虚妄の巨城 武田薬品工業の品行
株主らが長谷川閑史に突き付けた質問状の中身
「武田の一番長い日」──2014年6月27日を前社長・長谷川閑史はかろうじて乗り切った。
英国の製薬大手、グラクソ・スミスクライン出身でフランス人の最高執行責任者(COO)クリストフ・ウェバーのへの社長禅譲を画策。だが、4月には糖尿病治療薬「アクトス」の発がんリスクを隠していたかどで米連邦地裁の陪審が60億ドル(約6100億円)もの懲罰的賠償金の支払いを命じる評決を出す。
ARB・ブロプレスの臨床研究「CASE‐J」事件に続き、東京大学医学部附属病院長・門脇孝が研究代表を務める糖尿病治療薬ネシーナの臨床研究「J‐BRAND」への疑惑も持ち上がった。「2010年問題」での出血はいまだ癒えていない。それでも経済同友会や政府で長谷川は「政治ごっこ」に興じ続けた。「社長」の肩書きにしがみついたままだ。
そもそも創業家である武田一族には外国人社長誕生へのアレルギーが強い。株主総会を前に武田の周辺がざわつく材料は山積の状態だった。
会場は大阪市浪速区のボディメーカーコロシアム。株主4141人が出席した。ウェバーの社長就任の前提となる取締役選任議案など7議案を可決。3時間4分の長丁場となった。
総会前には100人を超える株主や元従業員らが質問状を取締役会に提出している。質問状はウェバーの社長就任を「外資の乗っ取り」と断定。長谷川体制の下、武田がひた走った路線を子細に検証する内容を含んでいる。総体としては本誌がかねて指摘してきた通り、武田はもはや純粋な日系企業とはいえないとの観点に貫かれている。
質問状の名義人は外国人社長に反対する株主の一人、原雄次郎である。原は1940年代に武田と合併した小西薬品の創業家の。かつて武田の不動産部門で幹部職にあった経歴を持つ。
ミレニアム社の買収は「失敗」
本誌は質問状の全文を入手した。例によって武田取締役会からはまともな回答はなされなかった。とはいえ、いや、だからこそ、この質問状は国内最大の製薬企業が直面する課題を検討する上で裁量の材料となり得ると確信する。 〈冠省 私は、貴社株主として、第138回定時株主総会に先立ち、下記の点につき、質問いたします。なお、本内容証明郵便とは別に私に賛同して共に質問権を行使する株主のリストを貴社に交付致しますので、ご査収ください。下記質問は、それらの株主リスト記載の株主が質問したものとしてお取扱いください〉
「株主リスト記載」の株主数は112人。その保有株式は2〜3%程度とみられる。ウェバー社長就任を覆すにははるかに及ばない数字だ。
〈質問番号1 米国ミレニアムの投資効果及び責任の所在
①2008年3月にミレニアム社を8800億円で買収したが、その後6年が経過した現在において、ミレニアム社単体で、累計で幾らの経常利益があったか回答されたい。
②8800億円もの投資をしてミレニアム社を買収したが、その金額に見合った成果は無くこの投資は失敗であることは明らかであるが、その投資の失敗の原因は誰にあると武田薬品は考えているか回答されたい。
③武田薬品として、その投資の責任者の責任を追及する予定があるか否か、あるとしたらいつ、どのように追及するのか、もし責任追及を行わないというのであれば、そのように判断したのは誰か、また責任追及を行わないとした理由を回答されたい〉
〈質問番号2 スイス・ナイコメッドの投資効果及び責任の所在
①武田薬品は、2011年3月にナイコメッド社を1兆1800億円という高額で買収したが、そもそもナイコメッド社は誰からの紹介だったのか回答されたい。
②ナイコメッド社の買収金額の妥当性については事前の買収監査を行ったか否か、もし行ったとすれば、いつ、誰からの紹介で、誰に依頼したのか回答されたい。
③ナイコメッド社買収から、既に3年が経過するが、累計で幾らの経常利益があったか回答されたい。
④長谷川社長は、買収時においては、日本人を社長に据えると明言しながら、実際には2013年11月末に急遽スカウトした外国人を社長にすると発表したが、その理由は買収後において十分なコントロールが出来なかったことにあったのか回答されたい。
⑤買収後において十分にコントロールが出来なかった責任は、誰にあると武田薬品は考えているか、また、その者に対する責任追及は、いつ、どのような方法で行うのか回答されたい。
⑥新薬メーカーによるジェネリック会社の買収は第一三共のインド・ランバクシー社買収の失敗例を待つまでもなく無謀というべき暴挙といっても過言でなく、また同社買収の目的と説明されている発展途上国での販売力獲得についても、ジェネリック医薬品と新薬の販売は異質のものであり、買収効果は殆ど期待できない。多くのアナリストおよびマスコミ報道の指摘にも拘わらず、ナイコメッド社への投資効果および買収後に明らかになってきている諸問題について武田薬品の経営陣から納得のできる説明がなされていない。そこで、武田薬品として、投資効果および買収後の諸問題についてどのように考えているのか回答されたい〉
ノバやキリンと異なる武田の対処
臨床研究不正を受け、ノバルティスファーマは第三者機関による調査を実施。3月には幹部を総退陣させる人事を断行した。協和発酵キリンの社外調査委員会は7月11日、調査報告書を公表。営業担当社員が患者の同意を得ずに、医師から個人情報や研究データを入手した行為について「道義的非難を加えるべきだ」と批判している。同社は同日、問題発覚時に営業本部長だった西野文博が31日付で引責辞任すると発表。営業担当を含む社員7人を処分した。長谷川閑史は社長を退いたものの、いまだ会長職にとどまり続けている。
次号では質問状の文章を適宜引用しながら、独自取材の結果も加味し、武田が本来提示すべきだった「回答」の姿を模索してみたい。
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