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米中露の「3帝国」が衰退する新時代 日本が世界に存在感を示す鍵とは 一般財団法人日本総合研究所 会長、多摩大学 学長 寺島 実郎

米中露の「3帝国」が衰退する新時代 日本が世界に存在感を示す鍵とは 一般財団法人日本総合研究所 会長、多摩大学 学長 寺島 実郎

 

寺島 実郎(てらしま・じつろう)1947年北海道生まれ。73年早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了後、三井物産入社。同社ワシントン事務所長、常務執行役員、三井物産戦略研究所会長等を歴任。09年多摩大学学長に就任。現在、一般財団法人日本総合研究所会長。

新型コロナの蔓延やロシアによるウクライナ侵攻等で始まった2022年は、世界の転換点となる様な1年となった。ウクライナ侵攻で大国としての威信を失墜させたロシアに、習近平一強体制を築いたかに見えたものの、早くも綻びが覗き始めた中国。そして、分断の進行に歯止めが掛からない様に見える米国。大国がそれぞれ深刻な弱点を抱える中、今後の世界は何処へ向かうのか。そして、日本はどの様な進路を取れば良いのか。外交から内政まで幅広く提言を行っている一般財団法人日本総合研究所会長で、多摩大学学長の寺島実郎氏に、ロシアや中国、米国の現状や世界情勢、日本の将来について大いに語って頂いた。

——ロシアによるウクライナ侵攻と現状について、どう見ていますか。

寺島 ロシアという国の本質がはっきり見えました。1つはロシアが異様な迄の核大国だという事です。世界に1万2700発有ると言われている、所謂、戦略核弾頭のうち約半分をロシアが持っていて、冷戦構造の残影を引き摺っている。そして、あまり追い詰めると開き直って核を使うのではないかという「核のジレンマ」で他国に恐怖を抱かせる。その意味では間違いなく核大国なのですが、一方で産業小国だという事も露呈してしまった。軍事的には核大国だが、通常兵器のレベルはさほど高くはありません。軍事の専門家のレポートを読むと、ロシア製兵器に関する信頼度がもの凄い勢いで落ちて来ている事が分かる。経済についてもエネルギーや食料を産出する資源大国である一方で、それらに付加価値を付けて産業化する力は弱い。侵攻開始から10カ月が経過しましたが、制裁と孤立によってロシアの経済は行き詰まりを見せています。何故かと言うと、半導体に象徴される部品・部材等が入手困難になって来ている為です。しかも、この制裁と孤立は1年や2年では終わらない。この国が国際社会の信頼を失ってしまったのは間違い無く、10年20年で回復出来ないのは確実でしょう。核大国でありながら孤立を深め焦燥感を高めるロシアをどう制御して行くのかが、今後、世界的な課題になって行くと思います。2022年を振り返ってみると、この1年で「3つの帝国」の衰退が進行したと思っています。3つの帝国の1つは勿論ロシアです。ロシアは「大きな北朝鮮」と言われ、一点豪華主義で核兵器だけ握り締めながら、衰亡して行くでしょう。多くの国からの信頼を失い、開き直って周囲を恫喝するだけのような国になり果ててしまった。国民にとっては悲劇であり、悲惨な状況でしかないのですが、結局はならず者の国の末路とも言えます。

——後の2つの帝国とはどこですか。

寺島 2つ目は中国です。一見、習近平の一強支配体制が盤石になった様に見えますが、衰退は既に始まっています。3つ目は、敢えて帝国と呼びますが米国です。21年、アフガニスタンでタリバン政権が復権したのにも拘らず、米国は動かなかったし、動けなかった。今もウクライナを応援している様で、それ程強力には支援していないという状態です。嘗ての米国だったら、何らかの形で踏み込んでいたと思うのですが、踏み込もうともしない。23年1月からは、下院で共和党が多数を占める様になりますから、益々ウクライナへの支援がやり難くなる。米国は23年以降、内政面でもエネルギーを消耗し、分断を深めて行くでしょう。

国外の華人・華僑らに見放されつつある中国

——中国の衰退も始まっているのですか。

寺島 国内的に脆弱な部分が露呈し始めている様に見えますね。習近平は社会主義に相当拘っている。先日、米国の外交・国際政治雑誌『フォーリン・アフェアーズ』が中国について「レッドチャイナの復活」と表現していました。そこまで言い切るか、とは思いましたが、上手い表現ですよね。確かに以前の改革開放路線から「共同富裕」という言葉を掲げる様になって、社会主義への拘りを感じます。この部分は、中国のロシアとの決定的な違いで、ロシアは社会主義に対して一片の郷愁も示さない。プーチンはむしろ社会主義を嫌悪しているのか、絶対にその言葉を口にしません。彼は社会主義では無く、宗教、つまりロシア正教で国を束ねようとしています。だから、プーチンはレーニンのレの字も持ち出すこと無く、エカテリーナ2世やピョートル大帝等ロシア帝国の英雄の名前を持ち出して政治を語る。一方の中国は、マルクス生誕200周年を祝う等して未だに社会主義に拘っています。

——中国の衰退はどの辺りから感じますか。

寺島 これ迄の中国は改革開放路線によって経済発展を実現して来ました。ところが、レッドチャイナへの回帰によって6〜7%の成長軌道は望めなくなり、3%を割り込む様な所まで落ちた。そして、共同富裕を実現する為に、テンセントやアリババに象徴される様な新興の、今後の経済を牽引して行く筈だった企業も抑圧して来た。周りから見れば、習近平は新たな毛沢東を目指している様に見えます。するとシンガポールや香港、台湾等の大陸から離れた各地の華人・華僑ネットワークの中核に居た人達が離れて行くと思います。彼ら、所謂オーバーシーズチャイニーズの人達は、これまで中国本土の成長を様々な面からサポートして来たのですが、中国が強権を振りかざして香港を抑圧し、台湾に襲い掛かろうとしているのに対して、明らかに距離を取り始めている。オーバーシーズチャイニーズの離反は今後、中国にとってかなりの重荷になって行く筈です。第2の毛沢東を目指す習近平の心象風景と、去り行くオーバーシーズチャイニーズの力学の中で、改革開放時代から続いていた中国の成長が終焉を迎える訳です。

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