目標値設定はBS普及の切っ掛けになるか
バイオシミラー(BS)とは、先行バイオ医薬品(先行品)の後続品である。特許期間、再審査期間の失効または終了後に、先行品と同等/同質の品質、有効性および安全性を有する医薬品として、先行品とは異なる製造販売業者が開発する医薬品で、先行品の7割という低価格で販売されるという点で、低分子後発医薬品(ジェネリック医薬品、以下GE)と似た特徴を持っている。しかし、BSとGEとを同じ物とするのは適切ではない。
必要だが進まないバイオシミラーの普及
BSの有効成分は、構造が複雑な高分子(タンパク質やペプチド)で、分子構造に不均一性が在り、様々な構造を持つ分子の集合体として得られる。製剤は新薬と同様に品質特性の解析データを取得し、先行品と比較・検討して同等性と同質性を確認しなければならない。その為開発製造コストが高く、現在迄に承認されたBSは36原薬16成分(2022年8月現在)と、バイオシミラー先進地域である欧州と比べると数は少ない。更に先行品は次々と特許満了を迎える。医薬品の安定供給の面からも国内開発製造が望まれている上、国民医療費に占める薬剤費の高さから、BSの普及推進は日本の必須課題だが、医療従事者も含めた国民の認知度は低く、開発も普及も現状は上手く進んでいるとは言い難い。この事については、日本ジェネリック医薬品・バイオシミラー学会第16回学術大会のシンポジウム3で「バイオシミラーの普及促進に必要なこと」として大きく取り上げられた。
普及に取り組んでいる各方面の声から
宮崎大学病院薬剤部より、現場での取り組み状況の報告が在った。宮崎大学病院では18年より病院全体でBS使用推進に取り組んでいる。
「先行品とBSの導入前後の処方量モニタリングを中心に各薬剤に応じた対策を取った。BSには先行品と適応症が同じ物と異なる物が在る。同じ場合は先行品、BSのみのモニタリングでは十分でなく、代替薬についてもモニタリングする必要が有る。先行品をBSに代えるのではなく、代替薬を処方する場合が有るからだ。異なる場合は並行導入の為適応症が合う症例に対しても切り替えが進まない。処方量モニタリングのみでは思う様に進まず、『……使用促進の為に適応症が無い症例に使用する場合を除き、病院長の許可取得後の使用に限定……○○(先行品)のレジメンは削除する……』という厳しい院長名の院内周知を出したところ進んだ。どの薬剤もBS導入後、不安感不信感の為か一時的に処方量は激減した。医師に薬剤師が『BSは臨床試験も経ていてしっかりしたエビデンスが在る』と説明する事で回復した。適応症が同じ場合はレジメン制御(BSしか処方出来ない様にする)でも行った(取り組みについては『ジェネリック研究』に一般論文として掲載されている)。薬剤師業務の変遷で病院薬剤師業務は多岐に亘って来ているが、病院経営への貢献にも着目し、着手しても良い所と考えている」と説明する。
国立医薬品食品衛生研究所(国衛研)は、BSの信頼性を得る為に品質評価についての検討を行っており、その報告が在った。「幾つかの製品でロット間差やトレンドが観察されたが、殆どの評価項目で有効性及び安全性に著しく影響するとされるロット内変動は認められなかった。試験結果の差が有効性・安全性に影響を及ぼさない範囲か否かの一般則は無い。先行品との比較というより一般的に抗体医薬品ならこの試験の値はこの程度というデータの蓄積、分析法の性能からこの程度のばらつきは許容出来るという考え方で判断している。承認後の生産で臨床試験での品質特性が恒常的に維持されている事が重要だと考えている」との事であった。
質疑応答で「評価結果が芳しくなかった物については何らかの対処が行われる筈だが、良かった場合についても紙上論文発表(発表者より予定との発言有り)のみでなく、BSの有効性・安全性のエビデンスの公表の為に皆がアクセス出来る様な場に公表して欲しい」との発言が有った。「ホームページでの論文PDF掲載、学会等で発表回数を増やす事を考慮したい」と言う。
他に日本バイオシミラー協議会への報告としては、「BSの使用意義(患者のバイオ医薬品へのアクセス向上、持続可能な社会保障制度への貢献、国内バイオ産業の強化と複数原薬ソースによる安定供給確保)を叶える為の在るべき姿として、BSがGE並みに受け入れられる事、使用促進策を促し事業予見性を明確化する為の数値目標が導入される事、開発費のコストダウンが図られる事が考えられている。研究開発費のコストダウンの方法としては、臨床開発プログラムの省力化が挙げられる。薬価下落で採算が取れず、生産されなくなったBSがあるが、この事は1社だけの問題ではなく、協会としても大きく問題にしている。BSはGEの50〜100倍の開発費が掛かる上に、先行品とも異なり投資分を回収出来ず、原価割れするのも早い。現行の薬価制度に対応しつつ、どの様に動けば良いのか業界でも模索中である。現行の薬価制度が続くと将来的に使う薬が無くなってしまうと危機感を抱いている」「『経済財政運営と改革の基本方針2022』でBSについて、『医療費適正化効果を踏まえた目標値を今年度中に設定し、着実に推進する』が盛り込まれた事を1歩進んだと思っている。目標値はGEと同じ数量での測定はそぐわないと思われるが、これを機にアクションプランの議論・導入、普及啓発活動の強化、産業への参入が進む事を期待している」と話す。
バイオシミラー普及への道
BS普及の為に必要な事は3つ在る。
先ず医療従事者を含めた国民への普及啓発活動の充実である。BSの特徴は前出の通りであるが、有効性・安全性に対する不安が完全には拭い切れていないのが現状である。地道な周知、普及啓発を続ける他に、日本ジェネリック医薬品・バイオシミラー学会第16回学術大会のシンポジウム3でも取り上げられていたが、国衛研が実施している「バイオ後続品製剤の品質評価に関する検討」を継続し、その科学的な結果データを公表する事で、特に医療従事者が持つ、有効性・安全性に対する不安を払拭して行くのが一番確実ではないか。
又、安定供給の為にも日本国内でのバイオ産業を強化し、国内の生産力を上げる事も必要である。韓国でバイオ産業が伸びたのは大々的な国のバックアップが在った為と聞く。日本の社会保障に関わる事なので、やはり国の支援は必要なのではないだろうか。
更に、既存の制度を踏まえたインセンティブの導入も欠かせない。BSについては既に20年度、22年度の2度に亘って診療報酬改定でバイオ後続品導入初期加算が導入されている。高額医療費や指定難病制度を使う場合のBSへの切り替えが進んでいないとの指摘が有った様に、原因に応じた、患者・医療従事者双方への新しいインセンティブの導入も望まれる。
GEも当初の目標値は数量シェアで30%(当時としては倍増)であったが、21年9月薬価調査時点で数量シェア79.2%を達成している。医療従事者を始めとする国民のBSへの認識もGE導入以前に比べるとそのハードルは低くなっている筈である。適切な手段を用いる事で認知度は確実にアップするだろう。目標数値の設定、アクションプランの作成、数回の処方箋様式の変更、処方箋記載方法変更、診療報酬での加算……と様々な方法でここ迄来た。既にGEという良いモデルが在る。設定が待たれている目標値がGEと同様の「数量」ではそぐわないと言われている様に、全く同じ様には行かないであろうが、適切な1つ1つの積み重ねで必ず成し遂げられる事の様に思われる。日本ジェネリック医薬品・バイオシミラー学会を始めとした、関係各位に期待したい。
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