アートの力で温かみのある医療を
233 筑波メディカルセンター病院 (茨城県つくば市)
白い壁に覆われた無機質な廊下で不安を抱きながら検査を待つ患者の前を無表情の医療スタッフが足早に通り過ぎて行く——病院ではよく見られる有り触れた光景に、1人の医師がこのままで良いのかと疑問を持ったのが2006年。そこから、筑波メディカルセンター病院のアート・デザイン活動は始まった。
活動を提唱したのは当時のセンター長、故・中田義隆氏で、彼は「この場所に患者さんがほっとするようなものを作れないか」と当時、筑波大学教授でありプロダクトデザイナーの蓮見孝氏に相談。蓮見氏も賛同し、07年3月から筑波大学生有志等によるアート・デザイン活動がスタートした。
最初のプロジェクトは、廊下の壁を使って作品を展示する「アートギャラリープロジェクト」で、フェルトで作った種を音符に見立てて並べ音楽を表現したり、鳥を象ったオブジェを天井に飾り、多くの鳥が羽ばたく光景を表現したりした。同プロジェクトは以降11年迄続き、9回の作品展示を実施。その後も、外来待合に、庭や公園で咲く花の写真をモザイクの様に組み合わせた作品を展示した他、職員や学生に加え、患者も参加出来るワークショップを開いて、院内の様々な場所に作品を展示している。
学生有志でスタートした活動は、11年からは非常勤のアートコーディネーターがマネジメントを担い、更に18年からはNPO法人チア・アートが担当。医療現場をリサーチし、職員と積極的に意見交換する等して、患者が心を和ませ、医療従事者も生き生きと働ける環境作りに貢献している。
この活動は年々領域を広げており、病院内で使用する家具や日用品を使い易くするアイデアも提案。滑り止めの付いた病院食用トレーシートや仕切り、葉の形を模したサイドテーブル等を製作した。病院の顔となるエントランスにも、来院する人達がリラックス出来る空間にする為、地元産のヒノキ材を使ったベンチや記入台等を設けた。
コロナ禍の20年には、医療スタッフが懸命に治療に当たる姿を紹介する事で患者や家族に安心感を得てもらおうと、写真展「病院のまなざし」を企画した。医師や看護師ら医療スタッフが働く姿を撮影した写真71点を院内に展示したところ好評を博し、翌年の夏には茨城県内の商業施設等で巡回展も開かれた。
筑波大の学生等との交流も続いており、毎年、職員と学生の交流会「アートカフェ」を開催。学生や担当職員が活動内容を報告し、意見を交換する事で、互いにエンパワメントし、新たなアイデアを生み出す貴重な場となっている。
今後は、培ってきたアート活動を研究的な視点でも捉え直し、対外的な発信も視野に入れて行く。対話のプロセスを重視したアート・ワークショップや空間デザインで、病院内の環境改善に取り組むモデルケースを目指している。
233筑波メディカルセンター病院 (茨城県つくば市)
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