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どうする?「ギフテッド」支援

どうする?「ギフテッド」支援
来年度から始まる本格支援を前に教育現場は

ギフテッド、と呼ばれる子供達が居る。日本語では「特異な才能」等と訳され、その言葉通り、何かに秀でた才能を持つ子を指す。その突き抜けた才能を伸ばせば、貴重な人材となるだろう一方で、横並びの日本の学校教育に馴染めず才能が発揮出来ないままのケースも有り得る。文部科学省はこうした特異な才能を持つ子供の支援を2023年度から本格化させるが、どの子供が「ギフテッド」に当たるのか、どうやって才能を伸ばせば良いか、教育現場では戸惑いも広がっている。

 「平均的な学力は高くなくても、或る分野に凄い能力を発揮する子供は居る。でも、その子が『ギフテッド』に当たるのか、私には判断出来ないし、全体の中でどう才能を伸ばせば良いか分からない」と戸惑うのは、都内の小学校教諭だ。

 文科省がギフテッドの子供達をどう支援して行くか、有識者会議を立ち上げたのは昨年6月の事。全国紙の文科省担当記者は「これ迄に14回の会議を開き、今年9月26日に提言をまとめた」と解説する。「ただ、文科省としてはギフテッドという言葉は使わず、『特定分野に特異な才能のある児童生徒』と表現している。提言も、あくまで学校教育の中でそうした子供の指導や支援をどうすべきであるかという内容に終始した」(同記者)。

 具体的な今後の取り組みとしては、特異な才能の有る子供に対する教員の理解を進める為の研修、授業に留まらない多様な学習の場の充実、教員が子供の特性を把握する為のサポート等が挙げられており、文科省は来年度予算に関連予算を計上する方針だ。

 だが、そもそも「ギフテッド」「特異な才能の有る子供」と言っても、どの様な子供が当て嵌まるのか。その定義は曖昧だ。

海外のギフテッド支援事情

 「海外には、知能指数(IQ)130以上といった基準を設けている国も在る。しかし、そうした定義を示す事は、特定の子供達のラベル付けになってしまうとして、今回の提言では踏み込まなかった。これにより、幅広く拾う事が出来る可能性は有るが、現場の教員の裁量によって支援が受けられる子供とそうでない子供が分かれてしまう恐れも有る」と都内の教育関係者は指摘する。別の教育関係者はもっとはっきりと、文科省の方針に疑問を呈する。「日本の教育は横並びで、出来る子を出来ない子に合わせる傾向にある。海外では逆で、才能の有る子を早期に選抜し育てて行く。有識者会議は、算数や芸術等の分野で特異な才能がある小学生約500人の内28%に不登校やその傾向が有ったという先行調査を基に、支援が必要だと結論付けた。だが、支援が必要な子であると〝問題児〟扱いする事が、その子の可能性を狭める事に繋がらないか」。

 諸外国ではギフテッドの子供に対する〝支援〟がどの様に行われているのか。

 韓国では、英才教育振興法という法律が有り、才能を持った子供を選抜して育てる仕組みを採っている。選ばれた子供達は、科学高校や英才教育院、英才学級といった選ばれし者達専門の教育機関で教育を受ける。選ばれる子供の割合は、約1・8%とされる。中国やシンガポールでも同様の選抜は行われており、シンガポールでは小学生に共通の試験を行い、全体の約1%を選抜して才能を伸ばす教育を施す。

 勿論、ギフテッドへの特別な教育が行われているのはアジアだけではない。ここまで厳格な選抜方式ではないものの、米国では才能有る子供への教育が盛んだ。州毎に異なるものの、中等教育の段階の子供に大学レベルの授業を受ける機会を与える「アドバンスト・プレイスメント」や、所謂「飛び級」等の様々な制度が有る。学校の中だけを見ても、コンテストや放課後を利用した授業の拡充等が行われており、全米の公立学校に通う児童生徒の内、平均で6・7%が才能教育のプログラムに参加しているとのデータも有る。もっとも、州毎に見るとその割合は0・3〜16%と大きく異なっており、熱心な地域とそうでない地域が在る事が窺われる。

 「日本の教育現場は、韓国の様な選抜式の英才教育を嫌う。有識者会議が日本の目指す形として提言したのは、米国より更に緩やかな支援を行っているフィンランド。一部を選抜して伸ばすのではなく、様々な個性を持つ全体を支援して行くという、平等に拘る日本らしい選択だ」(前出の全国紙記者)

 提言によると、フィンランドでは1990年代から、子供達の多様性を尊重し、児童や生徒のニーズに合わせたクラス編成やプログラムが提供されている。だが、才能の有る子供達の定義は無く、どの様なプログラムを提供するかといった教育内容も、個々の教師に任せられている。

「特異な才能の有る子」の定義は

「日本でも、例えば先進的な理数系教育を行う高校を『スーパーサイエンスハイスクール(SSH)』に指定し、理数系人材の育成を図る等の施策は行われて来た。今回の提言はそうした施策を更に充実させるというより、特異な才能があるが故に学校に馴染めない子供をどう学校の中で支援して行くかという議論に終始した。結局のところ、現場任せ、教員の質次第、という印象が拭えない」と、関東地方の予備校講師は率直な印象を語る。更に、「仕事柄、付き合いの有る教員達は皆熱心だが、仕事が多過ぎて、きめ細かな支援に迄手が回らない印象だ。又、個別の生徒に対して他と違う指導をする事への保護者からの反発も大きそうだ」と教員の立場を慮る。

 確かに、個々に合わせた教育というのは、しっかり説明出来なければ周囲に「依怙贔屓」といった印象を与え、いじめ等に繋がり、それが不登校の原因にもなり兼ねない。「一定の基準に基づいて子供達を〝選抜〟し、教育の場を分ける事は、才能ある子供達をいじめ等から守る効果もあるのではないか」とこの予備校講師は語る。実際に提言の取りまとめの前に行ったパブリックコメントには、「対象となる子供をはっきり示して欲しい」という要望も複数有った。一方で、IQの数値等で示す事で、「ギフテッドの基準に入ろうと過当な競争を煽る」と危惧する意見も有る。

 都内の個人指導塾の講師は数年前、学校の数学のテストでいつも97点や98点と僅かに満点に届かない生徒を担当した。「普通の子が5段階で答えを導くとしたら、その子は2段階で答えに辿り着いてしまう数学の才に秀でた生徒だった。ところが、いつも先回りして答えてしまうのを担当教諭に疎んじられ、間の計算を飛ばして解答した事に難癖を付けられ減点されていた」のだという。「頭の中で直ぐに解けてしまう計算式を敢えて記入するよう指導しながら、これで良いのかと自問自答した。その後、生徒は授業料を払うのが厳しいと塾を辞めてしまった」と講師は振り返る。

 「皆と同じ様にする、が日本の教育の基本。経済力の有る家庭なら私立に進学する事も出来るが、そうでない子は公立の選択肢しかない。日本では学歴がその後の人生に関わって来るから、中学や高校でドロップアウトしてしまうと進学や就職でも〝負け組〟となる。国が取り組むべきは様々な道からチャンスを与える施策であり、それこそが真の平等ではないか」(同講師)

 教育は国の未来を作る。対応を迫られる現場の教員の苦労が忍ばれる。

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