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未来の会

第91回 「日本の医療」を展望する世界目線 医師が組織に属するということ ⑤

第91回 「日本の医療」を展望する世界目線 医師が組織に属するということ ⑤

今回から、米国と日本の医師の差を、制度上の違いも加えつつ説明する。米国の医療制度は、この連載でも何度か説明しているので、ここであまり繰り返すつもりはないが、医師に関連する制度および状況については説明しておきたい。

例えば、かなり昔のことではあるが、日本でも聖路加国際病院などで一時期話題になったが、米国では基本、1人1人の医師が独立した形で病院と契約している。医師への診療報酬も「ドクターフィー」という形で、病院に支払われる報酬とは別に、医師の医療行為に対して基準に基づき支払われる。これは、米国の高齢者の公的保険制度であるメディケアの仕組みであるが、ほかの民間保険も似たような形である。

又、少し前から医師はグループ化するようになってきている。これはマネジドケアの仕組みにより民間医療保険側の支払い交渉が厳しいが、1人の医師では交渉力も弱い上、負荷が高すぎるということから自然発生的にグループ化したものである。同じ流れで、近年では医師が病院に勤務医として働く「日本型雇用」の形をとる院も増えてきており、メイヨー・クリニックのような大規模でエリアに1つしかないような病院によく見られる。臨床の世界で話題に出るホスピタリストと呼ばれる医師も、卒後研修および専門医としてのフェローシップを終了してそのまま病院に勤務するというスタイルである。こうした制度を念頭に置いた上で、筆者が以前に感じたことを記載していく。

医学教育の差

日米の医学教育における1番大きな差は、日本の大学教育にあたるUndergraduate Educationを受けて卒業していないと、米国では医学部に入学できないということである。他にもロースクール、ビジネススクールがこのようなスタイルをとっており、大学と大学院が明確に区分されている。このスタイルのために、日本では18歳で医師になることを決断するのに比し、米国では22歳以降で決定することになる。企業に勤めたりする経験を持って医学部に入学する人も多い。

医師になってからの教育

医師としてのキャリアパス形成も、日米で大きな差が見られる分野である。一般に、日本の医師キャリアの最終目標は医学部教授か大病院の院長と考えられていた。そのため開業医は、医学部教授になれなかった医師のする仕事、あるいは大病院の院長になるための一過程という考え方があった(現在では価値観の多様化により変化も見られるが、それでも筆者にはこの考え方は根強く残っているように感じられる)。

その一環に、卒後研修の問題がある。これを米国の制度と比較すると、日本の問題点が浮き彫りにされるであろう。米国の研修制度の特徴は、一言で表すと実学の重視である。まず、米国の医師は目的がはっきりしており、それに対応するキャリアパスが明確である。これは特に研修制度に顕著で、インターンの後、一般医になるためのレジデントがあり、一般医になりたい者はここでそのための訓練を受けるか、あるいは自分でオフィスを持つ。専門医になりたい者は、専門医になるためのシニアレジデントになり、さらに専門の訓練を受けるというシステムである。

米国では、臨床医は専門医でもPh.Dを持っていないケースがほとんどである。これはMDが医学博士とみなされるためで、筆者も米国で「なぜ医学博士の肩書があるのに研究をしなければならないのだ?」と聞かれたこともある。

一方日本では、2年ないし数年の臨床研修が終わると、多くの医師がPh.Dを取るために大学に帰局し、基礎研究に従事する(近年では専門医資格が重視されるようになってきており、様子少しが変わった)。しかし、実際Ph.Dを取得した後、基礎研究に従事する者は少なく、大多数の医師は大学での医学博士取得後、大学に臨床医として、あるいは大学以外の大病院に赴任する。

日本の医師の転職や就職

では、医師の転職や就職の場合はどうだろうか。少なくなったとはいえ、就職・転職は、特に地方では、大学医局からの紹介を経ることが多い。この場合、2024年4月からの働き方改革がカギになる。というのは、そもそも医局への入局者が減っている状況のため、働き方改革によって、さらに大学病院以外へ医師を派遣したり紹介したりする機能が落ちると考えられるからだ。

尤もピンチはチャンスで、そもそも大学医局を見てではなく、病院を見て仕事をしてほしいという声はしばしば病院長から上がる。また、これを機に派遣ではなく直接雇用したいという病院も少なくはない。しかしこうなった時、個別の病院に直接応募する医師がなかなか多くないという問題がある。この場合には、医師向けリクルート会社を利用するという話になるのだが、ここが難しい。

医師のリクルート会社は昔から存在していた。ネットが活用される前には、雑誌に求人情報が載っており、そこで気に入った案件があれば電話をするという形であった。この頃は、先ほど来言及している医局制度が厳しかったので、こうしたルートで就職したりアルバイトの仕事を探すのは特殊な場合であった。しかし、ネット環境の充実と医局の権限の縮小とが相まった現在は、全く状況が変わっている。求人サイト自体、旧来の雑誌から始まった会社ではなく、新興のネット系の企業が中心になり、サイトやサービス上で情報を探すようになっている。いわゆるマッチングである。また、時代の流れに即し、この業態への参入障壁が下がったことにより、多くの会社が参入してきた。しかし、新規で参入してきた会社は、その数が多くなれば多くなるほど、待っていても登録する医師はやって来ないので、いかに医師にアクセスするかが重要になってきた。そのため、多くの医師会員を抱えているメディア系の会社の勢力が強くなっている。今や、大学教授でさえネットで公募されるようになり、こうした会社は欠くことができない存在になった。

一方、病院の側ではどうか。医師を雇用する場合には技術が重要視されることが多い。もちろん、雇用する医師を選べるような有力病院の場合には、技術に加え、人柄を見る。ここでいう人柄とは、その病院の風土にマッチしているかということも含まれるので、単に人がいい、という話ではない。こうなってくると、ヘッドハンター側にもかなりの情報が必要になるが、医師の転職の場合には、通常そこまでの話にならない。特に最近では、ネット系の会社に登録して転職することが多いので、なおさらである。

ただ、医師のような高額所得者の転職の場合には、仲介業者に成功報酬で支払う金額がばかにならない。紹介する企業の立場から見れば、おいしい仕事といったわけで、ますます乱立するし、病院の立場から言えば、どうしてこんなに高い報酬を支払わねばならないのだ、という声にもなる。

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