内閣改造直後に突然の発表、背景に派閥事情と次期総裁選
安倍晋三・元首相の銃撃事件を切っ掛けに、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に改めて世論の関心が高まっている。こうした状況に機敏に反応したのが、河野太郎・消費者担当相だ。内閣改造直後に霊感商法に関する対策検討会を消費者庁に設置する事を表明し、政権内の旧統一教会対策を一手に引き受ける構図を作った。党内にもシンパが多く、舵取りの難しいこの問題は両刃の剣ともなりかねないが、敢えて検討会を立ち上げた河野氏の狙いとは何なのか。
発表は突然だった。内閣改造の2日後に当たる8月12日。閣議後記者会見で河野氏は突如、霊感商法の被害対応を検証する消費者庁の検討会を立ち上げるよう消費者庁に指示した事を明らかにしたのだ。そこで河野氏は「消費者庁の中で検討会を速やかに立ち上げたい。問題が起きない様、どういう対応をしたらいいか検討してもらおうと思っている」と意気込んだ。
矢継ぎ早に8月26日には検討会の初会合を8月29日に開く事を明らかにした。中でも注目を集めたのが、選任された委員の名前だった。旧統一教会の被害者救済に取り組んで来た紀藤正樹・弁護士やカルト問題に詳しい西田公昭・立正大教授の他、国会中継等で野党時代の追及が有名な元衆院議員、菅野(旧姓・山尾)志桜里・弁護士も含まれていたからだ。この3人に加え、河上正二・東京大名誉教授や芳野直子・日本弁護士連合会副会長ら総勢8人。主に法律の専門家で占められ、河野氏の並々ならぬ意気込みが伝わって来る。
河野氏はメンバー発表時の記者会見で「霊感商法等に関する消費者庁のこれ迄の対応をしっかりと検証し、被害の未然防止、被害の救済、事業者への対応について最近の動向を踏まえて議論して欲しい。スピード感を持ってやって頂きたい」と早速注文を付けている。大手紙記者は「当初、河野氏が立ち上げると表明した検討会は、自民党が旧統一教会問題をやってる振りを醸し出す為のものと思われたが、紀藤弁護士らメンバーを見ると意外や意外、本気のメンバーが揃っていて驚いた」と明かす。
旧統一教会からは「遠い存在」の河野氏
河野氏がここまで旧統一教会問題に切り込もうとしているのは何故か、という事を考える前に河野氏と旧統一教会との関係性を検証したい。自民党は9月8日、旧統一教会と接点の有る所属国会議員を公表。衆参両院の全379人から回答を得て、教団側と何らかの接点があったと確認したのは179人と明らかにした。一定の関係があったとして氏名を公表したのは121人に上った。
関連団体の会合や旧統一教会主催の会合に議員本人が出席したり、選挙におけるボランティア支援を受けたりした議員らは公表された。有名どころでは、武田良太・元総務相や逢沢一郎・元国会対策委員長、柴山昌彦・元文科相、加藤勝信・厚労相、萩生田光一・政調会長、石破茂・元幹事長、下村博文・元政調会長、稲田朋美・元防衛相、北村誠吾・元地方創生担当相、平井卓也・元デジタル担当相、山際大志郎・経済再生担当相、猪口邦子・元少子化担当相、山本順三・元国家公安委員長、磯﨑仁彦・官房副長官、井上信治・元科学技術担当相ら党幹部や閣僚経験者の名前が次々に記載されていた。しかし、河野氏の名前は無く、週刊誌報道で2004年7月に開かれた旧統一教会関連団体の創設大会に祝辞を贈っていた事が明らかにされたが、裏を返せば20年近く前の「接点」しか確認されていない。
