関心が高いと検査院は判断した様だ。ただ、算定根拠が分からなかった為、廃棄やキャンセルが生じたとしても適切かどうかを判断出来ない内容となり、やや踏み込み不足の印象は否めない」と明かす。

 検査院よりも一歩踏み込んだ内容の報道をしたのが、毎日新聞だ。毎日新聞は3月18日のウェブ版で、「コロナワクチン、少なくとも7783万回分廃棄 2000億円超か」と題した記事を配信した。

 記事では「厚労省の公表資料や全国の主要な自治体へのアンケート集計で割り出した」と明記。更に廃棄されたワクチンの購入費用も推計した。その方法に用いたのが、財務省が公表している、購入予算額(2兆4036億円)を総契約数(8億8200万回分)で割った2725円を掛け合わせるやり方だ。記事中に厚労省幹部の「2725円を掛け合わせて廃棄されたワクチンの費用の総額を算出する事には反対は出来ない」というコメントも引用した。

 特に興味深いのが、メーカー毎の廃棄された数量だ。モデルナ社製は約6390万回分、アストラゼネカ社製は1358万回分に上り、廃棄の大半を占めた事だ。自治体へのアンケート結果から、廃棄の理由として有効期限切れや副反応を警戒する接種控えが有った事等を明らかにしている。

 この記事はヤフーニュースでも大きく取り上げられ、多くのコメントが寄せられた。ワクチンの廃棄を「無駄遣い」と政府を指弾するコメントの他、「緊急事態だからやむを得ない」と擁護するものも見られた。中には、反ワクチン派が我田引水した様な中身のコメントも有り、「ワクチン 廃棄」がツイッターのトレンドに入る等大きな注目を浴びた。ツイッターでも「もったいない。これが全て税金なのか」「問題は誰も責任を取らない事。これを指示した政治家は言い分があっても辞職するべき」等と政府を批判する声も有ったが、「余裕を持って用意すべきなのでこれくらいが通常でしょう」「余るほど製造した事でワクチンが十分に行き渡ってとてつもない大勢の命を救ったので評価しています」等と擁護する意見も有った。

再発防止は難しくとも、求められる検証

では、この様な「無駄遣い」とも言われ兼ねない状況が生じたのは何故か。検査院でも触れている様に、世界的なワクチンの争奪戦が影響しているのは間違いない。ワクチン接種事業を取材している厚労省担当の大手紙記者は「値段や数量に関して、欧米との争奪戦の最中にメーカー側の言い値で買わされた可能性が高い。東京五輪もあり、政府はワクチン確保に躍起になっていた」と指摘する。更に「モデルナの廃棄が多かったのは、若い女性を中心に副反応が大きく報じられ、接種控えが起きた事に加え、有効期限がファイザーの18カ月に比べて9カ月と短かったのが特に大きい」と明かす。

 ワクチンの購入費用は厚労省がメーカー側と秘密保持契約を結んでいる為、交渉過程も含めて明らかにされていない。ただ、厚労省関係者は「調達の当初からモデルナやファイザー等複数のメーカーと交渉していた。海外の報道でも明らかになっていると思うが、アストラゼネカが一番安く、モデルナが一番高い。ただ、多く買えば単価を下げる等、交渉の余地は有った」等と振り返る。

 今回の様なパンデミックは100年に1度とも言える様な状況で、再発防止は難しいのかも知れない。加藤勝信・厚労相は3月31日の閣議後会見で記者から問われ、「今後、事後的に第三者が客観的に妥当性を検証出来る資料を作成する等、対応を行って行きたい」と述べるに留め、今回のコロナワクチンの検証には踏み込まない姿勢を鮮明にした。

 とは言え、ワクチンの接種後に死亡したり、副反応を訴えたりする人がおり、新型コロナが5類に移行し平時を取り戻しているとは言え、未だにワクチンに関する話題は耳目を集めている。特に死亡した人の内、因果関係が否定出来ないとして死亡一時金が認められたのは41人に上る。審査を待っている遺族は多数いるのも間違いない。

 また、ワクチン接種を巡る状況も変化している。WHO(世界保健機関)は3月29日、接種に関する新たな指針を公表した。定期的な接種を推奨するのは医療従事者、高齢者、基礎疾患の有る人、妊婦とし、半年又は1年毎の定期的な接種を薦める。一方で、60歳未満の健康な成人や基礎疾患の有る子供や若者には追加接種を1回まで推奨するに留め、健康な子供や若者は接種における公衆衛生上の効果は、はしか(麻しん)等の従来の子供向けワクチンと比べ遙かに低いとして、接種の判断を各国政府に委ねる等、ワクチンを巡る状況は接種当初に比べて大きく変化した。

 こうした状況下で、国民の8割が接種した壮大なワクチン事業に於ける、事後的な検証は不可欠と言える。厚労省を始めとした政府の取り組みに期待出来ないのなら、報道機関等による継続的な検証に期待したいところだ。

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

COMMENT ON FACEBOOK

Return Top