自民党神奈川県連の関係者が声を潜める。「自民党の議員が旧統一教会と関わるのは、選挙に弱いから。票も有るし、ボランティアとして活動してくれる。電話作戦なんて皆やりたがらないが、信者は黙って働いてくれる。選挙に弱い議員にとってこれ程有難い存在はいない。河野氏が旧統一教会と付き合っていたというのは聞いた事が無い。事務所をきちんとコントロールする、悪く言えばマイクロマネージメントする先生だから、そこらへんはきっちりしていたと思う。河野氏の場合は地盤も看板もあったから旧統一教会からの支援は必要無かったのだろう。神奈川県内では同じ2世議員の小泉進次郎も似た様な状況だ」
多くの国会議員が接点を持つとされる中、河野氏は旧統一教会からは「遠い存在」だったと言えそうだ。こうした状況は当然、河野氏に有利に働いて行く。
迅速に立ち上げた検討会の初会合で、河野氏はこう言ってのけた。「霊感商法は物品の販売だが、寄付の問題も指摘されて来ている。消費者契約法のみならず、特定商取引法といった消費者庁が所管する法令の中でどの様な対応が出来るのか、遠慮無くご議論を頂きたい。消費者庁の担当の枠を超える場合には政府に対して提言をするという事になろうかと思いますが、境界を定めずにご自由にご議論を頂きたい」——この様な検討会に大臣自ら出席するのは異例の事だが、河野氏は毎回欠かさず出席しているというのだから熱の入れようは計り知れない。ここまで肩入れするのは何故か。背景に有るのは、派閥事情と次期総裁選だろう。旧統一教会の問題で、安倍晋三元首相という大黒柱を失い、更には旧統一教会との接点を多く指摘された最大派閥である清和政策研究会(安倍派)の力が弱まったのは明らか。のみならず、こうした接点を許した「派閥」という存在そのものも改めて忌み嫌われる切っ掛けともなり、世間的には派閥に所属するメリットも損なわれ兼ねない状況だ。「派閥の地盤沈下」と表現する永田町関係者もいる程だ。
河野氏が総裁選本命候補に躍り出る可能性
河野氏は麻生派に所属するものの、派内では決して主流派ではない。前回、総裁選出馬を派閥のドン・麻生太郎・元首相から止められているぐらいの存在だ。永田町で長年取材する政治部記者は「旧統一教会の問題で一番得をしたのが河野太郎だ。旧統一教会との接点も確認されておらず、派閥の主流派でもない。現在の内閣支持率を下げている要因とは一切関係が無い。世間には旧統一教会の問題にも消費者庁を使って切り込んでいる様にも見えている。選挙が近くなれば、河野氏を『選挙の顔に』と多くの議員が押し寄せるのではないか」と見る。
次期総裁選の出馬を狙う河野氏にとって、消費者庁を使って旧統一教会問題に徹底的に切り込めば切り込む程、自民党総裁の椅子が近付く状況になっているのだ。おまけに同じ神奈川選出の菅義偉・前首相も河野氏を支持するとみられる。菅氏周辺は「未だに河野太郎の事を気に掛け、会話の中に度々出て来る」と明かす。菅氏は派閥を持たないものの、無派閥の議員には一定の影響力を持っており、総裁選で応援するとなれば河野氏が本命候補に躍り出る可能性も有る。
手柄を横取りするかのように、岸田文雄首相も10月3日の臨時国会で、旧統一協会問題について悪質商法や高額寄付被害者を救済する為の消費者契約関連の法改正を検討すると表明し、巻き返しに躍起になっている。ただ、世間的にこの問題に熱心に取り組んでいる様に見えているのは岸田氏でも、自民党の調査を公表した茂木敏充・幹事長でもない。露出等を考えれば、紛れもなく河野氏と言えるのではないだろうか。消費者庁の霊感商法に関する対策検討会をこうした印象操作に使う事に河野氏は成功したと言える。実効性はともかく、消費者庁という中央省庁の中でも弱小とされる組織に設置した1つの検討会が、次期総裁選の行方を占うかも知れない。
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